教養としての力学-第4回:運動量と衝突の関係、自動運転が周囲の動きを予測する仕組み【高校物理をやさしく解説】
公開日
2026年5月6日
更新日
2026年9月20日
自動運転や衝突被害軽減ブレーキは、周囲の状況を認識して車の動きを制御する技術です。ただし、運転支援機能と、システムが運転を担う自動運転では、運転者の役割や利用できる条件が異なります。
車の動きを考えるには、位置や速度、加速度といった物理の知識が役立ちます。今回は、衝突や減速を考える際に使う「運動量」を説明します。
運動量を学ぶと、車の質量や速さと、止めるために必要な力との関係がわかります。後半では、運動量の説明とは分けて、自動運転が周囲の動きを予測する仕組みも紹介します。
この記事の主な内容
運動量とは何か?「重さ×速さ」で決まる勢い
運動量を一言で表すと、物体の「勢い」の大きさです。
運動量は質量×速度で表します。速度には向きがあるため、運動量にも向きがあります。同じ方向の運動を比べるなら、質量が大きく、速さが大きいほど、運動量の大きさも大きくなります。
身近な例で考えてみましょう。
同じ時速50kmで走る軽自動車と大型トラックを、同じ時間で停止させる場合を考えます。質量が大きい大型トラックの方が、必要な平均の制動力は大きくなります。
同じ軽自動車なら、速さが大きいほど運動量も大きくなります。同じ時間で止めるには、より大きな平均の制動力が必要です。
【専門用語の解説】運動量(うんどうりょう)
質量(重さ)と速度をかけ合わせた値のことです。
同じ速さなら重いものほど運動量が大きく、同じ重さなら速いものほど運動量が大きくなります。
単位はkg・m/s(キログラムメートル毎秒)ですが、今回はイメージをつかむことを優先しましょう。
運動量保存の法則:ぶつかった後に何が起きるか
物理には「運動量保存の法則」という重要な法則があります。
外から力が加わらない限り、ぶつかる前の運動量の合計と、ぶつかった後の運動量の合計は変わらない。
ビリヤードの球がぶつかる場面で考えてみましょう。
止まっている球に、転がってきた球がぶつかります。ぶつかった後、転がってきた球は遅くなり、止まっていた球が動き出します。これは「ぶつかる前の勢い」が「ぶつかった後の2つの球」に分配されたということです。
【専門用語の解説】運動量保存の法則(うんどうりょうほぞんのほうそく)
衝突の前後で、関係する物体の運動量の合計は変わらないという法則です。
「保存」とは「なくならない」という意味です。
運動量は衝突によって消えるのではなく、物体間で移り変わるだけです。

【図1】運動量保存の法則
自動運転はどうやって衝突を避けているのか
衝突の影響を考える運動量と、衝突する前に周囲の動きを予測する仕組みは、分けて理解しましょう。
自動運転では、カメラやレーダー、LiDARなどで周囲の状況を調べます。使用するセンサーの組み合わせはシステムによって異なります。たとえばWaymoは、車や歩行者の位置・速度・進行方向などを認識し、その後の動きを予測すると説明しています。
【専門用語の解説】LiDAR(ライダー)
Light Detection And Rangingの略で、レーザー光を使って周囲の物体との距離や形状を測定するセンサーです。
測定した情報は、周囲の状況を認識するために使われます。測定できる範囲は、機器の性能や配置によって異なります。
周囲の動きを予測するうえで重要なのは、物体までの距離、相対速度、進行方向、道路の状況などです。
システムは認識した情報を使って、車や歩行者が次にどこへ動くかを予測し、減速や進路の変更を計画します。周囲の物体の質量をセンサーで直接測り、運動量だけから衝突回避を判断する、という仕組みではありません。
たとえば前方の車が減速した場合、車間距離や相対速度の変化が、減速の判断に使われます。衝突を避けられるかどうかは、認識の精度に加え、車間距離や路面の状態、ブレーキの性能などにも左右されます。
車の質量や速さは衝突にどう関係するか
運動量の概念を使うと、交通事故の怖さも物理的に説明できます。
仮にトラックの質量が乗用車の10倍なら、同じ速さで走るときの運動量の大きさも10倍です。ただし、衝突による被害は運動量だけでは決まりません。衝突の向き、速度の変化、車体の変形なども関係します。
同じ質量の車では、速さが2倍になると運動量は2倍、運動エネルギーは4倍になります。ただし、衝突時の力まで一律に4倍になるわけではありません。力の大きさは、衝突で速度が変わるまでの時間などによって異なります。運動エネルギーは次回詳しく説明します。
運動量は、衝突前後の動きや停止に必要な力を考えるための量です。一方、自動運転の衝突回避では、周囲の動きを予測し、衝突しない進路や速度を選ぶことが必要になります。
自動運転で周囲の動きを予測する流れ
- センサーで周囲の物体の位置や速度などを調べる
- 車や歩行者が次にどこへ動くかを予測する
- 予測に応じて進路や速度を計画する
使うセンサーや制御方法はシステムによって異なります。
まとめ:運動量と衝突回避、それぞれの役割
今回学んだことを整理しましょう。
運動量は質量と速度の積で、向きも持つ量です。質量や速さが大きい物体を同じ時間で止めるには、より大きな平均の力が必要です。また、衝突中に外から受ける力の影響を無視できる場合、衝突前後で運動量の合計は変わりません。
自動運転では、周囲の物体の位置や速度などから、その後の動きを予測します。運動量による衝突の説明と、位置や速度を使った衝突回避の説明を区別しておくと、それぞれの役割を理解しやすくなります。
参考資料
Waymo:周囲の車や歩行者の動きの予測
トヨタ:Toyota Safety Senseの衝突回避支援
次回予告
第5回は「エネルギーと仕事」を取り上げます。太陽光発電や風力発電はなぜ注目されているのか。再生可能エネルギーの仕組みを、物理のエネルギーという概念から読み解いていきます。
<文/岡崎 凌>
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