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マスログ

テキストに載っていない二項定理の証明

公開日

2021年11月11日

更新日

2024年10月30日


数学教室和(なごみ)講師の松中です。先日高校数学の個別授業で「二項定理」をお客様と一緒にテキストに載っていない証明を2つほど見つけました。どちらもネットで探すと簡単に見つかるレベルの証明ではありますが、見つけた瞬間はお客様と自分で見つけたオリジナル証明ではありましたので、記念に紹介したいと思います。

二項定理とは

まず、二項定理とは(a+b)^nを展開した時の各項の係数が簡単に分かる高校数学の公式です。つまり、

  • n=1のとき
  • (a+b)^1={\color{red}1}a+{\color{red}1}b

  • n=2のとき
  • (a+b)^2={\color{red}1}a^2+{\color{red}2}ab+{\color{red}1}b^2

  • n=3のとき
  • (a+b)^3={\color{red}1}a^3+{\color{red}3}a^2b+{\color{red}3}ab^2+{\color{red}1}b^3

  • n=4のとき
  • (a+b)^4={\color{red}1}a^4+{\color{red}4}a^3b+{\color{red}6}a^2b^2+{\color{red}4}ab^3+{\color{red}1}b^4

と展開した時の、赤字の係数部分が簡単に分かる公式です。

よく知られている話題ですが、この赤字の数字を並べて書くと「パスカルの三角形」が出来上がります。これは第1段目の「1 1」から始めて隣り合う数の和をその下に書き、各段の両端には1を書いたものです。

なかなか面白い三角形でパスカルの三角形さえあれば(a+b)^nの係数は簡単に知ることができますが、例えばn=10の展開式の係数を知りたいときは10段も三角形を書かなければいけません。そして、そこに至るまでに多数回の足し算を行いますが、どれ1つをとっても間違えてはなりません。そう考えるとnがある程度大きいときにパスカルの三角形で(a+b)^nの係数を導出するのは好ましいやり方とは言えません。

そこで登場するのが「二項定理」です。

二項定理
(a+b)^n=\sum_{k=0}^n{}_n \mathrm{C}_ka^{n-k}b^k

 
ここで{}_n \mathrm{C}_kは異なるn個のものからk個を取り出す組合せの総数を表し、

{}_n \mathrm{C}_k=\frac{n!}{(n-k)!k!}
となることが知られています。例えば異なる5個のものから3個を取り出す組合せは、

「A,B,C,D,E」から3個取り出す組合せ
「A,B,C」、「A,B,D」、「A,B,E」、「A,C,D」、「A,C,E」、「A,D,E」、「B,C,D」、「B,C,E」、「B,D,E」、「C,E,E」

 

のように10通りありますが、これは{}_5 \mathrm{C}_3=\frac{5!}{3!2!}=10からも分かります。

二項定理を使うことで、例えば(2x-3y)^8x^3y^5の係数は、
(2x-3y)^8=\sum_{k=0}^8{}_8 \mathrm{C}_k(2x)^{8-k}(-3y)^k
の右辺でk=5の項を考えることで、{}_8 \mathrm{C}_5 2^{3}(-3)^5=-108864と簡単に計算することができます。

二項定理とパスカルの三角形の関係

二項定理を使って(a+b)^nの係数を書き出してみます。

  • n=1のとき
  • (a+b)^1={\color{red}{{}_1 \mathrm{C}_0}}a+{\color{red}{{}_1 \mathrm{C}_1}}b

  • n=2のとき
  • (a+b)^2={\color{red}{{}_2 \mathrm{C}_0}}a^2+{\color{red}{{}_2 \mathrm{C}_1}}ab+{\color{red}{{}_2 \mathrm{C}_2}}b^2

  • n=3のとき
  • (a+b)^3={\color{red}{{}_3 \mathrm{C}_0}}a^3+{\color{red}{{}_3 \mathrm{C}_1}}a^2b+{\color{red}{{}_3 \mathrm{C}_2}}ab^2+{\color{red}{{}_3 \mathrm{C}_3}}b^3

  • n=4のとき
  • (a+b)^4={\color{red}{{}_4 \mathrm{C}_0}}a^4+{\color{red}{{}_4 \mathrm{C}_1}}a^3b+{\color{red}{{}_4 \mathrm{C}_2}}a^2b^2+{\color{red}{{}_4 \mathrm{C}_3}}ab^3+{\color{red}{{}_4 \mathrm{C}_4}}b^4

先ほどのパスカルの三角形のルール「隣り合う数の和を下に書く」というものは、例えば{}_5 \mathrm{C}_2+{}_5 \mathrm{C}_3={}_6 \mathrm{C}_3を表しており、計算すればこの例で成り立っていることが確認できます。これは一般に

