教養としての力学-第3回:300年前の法則がロケットを飛ばしている-ニュートンが見つけた「力の正体」【高校物理をやさしく解説】
公開日
2026年5月3日
更新日
2026年11月2日
2024年10月、SpaceXは「スターシップ」の試験飛行で、第1段ブースター「スーパーヘビー」を発射台のアームで受け止めました。
最新の技術を使ったロケットにも、約300年前にアイザック・ニュートンがまとめた運動の法則が使われています。
ニュートンの3つの法則、通称「ニュートンの運動の法則」は、現代のロケット工学から自動車の設計まで、物体の動きを考えるための基本となっています。今回はこの3つの法則を、身近な例を使ってやさしく解説します。
この記事の主な内容
第1法則:「ほっておくと、物は今の状態を続けようとする」
ニュートンの第1法則は慣性の法則と呼ばれています。
物体に働く外力の合計(合力)がゼロなら、止まっているものは止まり続け、動いているものは同じ速度で直進し続ける。
身近なボールの動きで確かめてみましょう。
ボールを転がすと、やがて止まりますよね。「動いているものは動き続ける」はずなのに、なぜ止まるのでしょうか。
答えは「外から力が加わっているから」です。床との摩擦や空気抵抗という力が、ボールの動きを妨げているのです。摩擦や空気抵抗、重力などを含め、ボールに働く力の合計がゼロなら、ボールは同じ速度で動き続けます。
【専門用語の解説】慣性(かんせい)
物体が「今の状態を保ち続けようとする性質」のことです。
電車が急ブレーキをかけたとき、体が前に倒れそうになるのは、体が「今の速度で動き続けようとする」慣性があるからです。
重いものほど慣性が大きく、状態を変えるのに大きな力が必要です。
ビジネスの世界でも「慣性」という言葉を使いますが、まさにこの物理の概念が語源です。組織や習慣が「今の状態を続けようとする力」を、物理の慣性になぞらえているわけです。

【図1】慣性の法則。左図は、摩擦だけでなく重力なども含めた合力がゼロとみなせる場合の模式図です。宇宙空間でも重力は働きます。
第2法則:「力が大きいほど、そして軽いほど、よく加速する」
第2法則は運動方程式とも呼ばれ、前回学んだ「加速度」と深く関係しています。
内容をシンプルに言うとこうです。
質量が同じなら、物体に働く合力が大きいほど加速度は大きくなる。また、同じ合力なら、質量が小さいほど加速度は大きくなる。
身近な例で考えてみましょう。
空のショッピングカートと、食料品を山盛りに積んだショッピングカート。同じ力で押したとき、どちらが速く動き出すでしょうか。同じ力で押すと、空のカートの方が大きく加速します。これが「軽いほどよく加速する」ということです。
逆に、同じカートを押すとき、力を強くすれば強くするほど、カートは速く動き出します。これが「力が大きいほど加速度は大きくなる」ということです。
前回のEVの話では、モーターが低い回転数から大きなトルクを出しやすいことを説明しました。トルクは回転させる作用で、車体に働く力そのものとは異なります。車輪を介した駆動力と抵抗などを合わせた合力が、車体の質量に対して大きければ、加速度も大きくなります。
第3法則:「押せば、必ず押し返される」
第3法則は作用・反作用の法則と呼ばれています。
ある物体が別の物体に力を加えると、必ず同じ大きさで逆向きの力が返ってくる。
【専門用語の解説】作用・反作用(さよう・はんさよう)
「作用」=加えた力、「反作用」=返ってくる力のことです。
2つの力は同時に生じ、大きさが等しく、向きは逆です。
それぞれ別の物体に働くため、一つの物体に働く2つの力の「つり合い」とは異なります。
どちらか一方だけが存在することはありません。
壁を手で押してみてください。手が痛くなりますよね。これは壁が手を押し返しているからです。あなたが壁を押す力(作用)と、壁があなたを押し返す力(反作用)は、常にセットで存在しています。
そして、この法則こそがロケットが飛ぶ原理です。
ロケットは燃料を燃やして、高温のガスを猛烈な勢いで下に向けて噴射します。これが「作用」です。するとその反作用として、ロケット本体は上に向けて押し上げられます。

【図2】作用・反作用の法則。対になるのは「ロケットがガスに及ぼす力」と「ガスがロケットに及ぼす力」です。図の矢印の長さは力の大きさを表していません。加速度の大きさが等しいという意味でもありません。
宇宙空間には空気がありません。プロペラで空気を押すことも、地面を蹴ることもできません。しかし作用・反作用の法則は、空気がなくても成立します。だからロケットは真空の宇宙空間でも飛べるのです。
SpaceXのロケットも、このシンプルな法則の上に成り立っています。
3つの法則をつなげて考える
ここで3つの法則を整理しましょう。

【図3】運動の3法則。第1・第2法則の「力」は、対象とする一つの物体に働く合力です。第3法則の対になる力は、互いに異なる物体に働きます。
第1法則は「合力がゼロなら、静止または等速直線運動を続ける」という法則です。第2法則は「合力と質量によって加速度が決まる」ことを説明します。第3法則は「2つの物体が及ぼし合う力は、大きさが等しく逆向き」という原則です。
この3つは、物体に働く力と運動の関係を説明する基本法則です。ニュートンが17世紀にまとめた法則は、現在もロケットの運動を計算する際に使われています。
まとめ:ニュートンの3法則でロケットの動きを考える
今回学んだニュートンの3法則を振り返ります。
第1法則(慣性の法則)は、合力がゼロなら静止または等速直線運動を続けるという法則です。第2法則(運動方程式)は、加速度が合力に比例し、質量に反比例するという法則です。第3法則(作用・反作用)は、2つの物体が互いに及ぼす力が、大きさは等しく向きは逆になるという法則です。ここでは、慣性系と呼ばれる基準で、光速に比べて十分遅い物体の運動を考えています。
ロケットがガスを後方へ押し出すと、ガスからロケットへ反対向きの力が働きます。この作用・反作用の関係によって、ロケットは空気のない宇宙空間でも進めます。
次回予告
第4回は「運動量と衝突」を取り上げます。車の重さや速さと運動量の関係を説明し、自動運転で周囲の動きを予測する仕組みも紹介します。
文/岡崎 凌
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