ナイチンゲールの師匠!近代統計学の始祖「アドルフ・ケトレー」
公開日
2021年2月22日
更新日
2021年2月22日
皆さんはBMI指数と呼ばれる数字をご存知でしょうか。体重と身長を使って肥満度を簡単に測ることができる指標で、世界中で使用されています。日本では健康診断でBMIが25以上であると「肥満気味」と分類されます。
実はBMI指数を考案したのは、近代統計学の父と言われる「アドルフ・ケトレー」です。統計学の歴史を紐解くと3つの源流があると言われていますが、当時それらの源流をまとめ上げ、統計学を社会現象・人間社会に適用できることを示した、まさに統計学における「始祖」のような存在です。2月22日はケトレーの誕生日ですので、彼の人物像と、行っていたことをお話ししようと思います。
この記事の主な内容
アドルフ・ケトレーとは?
アドルフ・ケトレー(Adolphe Quetelet)は1796年にベルギーに生まれ、1819年に円錐曲線理論に関する数学の研究の功績により博士号を授与されます。1820年には王立科学アカデミーのメンバーに選ばれ、天文学の研究をはじめます。そして1823年、当時弱冠27歳のケトレーは政府に天文台の創設を提案しています。現在でも太陽などの観測が行われているベルギー王立天文台は、こうして誕生したのです。
ケトレーは天文学の研究を行う傍ら、犯罪率や保険などの政府統計に関する事業に関わり、人間社会にも統計学が適用できないか模索していきました。その先にたどり着いたもの、それは普段私たちがよく目にする「平均値」です。
ヒストグラムと正規分布
このグラフを見てください。なんのグラフだと思いますか?
正解は「蟹の甲羅の長さを999体計測して、長いものや短いものがどの程度あるかをまとめた」グラフです。そんなことする人がいるのかと思われるかもしれませんが、カール・ピアソンと呼ばれる統計学者によって作成されました。ピアソン本人によって「ヒストグラム」と名付けられたこのグラフは、現在でもデータのばらつきを把握するために利用されます。
次に、このグラフを見てみましょう。
こちらはピアソンのヒストグラムよりも前に作成された、「6000人近くのスコットランド兵の胸囲をまとめた」グラフです。実はヒストグラムを発明したのはケトレーで、名前がつけられなかったこのグラフにピアソンが後から命名したのです。蟹の甲羅の長さも、人間の胸囲も、同じようにばらつくのです!
さて、どちらのグラフにもヒストグラムに重ねるように描かれた曲線があります。この曲線は「正規分布」と呼ばれています。当時正規分布は天文学で観測誤差を表す分布として使われていましたが、ケトレーはこの分布が人間社会においても現れることを発見しました。そして1835年に「人間とその能力の発展について-社会物理学の試み(Sur l’homme et le développement de se facultés, ou Essai de physique sociale)」を出版し、人間の行動や社会の状態を扱う社会学に統計学が持ち込まれる端緒になりました。
さらに、ケトレーは各国の大小さまざまなデータを集計して「規則」や「法則」を探す中で、統計データの取り方の違いや、そもそもの不備があることに気付きました。1853年にケトレー自らの発案により開催された第1回国際統計会議(現在の国際統計協会)では、「データの処理手順の国際共通化や長さや重さなどの単位の統一化が重要である」と説きました。
この姿勢に感銘を受けた者こそ、看護師であり「統計学の母」とも呼ばれるフローレンス・ナイチンゲールです。ナイチンゲールは若い頃からケトレーの著作「社会物理学」を読み、それが彼女が行った統計の基礎となったと言われています。1860年には、ナイチンゲールとケトレーは、第4回国際統計会議において衛生統計の統一基準の採択を実現させています。人間社会に広く活用される流れを作ったのが、ケトレーが「近代統計学の祖」と呼ばれる所以です。
ナイチンゲールについては、過去記事で取り上げていますのでまだみていない方は良ければそちらもご確認ください。
おわりに
いかがだったでしょうか。ケトレーによって統計学が人間の様々な特徴や行動にも活用できることが示され、分析を行うことができる道筋が示されました。そのほか人間の身体的、思想的な平均を極めた「平均人(l’homme moyen)」など、ケトレーは多くの概念をもたらし、その後の統計学に計り知れない影響を与えています。統計をこれから学びたい方は、ケトレーについて調べてみると良いでしょう。
「平均」、「正規分布」など、現代統計学の原点ともいえる重要な概念について学びたい方は、無料セミナーにお越しください。様々な歴史や事例をもとに、わかりやすく解説しています。
ケトレーについては実は自身の著作の他に日本語の書籍が多くありませんが、ナイチンゲールやピアソンなどの統計学者を話すときには必ずケトレーの名前が挙がります。ご興味がある方はぜひ一度読んでみてください。
それではまた。
<文/岡崎 凌>
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