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カプランマイヤー曲線の読み方|「打ち切り」を捨てると結果はここまで変わる

公開日

2026年10月31日

更新日

2026年11月2日

この記事のポイント

・カプランマイヤー(KM)曲線は、観察開始から一定の時間までイベントが起きずにいる割合を推定した図です。死亡をイベントにすれば生存率を表します
・横軸は時間、縦軸は推定生存率です。イベントで階段が下がり、小さな縦棒や+印は打ち切りを示します
・曲線だけでなく、図の下のat risk(まだイベントがなく観察が続いている人数)と信頼区間も読みます
・打ち切りは「その時点まではイベントがなかった」という情報です。除外したりイベントとみなしたりせず、観察できた期間を計算に使います
・時点別生存率・中央値は曲線から読み取れますが、ハザード比はCoxモデルなどで別途推定する量です

まずは軸・段差・打ち切り印を読む

死亡をイベントとするKM曲線なら、横軸の12か月から上へ進み、曲線の高さを縦軸で読みます。後で計算する架空の13例では、12か月時点の高さは0.580、つまり推定生存率58.0%です。打ち切りを考慮した推定値なので、単に「最初の13人の58%をその場で数えた」という意味ではありません。

階段が下がるのはイベントが起きた時点です。小さな縦棒や+印は、研究終了や追跡不能などでその先を観察できなくなった打ち切りを示し、それ自体では階段を下げません。同時刻にイベントも起きている場合は、そのイベントによる段差は生じます。

図の下にあるat risk人数も確認します。人数が少なくなる後半の推定は不確かになりやすく、横ばいだから安心とはいえません。この13例でも12か月生存率58.0%の95%信頼区間は、log-log変換法で26.1〜80.2%と幅があります。高さ・残り人数・信頼区間を一緒に読むことが基本です。

次に、打ち切りの意味と前提を整理し、同じ13例を使って曲線の作り方を計算します。その後に、打ち切りの誤処理が推定や検定をどう変えるかを確かめます。

公式情報の確認

カプランマイヤー推定量(積・極限推定量)の原典は Kaplan, E. L. & Meier, P. (1958) Journal of the American Statistical Association, 53(282), 457–481 です(全文PDF)。ログランク検定は Mantel, N. (1966) Cancer Chemotherapy Reports, 50(3), 163–170、比例ハザードモデルは Cox, D. R. (1972) JRSS Series B, 34(2), 187–202 が原典です。中央値や信頼区間の定義は実装ごとに細部が異なるため、R survival パッケージなど使うソフトの仕様書も確認してください。

1. 「打ち切り」には3種類ある

打ち切りは1種類ではありません。
・右側打ち切り(right censoring)…イベントが観察期間より後に起きる、または起きたか分からない。研究終了時点で生存中、追跡不能、転院など。臨床研究のほとんどがこれです
・左側打ち切り(left censoring)…観察開始時点ですでにイベントが起きていた。「いつかは不明だが、この時点より前」
・区間打ち切り(interval censoring)…正確な時点は不明で、ある区間の中で起きたことだけが分かる。定期検査で見つかる再発が典型です

NIST/SEMATECHのハンドブックは、決めた時刻Tで観察をやめるものを Type I、決めた件数に達した時点でやめるものを Type II と区別します。以下で扱うのは右側打ち切りです。

特に重要な前提は「無情報打ち切り」

通常のKM法で特に重要なのが、打ち切りとその後のイベント発生が独立であるという仮定です。ある時点で打ち切られた人は、その時点で観察が続いている人と同じ予後を持つ——無情報打ち切り(独立打ち切り)の仮定です。Bland と Altman は BMJ の解説で「打ち切られた患者は追跡が続く患者と同じ生存の見込みを持つと仮定する」と書き、崩れる例として治療がうまくいかず脱落した場合を挙げています。

前提はこれだけではありません。ここでは独立した対象の右側打ち切りデータを扱い、イベント時点と観察開始の基準をそろえます。登録時期によって生存の見込みが変わらないかも確認が必要です。区間打ち切りや観察開始前からの生存を条件とするデータなどには、設計に合った別の扱いが必要になります。

