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抜取検査とOC曲線|「何個調べれば足りるか」を数字で決める

公開日

2026年10月27日

更新日

2026年10月27日

この記事のポイント

・OC曲線は「不良率pのロットが合格する確率」を並べたものです。サンプル数nと合格判定個数cを決めた瞬間に、この曲線は決まります
・N=1,000からn=80を抜きc=2で判定する方式は、不良率2%のロットを78.9%の確率で通します(本記事の数値はすべてPythonで検算)
・サンプルを50個から500個へ10倍にしても、見逃しの目安(合格確率10%となる不良率)は7.56%から3.06%へ下がるだけです
・合格確率はロットの大きさにほとんど影響されません。N=500でも10万でも、同じn・cなら差は1ポイント程度です
・現行の計数抜取検査は JIS Z 9015-1:2006(ISO 2859-1:1999 と一致)。規格の本体はAQLの表ではなく切替え規則です

結論|nとcを決めた瞬間に、両者のリスクは決まっています

「何個調べれば足りるか」に、ロットの大きさから自動的に決まる正解はありません。順序はむしろ逆です。サンプル数nと合格判定個数cを決めると、その方式が「どの不良率のロットをどれだけの確率で通すか」が一意に決まります。この対応を並べたものがOC曲線で、JIS Z 9002 は「抜取検査方式の特性を表わすため,ロットの不良率に対してその抜取検査で合格になる確率を示した曲線」と定義しています。

たとえば1,000個のロットから80個を抜き、不良が2個以下なら合格とする方式。不良率1%のロットは96.1%が合格し、2%でも78.9%が合格します。5%のロットですら21.9%は通ります。「80個も調べたのだから安心」ではありません。通す確率と止める確率が、検査を始める前から数字で決まっているだけです。

ですからnを増やすかcを下げるかは、「厳しくする/甘くする」という話ではなく、生産者危険αと消費者危険βのどちらをどれだけ削るかの選択です。以下、実際に計算した表で、nを変えたとき・cを変えたときにOC曲線がどう動くかを見ていきます。

公式情報の確認

日本の計数値抜取検査の中心は JIS Z 9015-1:2006 計数値検査に対する抜取検査手順−第1部:ロットごとの検査に対するAQL指標型抜取検査方式です(1999年5月20日制定、2006年11月20日改正、ISO 2859-1:1999 とIDT、2021年10月20日確認)。孤立ロット向けは JIS Z 9015-2(LQ指標型)、全体像の解説は JIS Z 9015-0。α=0.05・β=0.10 を明記する JIS Z 9002:1956 も2024年6月20日に確認され現行です。規格票は日本規格協会(JSA)、QC検定の出題範囲は品質管理検定レベル表が一次情報です。

1. その検査は本当に必要か|全数・抜取・無検査の分かれ目

抜取検査の設計に入る前に、そもそも検査するかどうかの判断があります。比べるのは1個を検査する費用 k1 と、不良を1個流したときの損失 k2 の2つだけです。デミングが示した分岐点は p* = k1/k2。工程の平均不良率がこれより低ければ無検査、高ければ全数検査が、平均費用の上で有利になります。

検査費20円、流出したときの手直し・回収費が2,000円なら分岐点は1%。損失が20,000円まで上がれば分岐点は0.1%(1,000ppm)まで下がります。この規則は工程が統計的管理状態にあることが前提で、平均不良率が読めない工程には使えません。そこが抜取検査の出番です。

全数検査も万能ではありません。JIS Z 9015-0 は「全数検査はうまくいくとは限らない」「実際に,検査のための費用,時間及び人員が不十分なときには,全数検査は見せかけだけになることさえある」と書いています。費用も無視できません。1,000個を1個20円で全数検査すれば20,000円、80個の抜取なら1,600円で、12.5分の1です。

破壊検査と致命的不適合はどう扱うか

検査が破壊試験なら全数検査は原理的に不可能で、抜取以外の選択肢がありません。逆に致命的な不適合については、JIS Z 9015-0 は「非破壊検査ができる場合には,一般に採用される解決法は,その致命的特性に対してサンプルサイズは,ロットサイズと同じで合格判定個数は0の抜取方式を使用することである」としています。抜取検査は「安全に手を抜く方法」ではなく、費用と危険の配分を決める方法だと考えてください。