{}_n \mathrm{C}_k={}_{n-1} \mathrm{C}_{k-1}+{}_{n-1} \mathrm{C}_{k}

 
が成り立つことを意味しています。

この関係式は今回紹介する二項定理の1つ目の証明で重要なので証明しておきましょう。

{}_n \mathrm{C}_k={}_{n-1} \mathrm{C}_{k-1}+{}_{n-1} \mathrm{C}_{k}の両辺の意味を考えることによる証明

{}_n \mathrm{C}_kは異なるn個の中からk個を取り出す組合せの総数です。ここでは考えやすいようにn人の中からk人を選出する組合せの総数として考えましょう。

まずn人の中の特定の1人を決めます。誰でも構いませんが、Aさんを選ぶことにしましょう。次にk人を選出するわけですが、選ばれたk人の中にAさんが含まれる場合と、含まれない場合があるでしょう。これらは同時に起こることはありませんから、

{}_n \mathrm{C}_k=n人からk人を選出する組合せの総数」=「n人からAさんを含むk人を選出する組合せの総数」+「n人からAさんを含まないk人を選出する組合せの総数」

が成り立ちます。

n人からAさんを含むk人を選出する組合せの総数」はAさんは選出確定で、残りのメンバーをn-1人からk-1人選出する総数に等しいですから、これは{}_{n-1} \mathrm{C}_{k-1}となります。

また「n人からAさんを含まないk人を選出する組合せの総数」はAさんを含まないn-1人の中からk人を選出する総数に等しいですから{}_{n-1} \mathrm{C}_{k}となります。

よって、{}_n \mathrm{C}_k={}_{n-1} \mathrm{C}_{k-1}+{}_{n-1} \mathrm{C}_{k}が成り立つことが分かります。

ここでは{}_n \mathrm{C}_kの意味を考えることで証明しましたが、右辺を{}_n \mathrm{C}_kの定義に沿って計算することで数式のみを用いて証明もできます。

テキストに載っている二項定理の証明

普通の高校数学のテキストに載っている二項定理の証明は以下のようなものです。私もこれまでこれ以外の証明は見たことはなかったです。

(a+b)^n=(a+b)×(a+b)×・・・×(a+b) ,\,\,\,((a+b)\text{が}n\text{個並んだもの})

これを展開した時のa^{n-k}b^kの係数はn個の(a+b)からn-k個のak個のbを選出する総数に等しくなります。これは単にn個の(a+b)からk個のbを選出する総数と考えてもよいので、{}_{n} \mathrm{C}_{k}となり、二項定理が成り立ちつことがわかります。

当然授業でもこの方法で解説したのですが、少し騙されているような感覚があるのと、いつもこの証明で飽きてしまったので、お客様と私で新しい証明を考えるということになりました。私とお客様で興味の赴く方向に数学の話を展開できるのは個別指導の魅力かと思います。

数学的帰納法による証明

最初に思い付いたのは数学的帰納法を使う証明です。数学的帰納法は自然数nに関する命題P(n)を全ての自然数nについて証明する際によく用いられます。証明したい二項定理も(a+b)^nと自然数nが現れるので数学的帰納法でも証明できそうです。

数学的帰納法は次の2ステップで進みます。

  • n=1のとき成り立つことを証明する
  • n=lのときに成り立つことを仮定すると、n=l+1の時も成り立つことを証明する

数学的帰納法の詳しい説明についてはこちらの記事をご参照ください。

それでは二項定理(a+b)^n=\sum_{k=0}^n{}_n \mathrm{C}_ka^{n-k}b^kを数学的帰納法を用いて証明しましょう。

n=1のとき成り立つことを証明する

\text{(左辺)}=(a+b)^1=a+b=\text{(右辺)}

となり正しいです。

n=lのときに成り立つことを仮定すると、n=l+1の時も成り立つことを証明する

n=lのとき二項定理が成り立つと仮定します。つまり、
(a+b)^l=\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^k
が成り立つとします。
両辺に(a+b)をかけると、(左辺)は(a+b)^{l+1}となり、(右辺)は、

\text{(右辺)}=(a+b)\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^k=\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k+1}b^k+\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^{k+1}

となります。

ここで、最右辺1項目の\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k+1}b^kからk=0\sumから出すことにすると、
\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k+1}b^k=a^{l+1}+\sum_{k=1}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k+1}b^k
となります。

