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教養としての力学-第1回:リニアはなぜ速いのか?高校物理でここまでわかる【高校物理をやさしく解説】

公開日

2026年4月27日

更新日

2026年4月13日

はじめに:リニア開業はいつ?ニュースの裏で動く「時速500kmの正体」

「リニアの工事が予定通りいかない」といったニュースを、最近よく目にしませんか?

開業時期の議論ばかりが先行していますが、少し視点を変えてみてください。そもそも私たちは、「地面から浮き、新幹線を遥かに凌ぐ速度で人を運ぶ」という、かつてのSF映画のような世界を本気で実現しようとしているのです。

その驚異的な技術の裏側を覗いてみると、実はそこにあるのは「高校物理」の教科書で見たあの法則たちでした。リニアはまさに、力学・電磁気・熱力学のエッセンスが凝縮された「走る物理学の結晶」です。

この記事では、リニアモーターカーを題材に、高校物理の入り口をやさしく紐解きます。難しい数式は使いません。「なるほど、そういうことか!」という知的なワクワク感を大切にしながら、読み進めてみてください。


時速500kmって、実際どれくらい速いの?

まず、時速500kmという速さを身近な感覚でとらえてみましょう。

東京から名古屋までの距離は約350kmです。これをリニアで移動すると、わずか40分で到着します。現在の東海道新幹線(のぞみ)が約1時間30分かかるのと比べると、その速さは約2.5倍です。

さらにイメージしやすくするために比べてみましょう。

【図1】様々なものの速さ比較

人が走る速さが時速約10〜12km、高速道路を走る車が時速約100km、東海道新幹線(のぞみ)が時速約285km、そしてリニアモーターカーが時速505km(最高記録は603km)です。

高速道路の車の約5倍、新幹線の約1.8倍の速さです。これほどの速さで人を乗せて走る乗り物は、世界でもほとんど例がありません。

速いとどれだけエネルギーが必要になるのか?

「速ければ速いほど、たくさんのエネルギーが必要」というのは直感的にわかると思います。では、どれくらい必要になるのでしょうか。

ここで力学の重要な考え方が登場します。

物体を動かすためのエネルギー(これを運動エネルギーといいます)は、速さが2倍になると4倍になります。速さが3倍になると9倍になります。

つまり、速さとエネルギーは「速さの2乗」に比例して増えていくのです。

「速さの2乗に比例する」とは?
2乗とは、同じ数を2回かけること。
速さが2倍 → 2×2=4倍のエネルギーが必要
速さが3倍 → 3×3=9倍のエネルギーが必要
速さが上がれば上がるほど、エネルギーの増え方が急激になっていきます。

新幹線と比べると、リニアは約1.8倍速いので、必要な運動エネルギーはおよそ3倍以上になります。これだけのエネルギーを確保しながら、安全に走らせるというのは、並大抵のことではありません。

じゃあ、なぜリニアはそんなに速く走れるのか?

エネルギーの問題をクリアするだけでなく、速く走るためには「速さを妨げる力」を減らすことも重要です。

物体が動くときに速さを妨げる力は、大きく2つあります。

① 摩擦力(まさつりょく)

車輪とレールがこすれることで生まれる抵抗です。新幹線は車輪でレールの上を走るため、この摩擦が常に発生しています。速くなればなるほど、摩擦による熱や振動も大きくなります。

リニアモーターカーは、この問題を根本から解決しました。車輪を使わないのです。

車体を磁石の力で浮かせることで、レールとの接触をなくし、摩擦をほぼゼロにしています。これが「磁気浮上」と呼ばれる技術で、電磁気学の応用です。地面から約10cmほど浮いた状態で走っているというのは、なんとも不思議な光景ですね。

② 空気抵抗(くうきていこう)

空気の中を進むとき、空気が壁のように立ちはだかり、前進を妨げます。速くなればなるほど、この抵抗は急激に大きくなります。

リニアの先頭車両があの独特の「とんがった形」をしているのは、空気をスムーズに切り裂くためです。新幹線の先頭が長い「くちばし型」をしているのも同じ理由です。これは流体力学(液体や気体の動きを研究する物理学の分野)の知識を活かした設計です。

速さを生み出す力の正体

摩擦をゼロに近づけ、空気抵抗を減らした。では、リニアを前に進める力はどこから来るのでしょうか。

通常の電車は、車輪をモーターで回転させることで前進します。しかしリニアは車輪がないため、別の方法で推進力を生み出す必要があります。

ここで使われているのが「電磁力」です。

磁石には「N極とS極は引き合い、同じ極どうしは反発する」という性質があります。リニアはこの性質を巧みに利用して、車体を前方へ引き寄せたり、後方から押し出したりすることで、前進する力を生み出しています。

これはニュートンが発見した「力と運動の法則」(力学)と、ファラデーやマクスウェルが体系化した「電磁気学」が組み合わさって初めて実現できる技術です。

速く走ると熱が発生する問題

もう一つ、見落とせない問題があります。それがです。

大量のエネルギーを使って高速で走ると、様々な部分で熱が発生します。電気を流すケーブルや、磁石を制御する装置など、熱に弱い部品が多いため、冷却の技術が欠かせません。

リニアが使用している超電導磁石(ちょうでんどうじしゃく)は、マイナス269度という極低温に冷やすことで、電気抵抗をゼロにする特殊な技術です。これにより、強力な磁力を効率よく生み出すことができます。この「冷やす・温める」の話は、熱力学の領域です。

リニアは、走る「物理の集大成」だ。

ここまで読んでいただいて、お気づきでしょうか。

リニアモーターカーという一つの乗り物の中に、高校物理のほぼすべての分野が詰まっています。

【図2】リニアモーターカーに使われている技術と物理学

リニアの技術 関連する物理の分野
速さとエネルギーの関係 力学
磁気浮上・電磁推進 電磁気学
先頭車両の形状設計 流体力学
超電導冷却技術 熱力学

物理は「難しい公式を暗記する学問」ではありません。「世界がなぜこう動くのか」を理解するための道具です。

リニアのニュースを見るたびに「なるほど、あの技術はこういう物理の原理なんだ」と思えるようになる。それがこの連載の目指すところです。


次回予告

第2回は、力学の基本中の基本である「速さ・速度・加速度」を深掘りします。テスラのEVが「速い」と話題になる理由を、物理の言葉で読み解いていきます。

「速い」という言葉の裏に隠された、意外と奥深い物理の世界をお楽しみに。

<文/岡崎 凌>

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