こんにちは。和からの数学講師の岡本です。実は趣味で風景写真を撮ります。まずは大阪で撮ったこちらの写真をご覧ください。

東大阪市役所の展望台から見える高速道路です。曲線が美しいですよね。個人的に高速道路のジャンクションはたまらなく好きです。しかし、この曲線、ただ美しいだけではありません。実は数学的に意味があり、私たちが安全に運転できるための曲線になっているのです！

１．安全に運転ができる曲線とは？

車を運転するとき、ハンドルを傾けることで車はカーブを描きます。特に、ハンドルの傾きを一定にするとカーブは「円」を描きます。

つまり、円弧の道路は運転しやすいのです。実は高速道路のジャンクションなどの極端なカーブは円弧になっています。実際に運転をしたことがある方はイメージしやすいかもしれません。同じスピードでハンドルを「ちょうどいい角度」に保ったまま運転すると、自動的にカーブに沿う感覚です。

しかし、皆さんはお気づきでしょうか？もともと直線上を運転していて、途中からカーブに入ることを想像してください。カーブになった瞬間、ハンドルを「ちょうどいい角度」にするというのは結構難易度高いですよね…。実際はスピードも出ていますので、「ちょうどいい角度」を瞬時に判断しなければ、脱輪してしまうかもしれません。直線から円弧に入る間に、ハンドルをゆっくりと傾ける”猶予区間”というのが欲しいわけです。実はその“猶予区間”というのはしっかり設計されており、緩和曲線といいます。緩和曲線には、ハンドルを一定のスピードで傾けることによって実現するクロソイド曲線というものを採用しています。つまり、安全に運転ができるのです。

上の図は直線と円弧と緩和曲線を表しています。「曲率」とはいわば曲線の曲がり具合のことで、「ハンドルの傾き具合」と思ってもらっても構いません。

２．クロソイド曲線

さて、クロソイド曲線について詳しく話をしましょう。クロソイド曲線はイタリアの数学者アーネスト・チェザロによって名付けられました。「クロソイド」という名前はギリシャ神話に登場する運命の糸を紡ぐ女神「クローソー」に由来しています。なんとも素敵なネーミングセンスですね！

このクロソイド曲線ですが、先ほど説明した通り、「一定の速さでハンドルを傾ける」＝「曲率の変化率が一定」である場合描かれる曲線です。式で書くと意外にも難しく、「フレネル積分」といわれる類の積分を使って次のように使媒介変数表示されます。

\begin{align*}(x(t),y(t))=(\int_0^{t}\cos(\frac{\theta^2}{2})d\theta, \int_0^{t}\sin(\frac{\theta^2}{2})d\theta )\end{align*}

簡単な関数で表現できないので、円のようにExcelで直接描くことはできません（数値積分の有名公式「シンプソンの公式」を用いて近似的に描くことはできます）。

４．さまざまな高速道路の写真

最後に、高速道路の曲線美をご覧ください。

東京湾に浮かぶパーキングエリア「海ほたる」。パーキングエリアに入る大胆なカーブがいいですね。なお、プチ情報ですが、所在地は千葉県木更津市になります。

続いて福岡県博多ポートタワーから見えた都市高速（千鳥橋ジャンクション付近）です。３方向に分かれる２重カーブが美しいですね。

続いては北九州の名所「皿倉山」からお届けします。ふもとにある大谷ジャンクション。何重もの道路が描くクロソイド曲線がたまりません！

そして東京都中央区日本橋にある箱崎ジャンクション。これはジャンクションマニアには有名な場所で、通称「ヤマタノオロチ」と言われています。いくつもの道路がダイナミックに曲線を描く姿は圧巻です！

美しさだけでなく、機能性・安全性も重視したクロソイド曲線。ぜひ一度ゆっくりと高速道路を眺めてみてはいかがでしょうか。

５．さいごに

いかがでしたでしょうか。今回ご紹介した道路のように、私たちの日常生活には数学があふれています。これを機に、いろいろな建物の「形」や「変化」に注目してみると世界が変わるかもしれません。

なお、今回の「クロソイド曲線」や、その他さまざま数学の応用やトピックを非常に分かりやすくまとめた以下の本がおすすめです！これ一冊でかなり数学を楽しむことができると思います。

監修はロマンティック数学ナイト、ゼミ等でおなじみの加藤文元先生です。

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<文/岡本健太郎>