平行曲線を数式を使って考えてみる
公開日
2021年3月5日
更新日
2021年3月5日

こんにちは。和からの数学講師の岡本です。以前「平行曲線」について記事を書きました
今回は、数式を使ってがっつり考えていきます。
この記事の主な内容
1.平面上の曲線とパラメータ表示
平面に描く曲線でなじみ深いのが、放物線です。そのほかにも、円やサイン・コサインなどの波の曲線もよく見かけます。基本的にxy平面に直線や曲線を描く場合、y=f(x)という関数の情報があればxに1や2、3と数字を入れるだけで、yの値が計算でき、点(x, f(x))がプロットされていきます。つまり、「曲線」とは(x, f(x))のペア全体で表されます。これをもう少し一般化すると「xとyの関係」の情報があれば、平面上に図形が描けるというわけです。そこで、第3の変数tを使って、例えばx(t)=\cos t, y(t)=\sin tとしてみます。このとき、点(x(t), y(t))は変数tで支配されており、tの値を動かすと、平面上の点(x(t), y(t))が動きます。
実際にx(t)=\cos t, y(t)=\sin tとした場合、上の図のように半径1の円が描かれます。このように、平面上の曲線Cを変数tで統制できるとき、このtを、曲線Cのパラメータといい、x(t)=\cos t, y(t)=\sin tのように、x座標とy座標をtを使って表す表示をパラメータ表示といいます。以降はtを「時間」とし、一般のパラメータ表示(x(t), y(t))を扱っていくことにします。
2.平行曲線と曲率
ここではパラメータ表示(x(t), y(t))をもつ曲線Cを考えます(\vec{c}(t):=(x(t),y(t))とおきます)。時刻tにおける傾きを表すベクトルは微分をすることで(x'(t), y'(t))となります。また、この方向に直交するベクトルは、内積が0であるように例えば(-y'(t), x'(t))と設定することができ、これを時刻tにおける法線ベクトルと言います。
これから、法線ベクトルの長さの調節を行いたいので、どんな時刻tに対しても常に長さを1になるようにします。方法は簡単で、法線ベクトルの長さで割ればいいだけです。こうしてできたベクトルを単位法線ベクトルといい、\vec{n}(t)で表すことにします。
\begin{align*} \vec{n}(t)=\frac{1}{\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}} \left( \begin{array}{c} -y'(t) \\ x'(t) \end{array} \right). \end{align*}
こうして、曲線Cの時刻tにおける法線方向にd離れた位置は\vec{c}(t)+d\cdot\vec{n}(t)と表すことができます。つまり、曲線Cから距離d離れた平行曲線C_dのパラメータ表示(x_d(t),y_d(t))は
\begin{align*} \begin{cases} x_d(t)=x(t)-\frac{d\cdot y'(t)}{\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}}\\ y_d(t)=y(t)+\frac{d\cdot x'(t)}{\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}} \end{cases} \end{align*}
となることがわかりました。
また与えられたパラメータ表示x(t),y(t)に対して、
\begin{align*} \kappa(t):=\frac{x'(t)y^{\prime\prime}(t)-y'(t)x^{\prime\prime}(t)}{(x'(t)^2+y'(t)^2)^{3/2}} \end{align*}
という関数を定めます。これは曲率といってその時刻における「曲がり具合」を表す指標です。曲線Cの時刻tにおける曲率を\kappa(t)としたとき、上で定めた平行曲線C_dの時刻tにおける曲率\kappa_d(d)には
\begin{align*} \kappa_d(t)=\frac{\kappa(t)}{1-d\kappa(t)} \end{align*}
という公式が知られています。
3.コサイン・カーブの平行曲線を計算してみる
具体的な曲線としてコサイン・カーブy=\cos xの場合を考えてみましょう。
コサイン・カーブはy=\cos xで表されますが、パラメータ表示としてx(t)=t, y(t)=\cos tと考えることもできます。x'(t)=1, y'(t)=-\sin tなので、先ほどの話に従い、距離d離れた平行曲線C_dのパラメータ表示は
\begin{align*} \begin{cases} x_d(t)=t+\frac{d\cdot \sin t}{\sqrt{1+\sin^2t}}\\ y_d(t)=\cos t+\frac{d}{\sqrt{1+\sin^2t}} \end{cases} \end{align*}
となります。実際にd=0.5の場合の平行曲線はこの式を使って以下のように描くことができます。
次に、コサイン・カーブの曲率\kappa(t)を求めてみましょう。曲率の定義に従って計算すると
\begin{align*} \kappa(t)=\frac{-\cos t}{(1+\sin^2 t)^{3/2}} \end{align*}
となります。距離dを0.2, 0.5, 0.7として\kappa(t)と\kappa_d(t)の変化を表したのが以下のグラフになります。
グラフからもわかるように、d=1に近づくにつれてt=\piにおける曲率が急上昇することがわかります。実際にt=\piでの曲率は
\begin{align*} \kappa_d(\pi)=\frac{1}{1-d} \end{align*}
となり、d=1で曲率は無限大に発散します。曲率が無限になるということは、極端な曲がり=「折り曲げ」が発生することを示します。実際にd=1でコサイン・カーブの平行曲線に“異変”が起こっていました。
その後、dを1より大きくすると、無限大に発散する点が2つになり、平行曲線が2回折れ曲がる様子に対応します。
こうして、dを大きくすることで平行曲線は大きく折れ曲がった線となることがわかります。
4.さいごに
いかがでしたでしょうか。今回がパラメータ表示や微分、曲率といったやや高度な数学を使った考察を行ってきました。しかし、しっかりと数式で追うことで、折れ曲がるという現象発生のメカニズムを考察することができました。そう考えると、やはり数学は素晴らしいですね!なお、今回カーブを描くのに使用したのも前回同様Excelです。Excelはうまく活用すれば、いくらでも模様やグラフを描くことができます。Excelを使った図形作成のセミナーとして「Excelアートセミナー」があります。月1回で様々な模様やアートをExcelで描いていくので、興味のある方は是非ご参加ください。
なお、今回の内容(微分や曲率と言う概念など)に関するオススメの本はこちらです。微分幾何学の入門書として定番です。
曲線と曲面(改訂版) -微分幾何的アプローチ
梅原 雅顕,山田 光太郎(著) 裳華房
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<文/岡本健太郎>