2. OC曲線を実際に描く|N=1,000、n=80、c=2

具体的に計算します。ロットN=1,000、サンプルn=80、合格判定個数c=2(不良3個以上で不合格)。サンプル中の不良数は、ロットから戻さずに抜くので正しくは超幾何分布に従います。実務では二項分布で近似するのが一般的なので、両方を並べました。

ロットの不良率 p ロット1,000個中の不良数 合格確率 L(p)(超幾何分布) 合格確率 L(p)(二項分布) 不合格になる確率
0.5% 5個 99.6% 99.2% 0.4%
1% 10個 96.1% 95.3% 3.9%
2% 20個 78.9% 78.4% 21.1%
3% 30個 56.4% 56.8% 43.6%
4% 40個 36.4% 37.5% 63.6%
5% 50個 21.9% 23.1% 78.1%
6% 60個 12.4% 13.4% 87.6%
8% 80個 3.5% 4.0% 96.5%
10% 100個 0.9% 1.1% 99.1%

読み方はこうです。不良率1%のロットは96.1%が合格し、2%でも78.9%が合格します。「n=80も調べれば2%の不良は止まる」と思われがちですが、実際には5回に4回は通過します。止まる確率が半分を超えるのは不良率3%を過ぎたあたりで、この方式の合格確率がちょうど50%になるのは不良率3.33%のときです。

超幾何分布と二項分布の差は最大でも1.2ポイント(不良率5%のときの21.9%と23.1%)でした。サンプルがロットの1割程度までなら、二項分布で計算して差し支えありません。ここでは n/N = 8% です。

生産者危険αと消費者危険βの定義

JIS Z 9002 は、なるべく合格させたいロットの不良率の上限を p0、なるべく不合格としたいロットの不良率の下限を p1 と置き、生産者危険α=不良率 p0 のロットが不合格となる確率、消費者危険β=不良率 p1 のロットが合格となる確率と定義しています。そのうえで「このさいα は0.05,β は0.10を基準とする」と明記しています。

この定義を先ほどの方式に当てはめます。合格確率が95%になる不良率は1.03%で、これがα=0.05に対応するp(AQLに相当)。合格確率が10%になる不良率は6.52%で、これがβ=0.10に対応するp(LTPDに相当)です。1%の工程は守られ、6.5%のロットは9割止まる。それが n=80・c=2 という方式の正体です。

ロットの大きさはほとんど効きません

よくある誤解を数字で潰しておきます。n=80、c=2、不良率2%のまま、ロットの大きさだけを変えて超幾何分布で計算すると、N=500で79.52%、N=1,000で78.92%、N=5,000で78.53%、N=10万で78.45%。差は1ポイント以内で、Nを無限大にした二項分布の78.44%に収束します。「ロットの10%を抜く」といった比率での指定に、統計的な根拠はありません。

3. nを増やすと、何がどれだけ良くなるのか

では増やす価値はどこにあるのか。JIS Z 9015-1 の主抜取表から、AQL=1.0%・なみ検査・1回抜取の方式をサンプルサイズ順に並べ、それぞれのOC曲線の要点を計算しました。同じAQLを掲げていても、nが変わればcも変わり、性能はまったく違います。

サンプル文字 サンプル n 合格判定個数 c 不良率1%のロットの合格確率 生産者危険 α 不良率3%のロットを止められる確率 合格確率10%となる不良率(β=0.10) 識別比
H 50 1 91.06% 8.94% 44.5% 7.56% 10.57
J 80 2 95.34% 4.66% 43.2% 6.52% 6.33
K 125 3 96.26% 3.74% 51.9% 5.27% 4.79
L 200 5 98.40% 1.60% 55.7% 4.59% 3.49
M 315 7 98.50% 1.50% 73.0% 3.71% 2.92
N 500 10 98.68% 1.32% 88.5% 3.06% 2.47

