PISA2025の日本の結果|3分野OECD1位でも低得点層が増えたのはなぜ?
公開日
2026年9月16日
更新日
2026年9月16日
この記事の主な内容
この記事のポイント
- 日本は3分野でOECD加盟国中1位:数学525点、読解力503点、科学538点でした。
- 低得点層は3分野すべてで増加:順位や平均点だけでは見えない変化が起きています。
- 平均が同じでも、中身は変わります:得点の広がりや、下位層の割合も一緒に見る必要があります。
- 仕事のデータも同じ:平均だけでなく、低い値・高い値がどれくらいあるかを確認することが大切です。
まず結論|日本は高い水準を保った一方、低得点層が増えた
PISA2025で、日本は数学・読解力・科学の3分野すべてでOECD加盟国中1位でした。
ところが、同じ資料を見ると、低得点層の割合は3分野すべてで有意に増加しています。読解力では、平均得点も2022年より13点下がりました。
つまり、日本全体の水準は依然として高いものの、学習についていくことが難しい層が増えているということです。
この記事では、平均点と順位だけでは見えない変化を、習熟度別の割合と簡単なシミュレーションから読み解きます。PISAの話ですが、考え方は売上、顧客満足度、処理時間など、仕事で扱うデータにも応用できます。
PISA2025の日本の結果|数学525点・読解力503点・科学538点
まず、国立教育政策研究所(NIER)が公表した結果を確認します。PISA2025では科学コンピテンシーが中心分野となり、新領域「デジタル世界における学習(LDW)」も実施されました。
| 分野 | 日本の平均得点 | OECD加盟国38か国中 | 全参加国・地域91中 | OECD平均 | 2022年との比較 |
|---|---|---|---|---|---|
| 科学コンピテンシー | 538点 | 1位 | 5位 | 482点 | −9点(有意差なし) |
| 読解力 | 503点 | 1位 | 4位 | 461点 | −13点(有意に低下) |
| 数学的リテラシー | 525点 | 1位 | 5位 | 463点 | −11点(有意差なし) |
| デジタル世界における学習(LDW) | 557点 | 1位 | 4位 | 記載の範囲で未確認 | 新領域のため比較なし |
「有意差あり」とは?
有意差があるとは、「偶然のばらつきだけでは説明しにくい差がある」という意味です。
PISAは、日本の15歳全員ではなく、一部の生徒を選んで調査します。そのため、同じ学力水準でも調査するたびに平均点は少し動きます。その通常の揺れを超えたと判断されたときに「有意差あり」と表現します。
今回、統計的に「平均点が下がった」と言えるのは読解力です。数学と科学は点数が下がって見えますが、偶然の揺れの範囲を超えたとは判断されていません。
「OECD1位」と「全参加国5位」は、なぜ両方正しいのか
理由は、比較する相手の数が違うからです。
- OECD加盟国中1位:OECDに加盟する38か国の中での順位
- 全参加国・地域中5位:調査に参加した91の国・地域の中での順位
OECDに加盟していない高得点の国・地域もあるため、日本はOECD内では1位、全参加国・地域では4位または5位になります。
順位を見るときは、次の3点を確認しましょう。
- 何か国中の順位か:比較する集団が変われば、順位も変わります。
- 得点差は何点か:4位と5位でも、差が2点の場合と50点の場合では意味が違います。
- 順位に幅があるか:標本調査では順位も多少動くため、NIERは「1~3位」のような順位範囲も示しています。
数学の全参加国・地域中の順位を6位とした報道もありますが、本記事ではNIERの公表資料にある5位を採用しています。
平均点が大きく変わらなくても、低得点層は増える
ここが、この記事で最も大切な点です。
日本の数学と科学は、2022年から平均点が有意に下がったとは判断されていません。それでも、低得点層の割合は有意に増えています。
矛盾して見えますが、平均点と得点の分布は別の情報なので、同時に起こり得ます。
PISAでは、得点を習熟度レベルに分けています。ここでは、レベル1以下を低得点層、レベル5以上を上位層として確認します。
