マスログ

意外と知らない?方程式で重要な「判別式」の秘密②

公開日

2025年1月22日

更新日

2025年1月17日


 みなさんこんにちは!和からの数学講師の岡本です。前回のマスログに引き続き、「判別式」についてお話してみようと思います。

1.2次方程式の判別式

 復習から入りましょう。2次方程式\(ax^2+bx+c=0\)における解の公式は以下で与えられます。

\begin{align*}
x=\frac{-b\pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{align*}

この式から、ルートの中身を見れば、重解を持つか否かを判別することができます。したがって、\(D:=b^2-4ac\)として、これを2次方程式の判別式と呼びます。

 ここで、この先の議論を簡単にするため、最高次の係数(\(a\neq 0\)であることに注意)を両辺で割ることで消しておきます。

\begin{align*}
ax^2+bx+c=0 \longrightarrow x^2+\frac{b}{a}x+\frac{c}{a}=0
\end{align*}

方程式の右辺は0なので、\(x^2\)の係数を1として考えることにします。つまり、今後は\(x^2+ax+b=0\)という形で考えます。したがって、この方程式の判別式は\(a^2-4b\)となります。

2.解と係数の関係と対称式

 ここで少し話は変わりますが、「解と係数の関係」という話題についてお話させてください。仮に2次方程式\(x^2+ax+b=0\)の2つの解が\(\alpha, \beta\)であるとすると、因数定理より、

\begin{align*}
x^2+ax+b=(x-\alpha)(x-\beta)
\end{align*}

と表現することができます。また\((x-\alpha)(x-\beta)=x^2-(\alpha+\beta)x+\alpha \beta\)であることから、各項の係数を比較すると\(\alpha+\beta=-a, \alpha\beta=b\)であることがわかります。このような関係式を「解と係数の関係」と呼びます。この話題を使った問題として例えば以下のような問題を考えてみましょう。

【問題】2次方程式\(x^2-3x+1=0\)の2つの解を\(\alpha, \beta\)としたとき、\(\alpha^2+\beta^2\)の値を求めよ。

これは入試問題でもよく出る典型的な解と係数の関係にまつわる問題です。方程式の解を具体的に求めてしまうと計算が煩雑になってしまいます。しかし、与えられた式が

\begin{align*}
\alpha^2+\beta^2=(\alpha+\beta)^2-2\alpha\beta
\end{align*}

と表すことができるので、解と係数の関係\(\alpha+\beta=3, \alpha\beta=1\)を代入すれば、\(\alpha^2+\beta^2=7\)であることが求まります。

 しかし、例えば\(\alpha^3+\beta^2\)の値を計算しようとしたとき、上のようにシンプルな計算ができません。それに、解のどちらが\(\alpha\)なのか\(\beta\)なのか決まっていないので\(\alpha^3+\beta^2\)の値は求められません。これは\(\alpha^3+\beta^2\)の式の“対称性”が崩れていることが原因と考えられます。\(\alpha^2+\beta^2\)のように、\(\alpha\)と\(\beta\)を入れ替えても変わらない性質を持つ式のことを「対称式」と呼びます。また、解と係数の関係で登場した\(\alpha+\beta, \alpha\beta\)はその中でも最も基本的な対称式であり「基本対称式」と呼びます。そして、これらには次のような驚くべき性質が知られています。

【対称式の基本定理】どんな対称式も基本対称式だけで表現することができる。

例えば、\(\alpha^2\beta+\alpha\beta^2\)は\(\alpha\)と\(\beta\)を入れ替えても変わらないため、対称式であることがわかります。そのため、必ず基本対称式\(\alpha+\beta, \alpha\beta \)だけで表すことができるはずです。実際に

\begin{align*}
\alpha^2\beta+\alpha\beta^2=\alpha\beta(\alpha+\beta)
\end{align*}

となり、基本対称式で表せます。このことから、2次方程式\(x^2+ax+b=0\)の解\(\alpha, \beta\)の対称式は、必ず\(a, b\)で表すことができることがわかります。

3.解の重複を判定する

 それでは、重解か否かを判別することを考えましょう。2次方程式\(x^2+ax+b=0\)の解\(\alpha, \beta\)は重解であるとは\(\alpha=\beta\)つまり、\(\alpha-\beta=0\)であることを意味します。\(\alpha-\beta\)をどうにかして\(a, b\)で表すことができれば、その値は0であるとき、方程式は重解を持つことが判定できます。そこで、\(\alpha-\beta\)は対称式か否かを考えます。これは\(\alpha\)と\(\beta\)を入れ替えることで符号が変わってしまうため、残念ながら対称式ではありません…。しかし符号のみの違いであることから、2乗した\((\alpha-\beta)^2\)は対称式であることがわかります!したがって基本対称式で表されるはずです!実際に

\begin{align*}
(\alpha-\beta)^2=\alpha^2+\beta^2-2\alpha\beta=(\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta
\end{align*}

となり、解と係数の関係から\((\alpha-\beta)^2=a^2-4b\)となることがわかります。もうお分かりでしょうか?そう!これは2次方程式\(x^2+ax+b=0\)の判別式です!つまり、2次方程式の判別式は、「解の差の2乗」だったのです!

4.Galois理論へ

 ここまでの話は一般の\(n\)次方程式に対しても考えることができます。例えば、3次方程式の3つの解を\(\alpha, \beta, \gamma\)とするとき、方程式が重解を持つか否かを明らかに判別できる式として

\begin{align*}
(\alpha-\beta)(\beta-\gamma)(\gamma-\alpha)
\end{align*}

が考えられます。この値が0になるとき、\(\alpha, \beta, \gamma\)のどれかが一致することから重解であることが言えます。しかし、上の式は3つの解を入れ替えると符号が変わる場合があるため、対称式ではありません。そこで、上の式を2乗することで符号の変化をなくし、対称式とすることができます。したがって、3次方程式の係数のみで表すことができ、これは判別式と考えることができます。

 このような解の構造を詳しく観察する理論としてGalois(ガロア)理論というものがあります。ここまでお話した内容は重解の判別だけでしたが、この他にも「Galois群」というものを考えることで、解の計算が係数の四則演算と累乗根をとるだけで実現できる(つまり「解の公式」を考えることができる)かどうかなど、解を計算することがどれだけ複雑なのかを把握できることが知られています。興味のある方はGalois理論を学習してみましょう!

5.さいごに

 いかがでしたでしょうか?中学高校で登場する2次方程式の「判別式」ですが、意外にも奥の深い話と結びついていました。このように現代数学と直接関係するような問題が中学数学や高校数学で多々登場します。逆に高校までの数学を学習しておくと、非常に奥の深い数学の定理や物理の理論などをある程度追っていけるようになります!みなさんもこの機会に数学の学習をはじめてみてはいかがでしょうか!

■ガロア理論の頂を踏む 石井俊全(著) ベレ出版

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<文/岡本健太郎>

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