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もしも火星に飛ばされたら(3)火星の夕焼けは、青い【波編】

公開日

2026年9月10日

更新日

2026年9月10日


重力を測り、水の当てもつけて、火星での一日が終わろうとしています。あなたは岩に腰を下ろし、砂の平原に沈んでいく太陽を眺めます。火星の一日は約24時間40分。日暮れのリズムは、地球とほとんど同じです。ところが、沈んでいく太陽のまわりを見て、あなたは思わず目をこすります。夕焼けが、青い

キュリオシティが撮影した火星の青い夕日

キュリオシティが撮影した火星の夕日。太陽のまわりを中心に、空が青く染まる。合成ではなく、実写。写真:NASA/JPL-Caltech/MSSS

『もしも火星に飛ばされたら』は、ある日突然火星に飛ばされたあなたが、高校物理を頼りに生き延びるシリーズです。第3回は、この不思議な空の色の話。じつは「空はなぜ青いの?」という、あの定番の疑問とまっすぐつながっています。

前回の内容はこちら:

もしも火星に飛ばされたら(2)火星で水を沸かすと、冷たいまま沸騰する【熱力学編】

そもそも、地球の空はなぜ青いのか

火星の話の前に、地球の空の話をさせてください。「なぜ空は青いの?」――子どもの頃に一度は聞いたか、聞かれたかした質問ですが、大人になった今、答えられるでしょうか。

太陽の光には、赤から紫まで、あらゆる色の光が混ざっています。光は波で、色の違いは波長の違いです。赤は波長が長く、青は短い。そして大気中の分子に光がぶつかると、波長の短い青い光ほど、あちこちに散らばりやすいという性質があります(散乱と呼びます)。

昼間の空が青いのは、太陽から届いた光のうち、青だけが空じゅうに散らばって、どこを見上げても目に飛び込んでくるから。夕方に太陽が赤いのは、光が大気の中を長い距離通ってくる間に、散らばりやすい青が途中で脱落し、しぶとい赤だけが生き残って届くからです。青が散る昼と、赤が残る夕方。実は同じ一つの現象の、表と裏です。

火星では、昼の空が赤く、夕焼けが青い

では火星ではどうなるか。大気は地球の0.6%しかないので、青を散らしてくれる分子が足りません。代わりに火星の空に浮かんでいるのは、大量の細かい赤茶色の塵です。

塵の粒は、大気の分子よりずっと大きい。すると光の散らばり方のルールが変わります。塵は赤っぽい光を吸収・散乱して空全体をバターイエローや赤茶色に染める一方、青い光は塵の粒で「前方に」散らばりやすい――つまり、太陽の進行方向の周りに集まるのです。

結果、火星の空はこうなります。昼間は赤茶けた空。そして日没が近づくと、沈む太陽のまわりを中心に、空が青く染まっていく。地球とちょうど、あべこべです。NASAの探査車が撮影した実物の写真がありますので、ぜひ見てみてください。SFの絵ではなく、実在の風景です。

同じ法則、違う景色

ここで強調したいのは、火星の空が「別の物理法則」で動いているわけではない、ということです。光の散乱という同じ法則が、「何にぶつかるか」という条件の違いだけで、正反対の空を作っているのです。

分子にぶつかれば、青が散って空が青くなる。塵にぶつかれば、空は赤くなり夕日が青くなる。法則は一つ、景色は無限。物理を学ぶことは、この「一つで無限を説明できるようになる」ことだと私は思っています。

おまけ:火星では、音もへんてこ

波つながりでもう一つ。試しに手を叩いてみると、その音は地球より小さく、こもって聞こえるはずです。音も波です。火星の薄い大気では音は伝わりにくく、音速は地球の約340m/sに対して約240m/s。しかも火星の大気(ほぼ二酸化炭素)は高い音をよく吸収するため、高音ほどすぐに消えてしまいます。

これは想像ではありません。NASAの探査車パーサヴィアランスはマイクを積んでいて、人類はすでに火星の音を録音済みです。風の音も、レーザーの作動音も聞けます。数十年前ならSFだったことが、音声ファイルで公開されている時代です。

今日の火星データ

火星の一日:約24時間40分/昼の空の色:赤茶〜バターイエロー(塵の散乱)/夕焼け:太陽の周囲が青/音速:約240m/s(地球は約340m/s)


青い夕日が沈んだら

地球の赤い夕焼けが「青が脱落した生き残りの色」で、火星の青い夕焼けが「塵が太陽のまわりに集めた色」。同じ散乱という法則の、二つの顔でした。いつか地球の夕日を見る日には、まったく違う景色に見えるはずです。

さて、うっとりしている場合ではありません。日が沈めば、気温は一気に氷点下まで下がります。そういえば今朝、遠くの丘の向こうに、基地らしき建物が見えていました。暗くなる前に、あそこまでたどり着きたい。……ところが、あれがどちらの方角だったのか、思い出せないのです。

次回、第4回〔電磁気学編〕。ポケットのコンパスが、役に立ちません。

<文/岡崎 凌>
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