スカイツリーの上は地上よりも時間が早く進む!?相対性理論とは
公開日
2020年4月7日
更新日
2020年4月7日
4月6日に、高さ450メートルの東京スカイツリー展望台の時間は地上よりも速く進んでいることを確かめたとする論文がネイチャーフォトニクス電子版で発表されました。
相対性理論という名前をご存知の方は多いと思います。
しかし、一体どんな理論なのか、その理論から何がわかるのか、何に使われているのかを理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、相対性理論とは何かをお話ししようと思います。
この記事の主な内容
相対性理論とは何か?
相対性理論とは、アインシュタインによって生み出された「空間と時間」に関する理論です。
日常生活の中で、退屈な時間を長いと感じたり、逆に充実した時間を短いと感じたりしますよね?
人間が感じる体感的な時間は変わりますが、それとは別にあなたが身につけている腕時計、またはスマホが刻む時間は常に一定の間隔で進んでいきます。いつでもどこでも1時間は1時間、日本での1時間と南極での1時間の長さは変わらない。長い間、そう信じられていました。そう、アインシュタインが現れるまでは。
相対性理論には「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」の2つがあります。
「特殊」という名前から「特殊相対性理論」の方が後の理論だと思っている方もいらっしゃるかも知れませんが、先に生まれたのは「特殊相対性理論」で、「一般相対性理論」の方が後から生まれた理論です。
今回のニュースは「一般相対性理論」の結果になります。
相対性理論で何ができるのか
「一般相対性理論」から導かれることは非常に豊富にありますが、今回の発表に関連する重大な事実は、
周りに重い物体があると、重力によって流れる時間が遅くなる
というものです。時間の進み方は一定ではなく、いる場所によって早くなったり遅くなったりするというのです。
果たしてこんなことがあり得るのでしょうか?
これが正しいなら、飛行機に乗っている人は地上にいる人よりも地球から離れていますので、時間が早く流れていることになります。(地球からかかる重力は地球から遠ざかるほど小さくなるため)
スカイツリーの展望台にいる人は、地上にいる人よりも時間が早く進むことになるのです!
非常に直感的で全く厳密ではないですが、ちょっとよく分からなくなった方は、皆さんが人と一緒にいる時の時間で考えてみましょう。
重苦しい雰囲気の人と一緒にいると、どんよりとして「いつ終わるのかな…」と時間の流れが遅く感じられます。
一方、仲の良い人と一緒に過ごしているときは、気持ちよく過ごせて、「もうこんなに時間が過ぎてしまった」と時間が早く感じられます。
周りにいる人によって、時間が短く感じられたり長く感じられたりするのです。
重力は物質の重さ(質量)が大きいほど大きくなりますので、太陽や地球など、天体のような大きな物質について扱う時、この事実は非常に重要になります。
さらに、一般相対性理論が必要なのは天体に限った話ではありません。
普段私たちが日常的に使用する、全地球測位システム(GPS)は、地球のはるか上空にある衛星と通信を行うため、一般相対性理論の効果を無視することはできません。
一般相対性理論を無視してGPSを利用しても、1日数十メートルのズレが生じてしまい、使い物になりません。
皆さんが地球上のどこにいてもすぐに場所が把握できるのは、紛れもなく相対性理論のおかげなのです。
アインシュタインは、重力によって時間と空間が歪むことを計算から導き出しました。
実際に宇宙に行くこともなく、重力とは何か、時間と空間とは何かをどこまでも考えて計算をして、頭の中で一般相対性理論を作り出してしまいました。当時に示した様々な予測が、顕微鏡やコンピューターを含む現代の技術革新によって、次々と証明されています(ブラックホール、重力赤方偏移、重力レンズ効果等)。
スカイツリーの展望台で時間がどのくらい速くなるのか計算してみた
それでは、スカイツリー展望台が、地上と比べてどれくらい時間が早くなっているかを計算してみましょう。
数式が得意でない方も、出てくるのは掛け算と割り算、平方根だけなのでご安心ください。
(苦手な方は結果だけご覧ください。)
重力を受けている人の時間の遅れは、次の式で計算することができます。
ここで、定数\(G,M,c\)それぞれの意味は、
\(G\):万有引力定数 \(= 6.67 \times 10^{-11} (\rm{m}^3/\rm{kg}\cdot\rm{s}^2)\)
\(M\): 地球の質量 \(=5.97 \times 10^{24} (\rm{kg})\)
\(c\): 光速\(=3.00\times 10^8 (\rm{m}/\rm{s})\)
となります。
\(r\)は重力源(地球の中心)からの距離になりますので、地上までの距離\(r_{\mbox{地上}}\)と、スカイツリーまでの距離\(r_{\mbox{スカイ}}\)における時間の遅れを計算します。
地上までの距離\(r_{\mbox{地上}}\)はそのまま地球の半径として、6,371 km = 6,371,000 mです。スカイツリーの高さ634mとのことなので、
$$r_{\mbox{スカイ}}=6,371,000+634=6,371,634(\mbox{m})$$
とします。
計算のために、重力を受けていない人、地上で重力を受けている人、スカイツリーで重力を受けている人が観測する時間を下記の通りとします。
\(t_0\):重力を受けていない人の時間
\(t_{\mbox{地上}}\):地上にいる人の時間
\(t_{\mbox{スカイ}}\):スカイツリーにいる人の時間
このとき、
$$t_{\mbox{地上}} = \frac{1}{\sqrt{1- \frac{2\times G \times M}{r_{\mbox{地上}}\times c^2 }}}\times t_0$$
となり、2つの式の辺々を割ると、
よって、スカイツリーと地上で観測される時間の関係は、
で求めることができます。
\(t_{\mbox{地上}}=1\)とすると、地上での1秒がスカイツリーで何秒になるかを求めることができますので、
0.999999999999931(\mbox{秒})$$
となります。つまり、地上とスカイツリーとの時間差は、
となります。非常に小さい数字ですね。
検算を兼ねて、この計算と実際に観測されたとされる数字と比較してみましょう。
計測は一週間行われ、1日あたり4ナノ秒速く進んでいるとの発表だったので、1日は24時間で、1時間は3600秒ですから、24時間を1秒あたりに直すと、
桁数は一致していますね。
今回の計算では自転や公転を考慮していなかったり、他の天体を無視していたりするなど、概算になります。
より詳しく知りたい方は、ぜひ一般相対性理論を学んでみてください。
また、和(なごみ)講師の石井俊全先生の一般相対性理論のテキストもおすすめです。しっかり数学的に一般相対性理論を解説しています。今回の記事の数式も出てきますよ!
一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する
石井俊全著 ベレ出版
まとめ
いかがだったでしょうか。
一般相対性理論を学ぶためには、微積分学や代数学を含めた高度な数学が必要になります。
ご興味が出た方はぜひ、この機会に勉強を初めてみてはいかがでしょうか。
和から株式会社では、相対性理論を含めた様々な数学の授業を行なっております。
それではごきげんよう。
明日も数学をお楽しみください!
参考にさせていただいた記事
・What is Gravitational Time Dilation
http://users.sussex.ac.uk/~waa22/relativity/What_is_gravitational_time_dilation.html
・東大・理研・島津製作所など、18桁の精度をもつ可搬型光格子時計の開発に成功(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP532327_S0A400C2000000/
・重力レンズ使った星の重さ測定に成功、ハッブル(NATIONAL GEOGRAPHIC)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/060900215/
・「アインシュタインは正しかった」 相対性理論の予言の一つを初確認(BB NEWS)
https://www.afpbb.com/articles/-/3183982
<文/岡崎 凌>
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