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ABC予想とは|望月新一氏のIUT理論と要点をやさしく解説

公開日

2020年4月4日

更新日

2026年11月2日

この記事について(2026年10月12日確認)
この記事は、望月新一氏の論文の掲載決定が発表された2020年4月に書いたものです。論文は2021年3月に専門誌PRIMSに掲載されましたが、証明の核心部分への疑問は解消されておらず、ABC予想が証明されたとは数学界で広く認められていません。

この記事のポイント

・ABC予想は1985年に提唱された「足し算と掛け算の間の深い関係」に関する予想
・主張:a+b=c と互いに素な整数に対して、c は abc の「根」 rad(abc) よりせいぜい少し大きい
・2012年に望月新一教授が「IUT理論」を提出、2020年に専門誌PRIMSへの掲載が決定(2021年に掲載)
・ABC予想の要点と他予想との関係を表で整理

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ABC予想とは

ABC予想とは、1985年にジョゼフ・オステルレとデイヴィッド・マッサーにより提唱された「足し算と掛け算の間の深い関係」に関する予想で、互いに素な整数 a + b = c に対して c は abc の「根」rad(abc) よりせいぜい少し大きい程度にしかならない、という主張です。2012年に望月新一氏(京都大学)のIUT(宇宙際タイヒミュラー)理論が提出され、2020年に「PRIMS」誌への掲載が決まり、2021年に掲載されましたが、国際的なコンセンサスは未だ確立していません。

ABC予想:a+b=c に対し c と rad(abc) の関係例1:3 + 8 = 11rad(3×8×11) = rad(264) = 2×3×11 = 66c=11, rad=66 → c は rad より遥かに小さい(よくあるケース)例2(レアケース):1 + 8 = 9rad(1×8×9) = 2×3 = 6c=9, rad=6 → c > rad になる「リッチ」ケースはだんだん珍しくなると予想主張:任意のε>0 に対し、c > rad(abc)¹⁺ᵉ を満たす例は有限個しかない
ABC予想:rad(abc)(“根”)と c の関係の例


2020年4月3日に、日本の数学界において非常に大きなニュースがありました。
数学で未解決だった難問「ABC予想」について、京都大学の望月新一教授の証明論文が専門誌に受理されたと発表されたのです!
2012年に証明を望月先生のWEBページで一般公開してから、なんと8年が経過してからの出来事です。

ですが、

  • ・望月教授ってどんな人?
  • ・「ABC予想」って何なのか?
  • ・なぜ8年もの年月がかかったのか?

など疑問に思っている方も多くいらっしゃると思います。
今日は、ABC予想をめぐるあれこれを少し紹介したいと思います。

ABC予想の証明を発表した望月新一教授とは?

まず、望月先生とはどんな人でしょうか?

望月先生は16歳でプリンストン大学に入学してから、23歳でph. D(博士号の学位)を取得しています。一般的に大学に入学するのは18歳、ph. Dを取得するのは27歳ですから、ものすごい早さで飛び級をしていることになります。
卒業後も、32歳の若さで京都大学数理解析研究所の教授に就任するなど、大のつく天才だったのです!

そんな望月教授が2012年8月に提出した論文が、ABC予想に関する内容でした。

ABC予想とは何か?

数学には未解決の問題がたくさんあり、それを「予想」と呼びます。数学者によって「予想」が証明されることで、はじめて「定理」と呼ばれるようになります。

ABC予想は1985年にジョゼフ・オステルレとデイヴィッド・マッサーにより提起された、数論という分野(数の性質を研究する分野)での予想です。

実際の予想の内容を覗いてみましょう。
数式が苦手!という方も雰囲気だけ見ていただければ大丈夫です。

ABC予想
① \(a+b=c\)を満たす、互いに素な自然数の組\((a,b,c)\)に対し、
② 積\(abc\)の「互いに異なる素因数の積」をdと表す。
③ このとき、任意の\(\epsilon > 0 \)に対して、\(c>d^{1+\epsilon}\)を満たす組\((a,b,c)\)は、
④ たかだか有限個しか存在しないであろう。

細かい数式部分は機会があればまたお話しするとして、この予想を理解する上で重要なポイントは①の\(a + b\)という足し算と、②の\(abc\)という掛け算(厳密には「互いに異なる素因数の積」)を、③で大小関係を比較している点です。

つまり、「足し算と掛け算の関係についての予想」、ということになります。

足し算と掛け算と聞くと一見簡単そうに感じてしまいますが、非常に奥が深く、実はまだ数学者の間でも分からないことがたくさんあるのです。

ABC予想が正しければ、人類は数論について考えるために必要な非常に強力な道具を手に入れることになります。「ABC予想が正しければ成り立つ」とされる予想が数多く存在しており、ABC予想の証明が完成すればそれらの予想も次々に解決されると言われています。

なぜ、8年もの年月がかかったのか?