また、最右辺2項目の\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^{k+1}からk=l\sumから出すと、
\sum_{k=0}^{l}{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^{k+1}=\sum_{k=0}^{l-1}{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^{k+1} + b^{l+1}
となります。ここで、\sumの添え字kk^{\prime}=k+1に変更します。元々k0からl-1まで動いていたので、k^{\prime}1からlまで動くことになるので、
\sum_{k=0}^{l-1}{}_{l} \mathrm{C}_ka^{l-k}b^{k+1}=\sum_{k^{\prime}=1}^l{}_l \mathrm{C}_{k^{\prime}-1}a^{l-k^{\prime}+1}b^{k^{\prime}}
となります。この形にしてから改めてk^{\prime}kと書き直すことで、先ほどの最右辺2項目は次の形にまとまります。
\sum_{k=0}^{l}{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^{k+1}=\sum_{k=1}^{l}{}_l \mathrm{C}_{k-1}a^{l-k+1}b^{k} + b^{l+1}

長くなりましたが、最終的に(右辺)は
\begin{align*} \text{(右辺)}&=(a+b)\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^k=\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k+1}b^k+\sum_{k=0}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k}b^{k+1}\\ &=a^{l+1}+\sum_{k=1}^l{}_l \mathrm{C}_ka^{l-k+1}b^k+\sum_{k=1}^{l}{}_{l} \mathrm{C}_{k-1}a^{l-k+1}b^{k} + b^{l+1}\\ &=a^{l+1}+\sum_{k=1}^l\{{}_l \mathrm{C}_k +{}_l \mathrm{C}_{k-1} \}a^{l-k+1}b^k +b^{l+1}\\ &=a^{l+1}+\sum_{k=1}^l{}_{l+1} \mathrm{C}_ka^{l-k+1}b^k+ b^{l+1}=\sum_{k=0}^{l+1}{}_{l+1} \mathrm{C}_ka^{l-k+1}b^k \end{align*}

となります。ここで、先に証明した{}_l \mathrm{C}_k +{}_l \mathrm{C}_{k-1} ={}_{l+1} \mathrm{C}_{k}と、{}_{l+1} \mathrm{C}_{0}={}_{l+1} \mathrm{C}_{l+1}=1を用いています。

以上から、
(a+b)^{l+1}=\sum_{k=0}^{l+1}{}_{l+1} \mathrm{C}_ka^{l+1-k}b^k
となり、n=l+1のときにも二項定理が成り立つことが分かり、数学的帰納法から証明が完結します。

テイラー展開による証明

次にテイラー展開を用いて証明しました。テイラー展開とは以下の公式で、高校数学では学ばないのですが、お客様は元々大学数学も学ばれていたので、テイラー展開もご存知でした。

テイラー展開
f(x)=\sum_{k=0}^\infty\frac{f^{(k)}(0)}{k!}x^k

 
証明のためにf(x)=(x+a)^nとおきましょう。このf(x)をテイラー展開するため、微分していきます。
\begin{align*} f^{\prime}(x)&=n(x+a)^{n-1}\\ f^{\prime\prime}(x)&=n(n-1)(x+a)^{n-2}\\ f^{\prime\prime\prime}(x)&=n(n-1)(n-2)(x+a)^{n-3}\\ & \vdots\\ f^{(k)}(x)&=n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1)(x+a)^{n-k}\\ & \vdots \end{align*}
と続いていきます。これからk>nの時はf^{(k)}(x)=0が分かるので、テイラー展開も第n項までで展開が完了します。

よってk\leq nのとき、
f^{(k)}(0)=n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1)a^{n-k}=\frac{n!}{(n-k)!}a^{n-k}
となり、f(x)のテイラー展開は、
f(x)=\sum_{k=0}^n\frac{f^{(k)}(0)}{k!}x^k=\sum_{k=0}^n\frac{n!}{k!(n-k)!}a^{n-k}x^k=\sum_{k=0}^n{}_{n} \mathrm{C}_{k}a^{n-k}x^k
が分かります。(a+b)^n=f(b)ですから、これにx=bを代入することで、
(a+b)^n=f(b)=\sum_{k=0}^n{}_{n} \mathrm{C}_{k}a^{n-k}a^{n-k}b^k
となり、これは二項定理そのものです。

まとめ

数学の世界ではある時点で学んだ定理が、より進んだ数学を学ぶことで別の視点から証明できるようになったり、意味付けできるようになったりすることが多々あり、面白いです。今回紹介したテイラー展開による二項定理の証明もそのような例の一つになっています。

実は他にも二項定理の証明がないか考えてはみたのですが、今回紹介したもの以外は思いつきませんでした。また今回の証明はネットで探せば出てくるものであり、残念ながらオリジナルのものではありませんでした。皆さんも良く知られている定理のオリジナルの証明を探してみてはいかがでしょうか。

<文/松中>

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