2. カプランマイヤー推定量は「条件付き確率の掛け算」

カプランマイヤー法は難しい積分をしません。やっているのは掛け算だけです。
S(t) = Π (1 − di/ni) (積は ti ≤ t を満たすイベント時点について)
ti はイベントが起きた時点、di はその時点のイベント数、ni はその直前まで観察が続いていた人数(リスク集合)です。「その時点を迎えた人のうち、越えられた割合」をイベントのたびに掛け合わせます。Kaplan と Meier は、あらゆる分布を許したとき標本尤度を最大にするのがこの推定量だと示しました。

大事なのは積を取るのがイベントのあった時点だけという点です。打ち切りしか起きていない時点では di=0 なので (1 − 0/ni) = 1、曲線は下がりません。打ち切りはその後のイベント時点で ni を減らす形だけで計算に効きます。

13例のデータを1行ずつ追う

架空の追跡データで手順どおり計算します。13例、単位は月。イベント(死亡)が 3, 5, 8, 8, 12, 16, 20 の7例、打ち切りが 6, 10, 15, 18, 22, 24 の6例(打ち切り率 46.2%)です。

時点 ti(月) リスク集合 ni イベント di 打ち切り 1 − di/ni 累積 S(t)
3 13 1 0 0.9231 0.9231
5 12 1 0 0.9167 0.8462
6 11 0 1 1.0000 0.8462
8 10 2 0 0.8000 0.6769
10 8 0 1 1.0000 0.6769
12 7 1 0 0.8571 0.5802
15 6 0 1 1.0000 0.5802
16 5 1 0 0.8000 0.4642
18 4 0 1 1.0000 0.4642
20 3 1 0 0.6667 0.3095
22 2 0 1 1.0000 0.3095
24 1 0 1 1.0000 0.3095

8か月の行を見てください。直前まで観察が続いていたのは10人(13人から死亡2人と6か月の打ち切り1人を引いた数)。そこで2人が亡くなったので 1 − 2/10 = 0.800、直前の S=0.8462 に掛けて 0.6769 です。一方、6か月の行は打ち切り1件だけなので S は動きません。それでも次の8か月の ni は10に減っています。打ち切りは曲線を下げないが、その後の1段の下がり幅を大きくする——これがKM法の効き方です。

点推定だけを読むと危ない

12か月生存率58.0%には13例ぶんの不確かさが乗ります。グリーンウッドの公式 Var(S(t)) = S(t)2 Σ di/(ni(ni − di)) で計算すると標準誤差は 0.145、95%信頼区間は単純法で 0.295〜0.865、log-log変換法で 0.261〜0.802。20か月では単純法の下限が −0.011 と負になり、変換を挟む理由がここに出ます。曲線の右端は残り人数がごく少ないので、図の下の at risk 人数を必ず確認してください。

3. 打ち切りを捨てると、生存率はどれだけ歪むか

曲線の基本を押さえたうえで、先ほどの13例を、(a) 打ち切りを正しく扱ったKM推定、(b) 打ち切り6例を除外して7例で計算、(c) 打ち切り6例をその時点の「イベントあり」とみなして13例で計算、の3通りで並べます。

打ち切りの扱い 計算に使う例数 12か月生存率 20か月生存率 生存期間中央値
(a) 正しく扱う(KM推定) 13例すべて 58.0% 30.9% 16か月
(b) 打ち切り6例を除外 7例のみ 28.6% 0% 8か月
(c) 打ち切りをイベント扱い 13例すべて 46.2% 15.4% 12か月

(b) は最も直感的な誤りです。打ち切りを捨てると残るのはイベントが起きた人だけ。全員が必ず死亡する集団になるので20か月生存率は0%、「20か月で全滅」という曲線になります。実際には24か月まで追跡できて生存していた人がいるのに、です。

(c) は「安全側に倒したつもり」の誤りです。まだ生きている人を死亡として数えるので曲線は下がりますが、(b)ほど極端ではありません。間違いに気づきにくい分、こちらのほうが厄介です。中央値は12か月と、正しい16か月より4か月短く出ました。

シミュレーションで歪みの大きさを測る

13例では偶然かもしれません。真の生存関数が分かる状況で確かめます。真の生存時間を指数分布(ハザード0.05/月、真の12か月生存率 e−0.6 = 0.5488、真の中央値13.86か月)、打ち切りを一様分布による追跡終了とし、1回200例を6,000回繰り返した平均です。