左から読みます。生産者危険は n=50 の 8.94% から n=500 の 1.32% へ下がります。同じ「AQL 1.0%」を掲げていても、小さいサンプルでは不良率1%の良いロットを1割近く落としてしまうわけです。消費者側、つまり合格確率が10%になる不良率は7.56%から3.06%へ。サンプルを10倍にして、見逃しの目安は半分にしかなりません。

増やしても一直線には良くなりません

右から3列目に目立つ逆転があります。n=50からn=80へ増やすと、不良率3%のロットを止められる確率はむしろ44.5%から43.2%へ下がります。cが1から2へ上がった分が、nの増加分を食っているためです。サンプル数だけを見て「増えたから厳しくなった」とは判断できません。n=125で51.9%、n=500でようやく88.5%です。

いちばん右の識別比は、β=0.10に対応する不良率をα=0.05に対応する不良率で割った値です。1に近いほど、良いロットと悪いロットを切り分ける力が強いことになります。n=50で10.57、n=500で2.47。サンプルを10倍にして識別比は4分の1、おおむね√nに比例した改善しか得られません。JIS Z 9015-0 が「抜取検査の立場からは,大きいロットの方が有利である。それは大きいロットからは大きいサンプルを取ることが経済的であり」と述べているのは、この事情の裏返しです。

4. cを変えるとどうなるか|「c=0が一番厳しい」の誤解

今度はn=80に固定し、合格判定個数cだけを動かします。同じ80個を調べても、判定基準を1つ動かすだけでOC曲線は大きく移動します。

合格判定個数 c L(0.5%) L(1%) L(2%) L(3%) L(5%) α=0.05に対応する不良率 β=0.10に対応する不良率
0 67.0% 44.8% 19.9% 8.7% 1.7% 0.064% 2.84%
1 93.9% 80.9% 52.3% 30.4% 8.6% 0.446% 4.78%
2 99.2% 95.3% 78.4% 56.8% 23.1% 1.030% 6.52%
3 99.9% 99.1% 92.3% 78.1% 42.8% 1.726% 8.16%
4 100.0% 99.9% 97.8% 90.7% 62.9% 2.495% 9.74%
5 100.0% 100.0% 99.5% 96.7% 78.9% 3.317% 11.28%

c=0、いわゆるゼロ・ディフェクト方式を見てください。α=0.05に対応する不良率は0.064%、つまり641ppmです。641ppmという極めて良いロットですら、20回に1回は不合格になります。不良率0.5%の工程なら3回に1回は落ちる計算(合格確率67.0%)で、生産者にとっては相当に不利な方式です。

一方、消費者側から見るとc=0のβ対応点は2.84%で、c=2の6.52%より低い。「c=0は厳しい」は、生産者に厳しいという意味でも、見逃しが小さいという意味でも正しいのです。ただしその代償として、良いロットまで大量に不合格になります。合否のやり直しや再提出の手間まで含めて割に合うかは、別に検討が必要です。

cを1つ動かすと、両方が同じ向きに動きます

表の右2列を縦に追ってください。cが1増えるごとに、α側は0.064%→0.446%→1.030%→1.726%、β側は2.84%→4.78%→6.52%→8.16%と、どちらも右へずれます。nを増やさずにcだけ緩めれば、生産者が楽になった分だけ消費者が損をする。両方を同時に良くする方法は、nを増やす以外にありません。ここが抜取検査の設計のすべてです。

実際、p0=1%でα≦0.05、p1でβ≦0.10 を満たす最小の方式を計算すると、p1=10%ならn=52・c=2、5%ならn=132・c=3、3%ならn=390・c=7、2%ならn=1,235・c=18。p1/p0 を10から2に近づけるだけで、必要なサンプルは約24倍になります。「合格させたい品質」と「止めたい品質」を近づけるのは、それだけ高くつきます。

