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2020/05/21

日本のPCR検査数はなぜ少ないのか?検査における統計学的リスクとは

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コロナウイルスの報道には、「PCR検査」「治験」「感染モデル」等、医療や統計に関わる言葉がちらほら現れます。中でもPCR検査については、コロナウイルスに罹患しているかを判断できるとても重要な検査であるにも関わらず、「日本ではPCR検査数が少なすぎる」という声もあります。

しかし、本当に日本では「PCR検査が少ない」のでしょうか?もしそうなら、「なぜ」少ないのでしょうか?

今回は、コロナウイルスの検査であるPCR検査が、なぜ日本で少ないのか、検査数は増やすべきなのか、統計学の部分からお話ししていこうと思います。

1. PCR検査とは

最近ニュースでよく耳にする「PCR検査」とは、一体どのようなものなのでしょうか。PCRは、polymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、遺伝子(DNA)検査のために用いられる手法です。被験者から採取した少量のDNAを増幅させ、病気などの判定することができます。例えば、がんになりやすいかどうかを調べる際に利用されます。PCR検査を用いることで、コロナウイルスにかかっているかどうかの判定を行うことも可能です。現在PCR検査は新型コロナウイルスにかかっているかどうかを調べる、数少ない検査法の一つです。今、その検査数が、「少なすぎるのではないか」と言われているのです。

2. 日本のPCR検査数は少ないのか

それでは、日本のPCR検査数は少ないのか、実際に見てみましょう。人口10万人あたりのPCR検査の実施数をみると、日本は200件未満となっています。それに対して、イタリアやドイツが約3,000件、アメリカが1,800件、韓国が1,200件です。確かに人口に対して、感染者が多く報告されている諸外国と比較しても検査数は少ない、と言えそうですね。

各国の10万人あたりのPCR検査数。日本のPCR検査数はとても少ないと言えます。

3. なぜ、PCR検査数が少ないのか

PCR検査はDNA増幅などに時間がかかると言われており、検査結果が出るまでに4~5時間が必要とも言われています。しかし、それは他の国も同じはず。そこで今回は、なぜ検査数が日本では少ないのかを考える上で、「逆に増やすとどうなるのか」ということを考えてみようと思います。どんな検査であっても、間違えてしまう確率(リスク)があります。これは人が検査手順を間違えたか、検査器に不具合があったかに依らず、常に間違える確率があります。これを統計の言葉では、「検定の過誤」と呼びます。

例えば、検査結果と患者の実際の状態について、次のような結果になったとしましょう。

この結果の中で、間違っている部分は「感染しているにも関わらず検査結果が陰性である」20人と、「感染していないにも関わらず検査結果が陽性である」10人となります。今回は病気の診断についての話なので、この分野でよく用いられる「感度」と「特異度」という言葉で説明します。

病気の人を正しく病気であると診断できる確率を「感度」と言います。感度80%では、罹患者のうち80%は正しく「罹患者である」と判断できますが、20%は「罹患していない」と判断されてしまいます。

感度。実際に感染している人のうち、正しく陽性の判断を下せる割合。

一方、病気でない人を正しく病気でないと診断できる確率を「特異度」といいます。特異度を90%とすると、罹患していない人の90%は「罹患していない」と判断される一方、10%は「罹患している」と判断されることになります。

特異度。実際に感染していない人を、正しく陰性であると判断できる割合。

統計学的な検定だからいって、現実の検定において感度・特異度が100%になるわけではありません。統計学だからこそ、間違える確率について正確に把握することが重要なのです。

4. あなたがPCR検査で「コロナウイルスに感染している」と言われた時に、実際に感染している確率は?

それでは、もしあなたがPCR検査を受け、「コロナウイルスに感染しています」という結果が出た場合に、本当に感染している確率がどの程度あるか計算してみましょう。少し計算も出てきますが、出来るだけ表などを使いながらお話ししていきます。苦手な方は結果だけご覧ください。

まずは、日本に新型コロナウイルスに感染している人は、2020年5月10日時点で延べ15,847人となっています。ここから回復した8,293人、死亡した633人を除いて、現段階で感染状態にあるのは6,921人となります。しかし、感染者と言っても検査の結果判明している分にすぎません。専門家の中にも、実際にはこの10倍から20倍の患者がいてもおかしくないという意見もあります。仮に20倍とすると、日本には138,420人の感染状態の人がいるということになります。日本の人口は1.265億人ですから、913人に1人が感染している、ということになります。ここでは計算しやすくするために1,000人に1人が感染状態であると仮定します。

つまり、日本における新型コロナウイルスの感染者は、国民の約0.1%ということになります。新型コロナウイルスのPCR検査について、新しいウイルスのため正確に分かっているわけではありませんが、感度は70%、特異度は99%程度であると想定します。インフルエンザ検査の一般的な検査では、感度 = 70%、特異度 = 98%と言われていますので、ここでは同じ程度として考えて計算してみましょう。

仮に、ある地域に住む住人、10万人全員に対して、検査を行うとどうなるか考えてみましょう。0.1%の方がコロナウイルスに感染しているので、10万人のうち100人が感染者で、残る9万9900人は感染していない、となります。


PCR検査の感度は70%ですから、100人の感染者のうち、70人は陽性に出ます。一方、30人は陽性にはなりません。この人たちは感染しているのに検査結果は陰性なのです。


しかし、9万9900人の感染していない人も全員が検査を受けています。PCR検査の特異度は99%ですから、このうち1%(つまり999人)は病気でないにも関わらず陽性と診断されてしまうということになります。


10万人の検査を実施して、結果が陽性になるのは、実際に感染している100人のうちの70人と、感染していない9万9900人のうちの999人。合わせて1069人です。しかし、この中で実際に感染していたのは70人だけですよね。検査結果が陽性になった人のうち、わずか6.5%しか本当の感染者がいない、ということになります。


この状況では、70人の感染者に加えて、実際にはコロナに感染していない999人についても病院やホテルに隔離することになります。場合によってはアビガンなどの副作用の強い薬が投与されるかもしれません。そして、家族や友人、同僚も濃厚接触者とされて自己隔離が促される可能性があります。不安な思いをしなければならないかもしれません。金銭面についても、自治体や国は、この999人分の隔離にかかる費用を負担する必要が出てくるのです。ベッド数も間に合わなくなる可能性がありますし、医療現場への負担の増加も深刻なものになりかねません。これは、果たして望ましい状況と言えるでしょうか。

5. 終わりに

私は、「PCR検査数を増やすべきではない」と主張するつもりはありません。実際に医師が「PCR検査すべき」と判断したにも関わらず検査が実施できない、という例もあり、そうした状況は改善する必要があると思います。

ですが、「不安だから」という理由で検査をしてしまうと、仮に陽性だったとしても実際に感染している割合が6.5%しかないのです。現在、外出制限や、医療現場の継続的な努力によって日本でのコロナウイルスの新規感染者数の増加が抑えられています。もちろんまだ予断を許さない状況ではあります。引き続き一人一人にできることを行いながら、情報を正しく判断して、一丸となって乗り越えて行きたいですね。

今回お話しした検査におけるリスクについて、より詳しく知りたい方、統計学のセミナーも開催しております。無料のオンラインセミナーもございますので、ぜひお気軽にお越しください。

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それではまた。

<文/岡崎 凌>
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参考

厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(2020/5/4)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000627559.pdf

PCR検査は増やすべきなのか?
https://www.yushoukai.org/blog/pcr

インフルエンザの感度・特異度について
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22371850/

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