タクシー数に興奮した話
公開日
2024年11月10日
更新日
2025年1月28日
2020年5月30日、オンラインで開催された「ロマンティック数学ナイト」にて、和からの数学講師・松中、通称「まっちゅう」が「タクシー数に興奮した話」と題したプレゼンテーションを行いました。この内容を通じて数学の奥深さとロマンを少しでも感じていただけたら嬉しいです。
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この記事の主な内容
タクシー数とは?
タクシー数について語るとき、避けて通れないのが数学者ラマヌジャンの逸話です。
1918年、ラマヌジャンが病院にいたとき、彼の師であるハーディが見舞いに訪れました。その際、ハーディが「タクシーの番号が1729で、なんて平凡な数字だ」と話すと、ラマヌジャンはこう返しました。
「いえ、1729は平凡な数字ではありません。この数は2通りの立方数の和として表せる最小の数です。」
具体的には、
1729=123+131729 = 12^3 + 1^31729=123+13
1729=103+931729 = 10^3 + 9^31729=103+93
この特性が、この数字を「タクシー数」と名付けるきっかけとなりました。
タクシー数の「ロマン」とは?
今日のテーマは、この「1729」自体よりも、この数を成り立たせている立方数の組み合わせ、すなわち「12と1」「10と9」が持つ数学的なロマンに注目することです。これらの組み合わせがもつ奥深さを探るため、式 x3+y3=1729x^3 + y^3 = 1729×3+y3=1729 を用いて考察を進めていきます。
整数解、有理解、そして楕円曲線
x3+y3=1729x^3 + y^3 = 1729×3+y3=1729 の解を探すと、次の4つの整数解が見つかります。
(12,1)(12, 1)(12,1)
(1,12)(1, 12)(1,12)
(10,9)(10, 9)(10,9)
(9,10)(9, 10)(9,10)
これ以外の整数解は存在しません。しかし、実数解まで広げると無数に存在するため、少し散漫になってしまいます。そこで、「整数と実数の間」に位置する有理数(分数で表せる数)を考えると、適度に面白い議論ができるのです。
有理解の一例として、次のような点があります。
x=−373,y=463x = -\frac{37}{3}, y = \frac{46}{3}x=−337,y=346
このような有理解を探求するには、数学の中でも「楕円曲線」の理論が非常に有効です。
楕円曲線と有理解の足し算
楕円曲線とは、一般的に次のような形で表される曲線です。
y2=x3+ax+by^2 = x^3 + ax + by2=x3+ax+b
見た目には「楕円」に見えませんが、数学の世界では非常に重要な役割を果たします。楕円曲線上には「足し算」という特殊な操作が定義できます。この足し算を用いることで、有理解を次々と生成することが可能になります。
具体的には、楕円曲線上の2つの有理点 AAA と BBB を直線で結ぶと、その直線が曲線と交わるもう1点 C′C’C′ が得られます。この C′C’C′ をさらにx軸で反転させた点 CCC を、A+BA + BA+B と定義します。
この方法を用いると、1つの有理解から新たな有理解をどんどん作り出すことができます。今回の式 x3+y3=1729x^3 + y^3 = 1729×3+y3=1729 も、ある変換を通じて楕円曲線に対応させることで、同じように有理解を拡張することができます。
1729のロマン、再び
驚くべきことに、ラマヌジャンが指摘した整数解 (12,1)(12, 1)(12,1) と (10,9)(10, 9)(10,9) は、この楕円曲線上で「最強の矢印」に対応しています。これら2つの点を基準に足し算を繰り返すことで、すべての有理解を生成できるのです。無限に広がる有理解の世界が、たった2つの点から始まるという事実は、まさに数学のロマンそのものです。
まとめ
今回の話をまとめると、次のようなポイントがあります。
・タクシー数 1729 は、数学的な美しさとロマンを象徴する数である。
・この数式が楕円曲線と結びつくことで、有理解を生成する深い理論が見えてくる。
・ラマヌジャンが見出した整数解は、すべての有理解の出発点である。
数学の世界には、日常生活では味わえない驚きと感動が広がっています。本日のお話が、少しでもその魅力を伝えるきっかけになれば幸いです。