| 分野 | 低得点層 2022年 | 低得点層 2025年 | 変化 | 上位層 2022年 | 上位層 2025年 | 変化 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 科学 | 8.0% | 11.3% | 有意に増加 | 18.0% | 17.2% | 有意差なし |
| 読解力 | 13.8% | 18.6% | 有意に増加 | 12.3% | 11.2% | 有意差なし |
| 数学 | 12.0% | 16.1% | 有意に増加 | 23.0% | 22.3% | 有意差なし |
数学では、低得点層が12.0%から16.1%へ増えました。100人の教室に置き換えると、約12人から約16人へ増えた計算です。
それでも平均点は、有意に変化していません。なぜでしょうか。
理由1.平均は、全員の状態を1つの数字にまとめるから
平均点は便利ですが、「誰が、どの点数帯にいるか」という情報を持っていません。低い点数の人が増えても、ほかの点数帯とのバランスによっては平均がほとんど動かないことがあります。
理由2.真ん中が減り、両端が増えても平均は同じになり得るから
中位層の一部が下側へ移り、別の一部が上側へ移ると、中央が薄く、両端が厚い形になります。このとき、全体の平均は同じでも、点数の散らばりは大きくなります。
データの散らばりを表す代表的な指標が標準偏差です。標準偏差が大きいほど、平均から離れた値が多いことを示します。
理由3.平均だけでは「困っている人の増加」を捉えにくいから
読解力では低得点層が13.8%から18.6%へ増え、平均点も13点下がりました。一方、数学と科学では、上位層の割合が大きく変わらないまま低得点層が増え、平均点の変化は有意ではありませんでした。
平均が保たれていることと、全員が同じように保たれていることは別です。
和からの視点|データは「平均・境界・割合」の3点で見る
平均だけに頼らず、次の3点をセットで確認すると、データの変化を見つけやすくなります。
- 平均:全体の中心はどこにあるか
- 境界:下位10%や上位10%の値はどう変わったか
- 割合:基準点を下回る人、または上回る人が何%いるか
たとえば顧客満足度の平均が前年と同じでも、「非常に不満」と答えた人が増えているかもしれません。処理時間の平均が同じでも、極端に時間がかかる案件が増えている可能性があります。
「平均は同じだから問題ない」と判断する前に、端の値と人数も確認する。これが、PISAから仕事へ持ち帰れる読み方です。
シミュレーション|平均を同じにして、散らばりだけを変える
平均が変わらなくても分布が変わることを、人工的なデータで確かめました。
以下はPISAの実データを再現したものではありません。仕組みを分かりやすく示すための例です。
シミュレーションでは、平均525点の20万人の仮想集団を作り、次の操作を行いました。
- 一部を低い点数のグループに置き換える
- 別の一部を上方向へ動かす
- 最後に、全体の平均を525点へ戻す
420点未満を低得点層、607点以上を上位層として比べます。また、10パーセンタイルは「下から10%の位置にある点数」を意味します。
| 指標 | 変更前 | 変更後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 平均 | 524.7 | 525.0 | ほぼ変化なし |
| 中央値 | 525.1 | 525.5 | ほぼ変化なし |
| 標準偏差 | 90.3 | 98.3 | +8.0 |
| 10パーセンタイル | 408.8 | 398.4 | −10.4 |
| 25パーセンタイル | 463.7 | 458.6 | −5.1 |
| 75パーセンタイル | 585.5 | 591.7 | +6.2 |
| 90パーセンタイル | 639.9 | 650.5 | +10.6 |
| 420点未満 | 12.3% | 14.4% | +2.1ポイント |
| 607点以上 | 18.2% | 20.4% | +2.2ポイント |
平均と中央値はほとんど同じです。しかし、下位10%の境界は約10点下がり、上位10%の境界は約11点上がりました。標準偏差も大きくなっています。
平均だけを見れば「変化なし」ですが、中身を見ると点数の広がりが大きくなったことが分かります。
PISAの数学的リテラシーとは?