一般的に学術誌に論文を投稿すると、出典に誤りがないか、論理に不足がないか等チェックを行い問題ないと判断されれば論文として掲載されます。これを査読と言います。
しかし、望月教授の論文は2012年に専門誌に投稿され、ウェブ上でも一般公開されましたが、査読にも、研究者たちによる検証にも、非常に長い時間がかかることになりました。

2012年時点ですでに研究者の間で天才・望月新一の名は知られており、数論の非常に重要なテーマであるABC予想ということもあって、世界中の数学者たちが一斉に注目しました。

そうして論文に目を通し始めた数学者たちは、皆一同に目を丸くします。

「この論文はなんだ?」

ここで当時の雰囲気を感じ取るために、望月教授が2012年に公開した論文のタイトルを見てみましょう。
四部構成からなり、全600ページ越えの大長編です。

  • ・Inter-universal Teichmuller Theory I: Construction of Hodge Theaters.
  • ・Inter-universal Teichmuller Theory II: Hodge-Arakelov-theoretic Evaluation.
  • ・Inter-universal Teichmuller Theory III: Canonical Splittings of the Log-theta-lattice.
  • ・Inter-universal Teichmuller Theory IV: Log-volume Computations and Set-theoretic Foundations.

ABC予想とは一言も出てきませんね。Inter-universal Teichmuller Theoryってなんでしょう?間、宇宙、タイヒミュラー理論?

「足し算と掛け算の話をしているのではないの?なぜ宇宙?」

あなたが意味不明に思うのも無理はありません。
ほとんどの数学者も同じ反応をしました。

なぜなら、これは望月教授がABC予想を解決するために自ら生み出した宇宙際タイヒミュラー理論という全く新しい理論だからです。

(ちなみに歴史上新しい理論が生まれるとき、しばしばこういうことは起きます。例えばアイザック=ニュートンは物理の問題を解決するために微積分学を作りましたし、アインシュタインも矛盾のない重力の理論を作るために、一般相対性理論を生み出しました。)

ウィスコンシン-マディソン大学のジョーダン・エレンバーグという世界有数の数学者は、当時自身のブログでこのように述べています。

“like you might be reading a paper from the future, or from outer space”
まるで未来から、宇宙の外から来た論文を読んでいるような気分だ。

論文を理解するためには、望月教授の生み出した宇宙際タイヒミュラー理論を一から勉強する必要があります。
望月教授ご自身が世界有数の数学者たちに何度も講義を行い、8年間という長い年月を経て、2020年に専門誌への掲載が決まりました(2021年3月に掲載)。ただし、2018年にはペーター・ショルツェ氏とヤコブ・シュティックス氏が、証明の核心部分(第3論文の系3.12)に重大な欠陥があると指摘しており、数学界で正しいと広く認められるには至っていません(2026年10月時点)。
これが8年もの年月がかかった理由です。

さいごに

いかがでしたでしょうか。

小学生で習う足し算と掛け算の関係を考えているうちに、天才数学者たちを8年も悩ませる全く新しい理論が生まれるとは非常に面白いですね。

望月教授のIUT理論は、その正しさが数学界で広く認められれば、今後の数学に大きな影響を与えるものだと言われています。

ぜひ皆さんも詳しく調べたり、ABC予想の中身について考えてみたりしてください。

一般向けの書籍では、加藤文元教授の「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃」が詳しいです。

出版社の書籍案内(KADOKAWA)もあるので是非ご覧ください。

 

それではごきげんよう。引き続き数学をお楽しみください!

<文/岡崎 凌>
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ABC予想 要点表

項目 内容 ポイント
提唱者・年 デイヴィッド・マッサー、ジョゼフ・オステルレ(1985年) 足し算と掛け算の関係についての予想
主張 任意のε>0に対し、εで決まる定数Kがあって c < K·rad(abc)^(1+ε) 掛け算(素因数分解)と足し算のバランス
rad(n)とは n の素因数を重複なしで掛ける(「根」) 例:rad(72) = 2×3 = 6
重要性 正しければ多くの予想や定理が導かれる(例:指数が大きい場合のフェルマーの最終定理) 証明されれば他多数の予想が一気に解決
2026年10月時点の状況 IUT論文は2021年にPRIMS誌に掲載されたが、ショルツェ氏とシュティックス氏の指摘をめぐり、数学界の合意は得られていない 証明支援系Leanによる形式化など、検証の試みが続いている

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