5. JIS Z 9015-1 の骨格|AQLと切替え規則

最後に規格の構造です。JIS Z 9015-1 はAQL(合格品質限界)を「継続して連続のロットが抜取検査に提出されるときに,許容される工程平均の上限の品質水準」と定義します。ロット1つの合否基準ではなく、工程平均の上限である点が要です。同じ箇条の備考には「AQLよりも悪い品質のロットもかなり高い確率で合格となるが,AQLの明示はこれが望ましい品質水準であることを意味しない」とあります。表2で見たとおりです。

サンプルサイズはロットサイズと検査水準から決まります。一般用途の水準I・II・IIIと、小さいサンプルで済ませる特別水準S-1〜S-4があり、規格は「他の指定がなければ検査水準IIを使用する」と定めています。

規格の本体は表ではなく切替え規則です

この規格が定めるのは「抜取検査スキーム」、すなわち複数の抜取検査方式と、一つの抜取検査方式から他の抜取検査方式へ変更するための切替えルールとの組合せです。1回の合否判定だけを見ていると、この規格の効き目の大半を捨てることになります。

切替え 条件(規格の定め) 箇条
なみ検査 → きつい検査 連続5ロット以内の初検査で2ロットが不合格になった場合(再提出ロットは無視する) 9.3.1
きつい検査 → なみ検査 連続5ロットが初検査で合格になった場合 9.3.2
きつい検査 → 検査の中止 一連のきつい検査のもとで、初検査での不合格ロットの累計が5に達した場合 9.4
なみ検査 → ゆるい検査 切替えスコアの最新の値が30以上、かつ生産が安定、かつゆるい検査が望ましいと所管権限者が判断した場合 9.3.3.1
ゆるい検査 → なみ検査 1ロットでも不合格になった、または生産が不規則になったり停滞した、またはこれ以外の条件から復帰が正当となった場合 9.3.4

とくに検査の中止が要です。きつい検査を続けてもなお不合格が累計5に達したら、この規格による合否判定検査は停止します。抜取検査は「悪い品を取り除く仕組み」ではなく、供給者に工程そのものを直させる仕組みだと、この一文が示しています。

AQL・LQ・LTPDの関係を整理する

用語の対応も押さえておきます。連続ロットにはAQL指標型(JIS Z 9015-1)、孤立ロットにはLQ指標型(JIS Z 9015-2)を使います。JIS Z 9015-2 は「LQにおける消費者危険は通常は10%未満,悪くても13%未満である」としています。JIS Z 9015-1 の消費者危険品質(CRQ)は「抜取検査方式で,規定された消費者危険に対応するロット又は工程の品質水準」で、備考に「消費者危険は,通常10%が用いられる」とあります。

一方のLTPDはDodge-Romigの計数抜取表に由来する古典的な用語で、JIS Z 9015シリーズやJIS Z 9002では使われていません。中身はLQ・CRQ・JIS Z 9002 の p1 と同じ「β=0.10に対応する不良率」です。取引先の仕様書や教材で見かけたら、どの体系の言葉かを確認すると混乱しません。

まとめ

・OC曲線はn と c だけで決まります。N=1,000・n=80・c=2 なら、不良率2%のロットは78.9%、5%でも21.9%が合格します
・ロットの大きさは合格確率をほとんど動かしません。N=500と10万で78.4〜79.5%。「ロットの10%を抜く」に根拠はありません
・nを50から500へ10倍にしても、生産者危険は8.94%→1.32%、β対応点は7.56%→3.06%。識別比は10.57→2.47で、改善はおおむね√nどまりです
・cだけを動かすと、生産者危険と消費者危険は同じ向きに動きます。n=80・c=0 は641ppmの優良ロットでも20回に1回落とします
・JIS Z 9015-1 の本体は切替え規則。きつい検査で不合格が累計5に達すれば、規格による検査そのものを停止します

抜取検査で困っている現場の多くは、サンプル数の決め方を知らないというより、いま使っている方式のOC曲線を一度も見たことがないのだと思います。n と c は手元にあるはずですから、まず自分の方式で表1と同じ計算をしてみてください。「不良率3%のロットを何%止められるのか」が数字で出た時点で、増やすべきか、そもそも検査を続けるべきかの議論が具体的になります。

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