PISAの数学的リテラシーは、公式を暗記しているか、計算が速いかだけを測るものではありません。
現実の問題を数学で整理し、計算し、その結果が現実に合っているかを判断する力を測ります。簡単に言えば、「数字を使って状況を判断する力」です。
大人が解いても難しく感じる理由は、次の3つです。
- 問題が整理されていない:何を求めるべきかを自分で決める必要があります。
- 余分な情報がある:使う数字と使わない数字を選ばなければなりません。
- 答えの妥当性を判断する:計算結果が現実的か、自分で確かめる必要があります。
これは、売上データを見て何を計算するか決めたり、報告された数字が妥当か判断したりする仕事と同じです。
和からに寄せられる相談でも、「計算方法が分からない」より、「何をどう考えればよいか分からない」という悩みが多くあります。
PISA2025とAI・デジタル|LDW 557点・OECD1位をどう読むか
新領域「デジタル世界における学習(LDW)」で、日本は557点でした。OECD加盟国中1位、全参加国・地域中4位です。
LDWが測るのは、単なるデジタル機器の操作ではありません。NIERの説明では、デジタル環境の中で自分の学習を調整しながら問題を解き、新しい知識を得る力を測ります。
ただし、この結果から「AIやデジタル機器を使えば学力が上がる」とは言えません。PISAは一時点の調査なので、AI利用が原因なのか、学習習慣や家庭環境など別の要因が影響しているのかを区別できないからです。
AIに任せ続けることによる技能低下については、AIデスキリングの記事で解説しています。AIの答えを信じすぎる問題については、オートメーション・バイアスの記事もあわせてご覧ください。
家庭環境と得点の関係|日本7.6%・OECD平均11.6%
PISAは、生徒の家庭の社会経済的な背景と得点の関係も調べています。
日本では、得点のばらつきのうち、家庭背景の違いと関係する割合が7.6%でした。OECD平均の11.6%より小さい値です。
これは、日本では家庭背景と得点の結びつきが、OECD平均より弱いことを示します。
| 指標 | 日本 | OECD平均 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 家庭背景と関係する得点のばらつき | 7.6% | 11.6% | 小さいほど家庭背景との結びつきが弱い |
| 家庭背景が低い25%層の科学得点 | 504点 | 記載の範囲で未確認 | 日本の値はOECD全体の平均482点を上回る |
| 家庭背景が高い25%層との得点差 | 71点 | 85点 | 日本のほうが差が小さい |
ただし、家庭背景との結びつきが弱いことと、低得点層が増えていないことは別の話です。
日本は家庭背景による差が比較的小さい一方で、3分野すべての低得点層が増えました。この資料だけで原因は特定できませんが、「家庭による格差が小さいから問題ない」と結論づけることもできません。
大人の数学の学び直しへ活かせること
PISA2025から大人が持ち帰れるのは、「順位や平均だけでなく、分布を見る」という習慣です。
- 平均だけでなく、低い値と高い値を見る
- 基準点を下回る人・上回る人の割合を見る
- 前年と比べて、データの広がりが変わっていないかを見る
この3点を加えるだけで、同じデータから読み取れる情報が増えます。
また、PISAが測る「現実の中で数字を使って判断する力」は、学校を卒業してからも必要です。売上データを前に何を計算するか決める、報告された数字が妥当か考えるといった場面が該当します。
和からでは、統計・データ分析の個別指導で、一人ひとりの仕事に合わせて数字の考え方を扱っています。生成AIの仕組みを数学から理解したい方には、生成AIに必要な数学の個別指導もご用意しています。
よくある質問
PISA2025で、日本の数学の結果はどうでしたか?
数学的リテラシーは525点で、OECD加盟国38か国中1位、全参加国・地域91中5位でした。2022年より11点低いものの、統計的な有意差はありません。一方、低得点層は12.0%から16.1%へ有意に増えました。
PISAの数学的リテラシーは、大人にとってどのような力ですか?
現実の問題を数学で整理し、解き、その結果が現実に合っているか判断する力です。仕事では、「何を計算すべきか」を決め、出た数字が妥当か考える力にあたります。
平均点が変わらないのに、低得点層が増えるのはなぜですか?
平均は、全員の状態を1つの数字にまとめたものだからです。低い点数の人が増えても、ほかの点数帯とのバランスによって、平均がほとんど動かないことがあります。習熟度別の割合や、下位層の境界点も見る必要があります。
PISA2025の結果から、AIの影響は分かりますか?
この調査だけでは分かりません。AI利用と得点に関係が見つかっても、AIが原因なのか、学習習慣や家庭環境など別の要因が影響したのかを区別できないためです。
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出典・注記
シミュレーションの条件:Python(NumPy)を使用し、乱数種は20260916、標本サイズは20万です。平均525・標準偏差90の正規分布からデータを作り、10%を平均425・標準偏差80の値に置き換え、別の15%に67点を加え、最後に全体の平均を525.0へ合わせました。420点未満を低得点層、607点以上を上位層としています。PISAの実データを再現したものではありません。
出典:文部科学省・国立教育政策研究所「PISA2025のポイント」(PDF資料)、OECDプレスリリース(PISA 2025: Students’ reading and mathematics performance declined sharply across the OECD)。
本記事は、PISA2025 Volume Iが公表された2026年9月時点の情報に基づいています。以降の巻が公表され次第、必要に応じて追記します。
この記事に出てきたような統計のことばは、A4・2ページの「早わかりシート」に1枚でまとめてあります。平均・標準偏差・p値・相関などを、「一言でいうと」「どんなときに使う」「よくある勘違い」の3点で整理しました。
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