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教養としての力学-第2回:EVはなぜ加速が鋭い?テスラを例に加速度とトルクを解説【高校物理をやさしく解説】

公開日

2026年4月30日

更新日

2026年11月2日

「テスラって速いらしいね」という会話の中で耳にすることがあります。

車の「速さ」には、最高速度と加速性能という異なる見方があります。今回は、発進してから時速100kmに達するまでの時間などで示される「加速性能」に注目します。

たとえばテスラの日本向け公式サイトでは、Model 3 Performanceの0–100km/h加速は3.1秒とされています(2026年11月2日確認)。ただし、これはロールアウト(発進直後の一定区間)を差し引いた測定値です。車種・グレードや測定条件をそろえて比べる必要があります。

では、なぜ電気自動車はこれほどの加速ができるのでしょうか。その答えは「加速度」という物理の概念にあります。今回はこれをやさしく解説します。

「速い」と「加速が速い」は全然違う

まず、大事な言葉の整理をしましょう。

日常会話では「速い」という言葉を何にでも使いがちですが、物理の世界では「速さ」と「加速」は明確に区別されます。

たとえばこんな場面を想像してください。

東海道新幹線の営業最高速度は時速285kmです。一方、上記のModel 3 Performanceの公式最高速度は時速261kmです。これは特定の車種・区間の値であり、「新幹線」「テスラ」全体を一つの最高速度で表すことはできません。また、最高速度だけでは発進時の加速性能は分かりません。

では、なぜテスラが「速い」と話題になるのでしょうか。

注目される特徴の一つが、発進してから速度が上がるまでの鋭さです。加速時に背中がシートに押しつけられる感覚は、速度そのものとは別の「変化」に関わっています。

加速度とは何か?

ここで「加速度」という言葉を正式に説明します。

加速度とは、単位時間あたりの速度の変化です。物理の「速度」には向きも含まれるため、一定の速さでカーブを曲がる場合にも加速度があります。ここでは、同じ向きに直進する車を考えます。

【専門用語の解説】加速度(かそくど)
「加速」+「度」という言葉の通り、加速の”度合い”を表します。
同じ時間の間に速度が大きく変化するほど、その間の平均加速度は大きくなります。
単位は「m/s²(メートル毎秒毎秒)」ですが、今回は数式なしでイメージだけつかんでください。

たとえば、こんなふうに考えてみましょう。

停車中のA車とB車が同時に発進しました。

A車は10秒かけて時速60kmに達しました。
B車は3秒で時速60kmに達しました。

同じ「時速60kmに達した」という結果でも、B車の方が短い時間で同じ速度に達しています。つまり発進から時速60kmに達するまでの平均加速度は、B車の方が大きいということです。途中の各瞬間の加速度まで、この情報だけで決まるわけではありません。

【表1】仮想のA車・B車で比べる平均加速度(実車の測定結果ではありません)
車 速度の変化 所要時間 平均加速度
A車 0→60km/h(約16.67m/s) 10秒 約1.67m/s²
B車 0→60km/h(約16.67m/s) 3秒 約5.56m/s²

なぜEVは加速が鋭いのか?

では本題に入りましょう。電気自動車(EV)が、低速から力強く加速しやすいのはなぜでしょうか。なお、すべてのEVがすべてのガソリン車より速く加速する、という意味ではありません。

その答えは「力を生み出す仕組みの違い」にあります。

ガソリン車の場合

ガソリン車は、エンジン内で燃料と空気の混合気を燃焼させ、その働きで車輪を回します。エンジンのトルク(回転させる作用)は回転数によって変わり、大きなトルクを出せる回転数の範囲があります。

ガソリン車では、変速機やクラッチ、トルクコンバーターなどを使い、エンジンの回転を車輪に伝えます。適切なギア比を選ぶことで車輪側の駆動力を大きくできます。高性能なガソリン車には鋭く加速する車もあり、「発進時は必ずゆっくり」とは限りません。

EVの場合

一方、電気自動車のモーターは低い回転数から大きなトルクを出しやすく、出力の制御にも素早く応答できます。

電力を制御する装置がモーターへの電流を調整し、要求されたトルクを発生させます。これはエンジンの暖機とは別の話です。実際に出せるトルクは、制御の設定、バッテリーの温度や充電状態、タイヤのグリップなどに左右され、アクセルを踏むと常に最大になるわけではありません。

この「低い回転数から大きなトルクを出しやすい」という特性が、EVの発進時の加速を支えています。ただし、車体の質量やギア比、タイヤと路面の状態も加速性能に関わります。

【専門用語の解説】トルク(torque)
物体を回転させる作用を表し、単位はN·m(ニュートンメートル)です。
車体を前に進める「力」の単位N(ニュートン)とは異なります。
モーターやエンジンのトルクが変速機などを通じて車輪へ伝わり、タイヤと路面の接触を介して車体を加速させる力になります。
同じモータートルクでも、ギア比やタイヤの半径などによって駆動力は変わります。

加速度と「力」はどんな関係がある?

ここで少し視野を広げてみましょう。

質量が同じなら、車体に働く合力が大きいほど加速度は大きくなります。ここでの合力は、前に進める駆動力だけでなく、空気抵抗なども合わせた力です。質量の違う車を比べるときには、加速度だけから力の大小を判断できません。

【表2】質量が同じ車を比べる場合の力と加速度
条件 結果
進行方向の合力が大きい 進行方向の加速度が大きい
駆動力と抵抗がつり合い、合力が0 加速度は0(直進中なら速度が一定)

これは運動の法則を示す比較であり、EVとガソリン車の優劣を一律に示すものではありません。

この「力と加速度の関係」を体系的にまとめたのが、次回解説するニュートンの法則です。

「質量が同じなら、合力が大きいほど加速度も大きくなる」「質量が大きいものほど、同じ合力では加速しにくい」といった、私たちが直感的に知っている現象を、ニュートンは数百年前に見事に法則としてまとめました。


まとめ:「加速度」で世界が違って見える

今回学んだことを整理しましょう。

「速さ」と「加速度」は別物です。最高速度と加速性能も別の指標であり、どの車種を、どの条件で比べるかを確認することが大切です。

EVの力強い発進には、モーターが低い回転数から大きなトルクを出しやすい特性が関わっています。実際の加速度は、車体に働く合力と質量で決まり、トルクだけで決まるわけではありません。

物理の言葉を一つ知るだけで、ニュースの見え方が変わってきませんか?「テスラが速い」という話題が、今日から少し違って聞こえるはずです。

次回予告

第3回は、いよいよニュートンの3法則を取り上げます。「力と加速度の関係」を体系化したこの法則は、ロケットが宇宙へ飛び出す仕組みにも直結しています。

イーロン・マスクのSpaceXが使っている物理の基本を、一緒に覗いてみましょう。

文/岡崎 凌

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