打ち切り率 (a) KM推定 (b) 打ち切りを除外 (c) 打ち切りをイベント扱い
18.2% 0.5491(+0.0003) 0.4760(−0.0728) 0.4888(−0.0600)
40.4% 0.5489(±0.0000) 0.3359(−0.2129) 0.3989(−0.1499)
63.2% 0.5479(−0.0009) 0.1051(−0.4437) 0.2190(−0.3298)

かっこ内は真値0.5488とのずれです。この独立打ち切りの設定と試行条件では、KM推定は打ち切りが63%あっても平均のずれが0.001未満でした。これは、あらゆる標本・観察期間で偏りがないという保証ではありません。打ち切りが増えると利用できる情報が減り、推定の不確かさも確認が必要です。このシミュレーションでは、除外・イベント扱いによる下振れが打ち切り率とともに大きくなりました。

打ち切りが予後と関係するとき

崩れるとどうなるかも検算しました。予後の悪い群(ハザード0.10)と良い群(0.025)が半々の集団で、予後の悪い人だけが打ち切られる状況(打ち切り率31.6%)を200例×6,000回試すと、真の12か月生存率52.1%に対しKM推定の平均は 61.2%。9.1ポイントの過大評価です。打ち切りの理由と時期を集計せずKM曲線だけ載せた論文では、読者はこの検証ができません。

4. ログランク検定は「観測数と期待数」を比べている

2群のKM曲線が違って見えるとき、その差が偶然かを調べるのがログランク検定です。考え方はカイ二乗検定と同じで、イベントが起きた各時点で2×2表を作り、観測数Oと期待数Eを比べます。各時点で「いま観察が続いている人数」だけを使うため、打ち切りが自然に組み込まれます。

ある時点のリスク集合が A群 n1 人・B群 n2 人(合計 n 人)、その時点のイベントが合計 d 件とします。「2群に差がない」なら d 件は人数比どおりに割り振られるはずなので、
A群の期待数 E1 = n1d / n
分散(超幾何分布) V = n1n2d(n − d) / (n2(n − 1))
全時点で足し上げ、χ2 = (ΣO1 − ΣE1)2 / ΣV を自由度1のカイ二乗分布と比べます。

13例をA群(従来治療)、B群として12例(イベントが 9, 18, 27 の3例、打ち切りが 7, 14, 16, 21, 24, 28, 30, 33, 36 の9例、打ち切り率75.0%)を用意しました。

時点(月) A群 n1 B群 n2 イベント d 期待数 E1 O1 − E1 分散 V
3 13 12 1 0.5200 +0.4800 0.2496
5 12 12 1 0.5000 +0.5000 0.2500
8 10 11 2 0.9524 +1.0476 0.4739
9 8 11 1 0.4211 −0.4211 0.2438
12 7 10 1 0.4118 +0.5882 0.2422
16 5 9 1 0.3571 +0.6429 0.2296
18 4 8 1 0.3333 −0.3333 0.2222
20 3 7 1 0.3000 +0.7000 0.2100
27 0 5 1 0.0000 0.0000 0.0000
合計 — — 10 3.7957 +3.2043 2.1213

A群の観測死亡数は7、期待数は3.796、差は +3.204。分散の合計は2.121なので χ2 = 3.2042 / 2.121 = 4.840、自由度1で p=0.028、5%水準で有意です。簡便法の Σ(O − E)2/E では 4.360(p=0.037)とやや小さく出るので、どちらの式かは報告に書いてください。

27か月の行では、A群のリスク集合が0人です。片方の群が尽きた後のイベントは検定に何も寄与しません(E=0、V=0)。ログランク検定が見ているのは「右端の開き」ではなく「各イベント時点での人数比」だと分かります。

打ち切りの扱いだけでp値がひっくり返る

同じ2群に、3節の3通りをそのまま当てはめます。
・正しく扱う … χ2=4.840、p=0.028(有意)
・打ち切り例を除外 … χ2=1.858、p=0.173(有意でない)
・打ち切りをイベント扱い … χ2=7.336、p=0.007(より強く有意)
データも仮説も同じで、結論だけが3通りに割れました。除外で有意差が消えるのは、B群の打ち切り9例(75%)が丸ごと消え、比較がA群7例 対 B群3例になるからです。打ち切りの多い群ほど、除外によって不当に軽く扱われます。

5. 生存期間中央値とハザード比の読み方

KM曲線から読み取る代表的な量は、特定時点の生存率と生存期間中央値です。一方、ハザード比は曲線の高さの比ではなく、Coxモデルなどで別途推定する量です。図の読み取りとモデルによる推定を区別します。

中央値が「未到達」になるとき

生存期間中央値は生存曲線が0.5の高さに到達する位置から読みます。一般化逆関数では生存率が初めて0.5以下になる時点を使いますが、ちょうど0.5の水平区間がある場合の扱いはソフトの定義を確認します。R の survival パッケージは「生存曲線に高さ0.5の水平線を引いたときの交点」と説明し、曲線がちょうど0.5で平らになる場合はその区間の中点を返します。A群は S(12) = 0.580、S(16) = 0.464 なので中央値は 16か月 です。

B群のKM推定は S(9) = 0.909、S(18) = 0.795、S(27) = 0.636 で止まり、最後まで0.5を下回りません。この場合 中央値は「未到達(not reached)」で、無理に数値を出してはいけません。同じ資料も「水平線が曲線と交わらないなら中央値は定義されない」と明記しています。「未到達」は失敗ではなく正しい報告です。

代替が制限付き平均生存時間(RMST)です。指定期間までの曲線の下の面積、つまり「その期間に平均何か月生きたか」を表します。両群の追跡が揃う24か月で計算すると A群 15.51か月、B群 21.95か月、差は 6.45か月。比例ハザード性を仮定しない点も利点です。

ハザード比とCox比例ハザードモデル

ログランク検定が答えるのは「差があるか」だけで、差の大きさは教えてくれません。そこで使うのが Cox の比例ハザードモデルです。λi(t) = λ0(t) exp(β1xi1 + … + βpxip) という形で、ベースラインハザード λ0(t) の形を決めないまま exp(β) = ハザード比だけを部分尤度で推定します。

上の2群に「A群なら1」というダミー変数を入れると、ハザード比は 5.02(95%信頼区間 1.03〜24.47、Wald検定 p=0.046)。区間がこれほど開くのは25例・イベント10件しかないためで、点推定の5.02だけを引用してはいけません。このモデルのスコア検定は χ2=4.784 とログランクの4.840にほぼ一致します(差は8か月のタイの扱いだけから生じます)。

通常のCoxモデルを一定のハザード比として解釈するうえで重要なのが比例ハザード性です。これは、比較する条件のハザードの比が時間によらず一定という仮定です。効果が時間とともに変わる場合、単一のハザード比は全期間で一定の効果として解釈しにくくなります。KM曲線の交差は検討のきっかけですが、交差だけで判断せず、残差などによる診断や研究上の知識も用います。必要に応じて時間依存の効果やRMSTなど、目的に合った要約を検討します。

まとめ

・KM推定量は S(t) = Π(1 − di/ni)。曲線が下がるのはイベント時点だけで、打ち切りは次のイベント時点のリスク集合 ni を減らす形で効きます
・打ち切りを除外すると12か月生存率は58.0%→28.6%、イベント扱いでは46.2%。中央値も16か月/8か月/12か月に割れます
・本記事の独立打ち切りシミュレーションでは、KM推定は打ち切り63%でも平均のずれ0.001未満。除外・イベント扱いでは、設定した打ち切り率が高いほど下振れが大きくなりました
・ログランク検定のp値は0.028/0.173/0.007。打ち切りの扱いだけで、有意か否かがひっくり返ります
・KM法で特に重要な前提は無情報打ち切りです。対象の独立性や時間・イベントの定義なども確認します。予後の悪い人だけが打ち切られる状況では、検算で生存率を9.1ポイント過大評価しました

KM曲線を読むときは、まず打ち切りの縦棒がどこに何本あるかと図の下の at risk 人数を見てください。右端でなだらかに見える曲線が、実は残り2人で描かれていることは珍しくありません。打ち切りは邪魔なデータではなく、「そこまでは生きていた」と語っているデータです。

あわせて読みたい:数学が苦手になる原因とは|つまずきの正体と対処法をやさしく

<監修/和から株式会社 堀口智之>

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※2026年11月2日に内容を更新しました。

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