ネイピア数の不思議に迫る!②~ネイピア数の無理数性~
公開日
2025年7月13日
更新日
2025年7月2日
こんにちは!和からの数学講師の岡本です。今回は、前回に引き続き「ネイピア数 \(e\)」にまつわる不思議な性質についてご紹介します。
ネイピア数 \(e\) は、およそ 2.718 という値で知られており、小数が無限に続く数です。では、ネイピア数は整数と整数の比、つまり「有理数」で表すことができるのでしょうか?
結論から言うと、ネイピア数 \(e\) は「有理数」ではありません!このように有理数でない実数のことを「無理数」といいます。今回はネイピア数が無理数であるという事実をしっかりと証明していきたいと思います。
この記事の主な内容
1.ネイピア数の定義とテイラー展開
ネイピア数 \(e\) は、つぎの極限で定義されていました。
\begin{align*}
e:=\lim_{n \to \infty} \left(1 + \frac{1}{n}\right)^n
\end{align*}
また、ネイピア数を用いた指数関数\(e^x\)は何回微分しても変わらない特別な関数となっており、この関数は次のように無限続く和で表現できることが知られています。
\begin{align*}
e^x = \sum_{k=0}^\infty \frac{1}{k!}x^k = 1 + \frac{1}{1!}x + \frac{1}{2!}x^2 + \frac{1}{3!}x^3 + \cdots
\end{align*}
このような単項式の無限和で表す方法を「テイラー展開(マクローリン展開)」と呼び、大学数学で登場します。この関数に\(x=1\)を代入することで、ネイピア数を
\begin{align*}
e= \sum_{k=0}^\infty \frac{1}{k!} = 1 + \frac{1}{1!} + \frac{1}{2!} + \frac{1}{3!} + \cdots
\end{align*}
という具合に、階乗の逆数の和という非常に美しく整った数列の和として表現できます。今回はこの表示がポイントになります。
2.ネイピア数が無理数であることの証明
では、\(e\) が無理数であることを証明してみましょう。証明は「背理法」によって行います。
まず、上で紹介した無限和の形に注目して、両辺に \(n!\) を掛けてみます(\(n\) は任意の正の整数):
\begin{align*}
n! \cdot e
= n!\left(1 + \frac{1}{1!} + \cdots + \frac{1}{n!} + \frac{1}{(n+1)!} + \frac{1}{(n+2)!} + \cdots\right)
\end{align*}
この式を次のように分けてみます
\begin{align*}
n! \cdot e
= A + B
\end{align*}
ただし、
\begin{align*}
A &= n!\left(1 + \frac{1}{1!} + \cdots + \frac{1}{n!}\right) \quad\text{(これは整数になることに注意)} \\
B &= n!\left(\frac{1}{(n+1)!} + \frac{1}{(n+2)!} + \cdots\right)
\end{align*}
ここで、\(B\) の大きさを評価してみます。まず、
\begin{align*}
\frac{n!}{(n+k)!} = \frac{1}{(n+1)(n+2)\cdots(n+k)} < \frac{1}{(n+1)^k}
\end{align*}
であることから、
\begin{align*}
B < \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{(n+1)^k} = \frac{1}{n+1}\frac{1}{1-\frac{1}{n+1}}=\frac{1}{n}
\end{align*}
となります。したがって\(2\)以上の\(n\)に対して、\(0 < B < \frac{1}{n}<1\)が成り立ちます。これにより
\begin{align*}
0 < n!e-A < 1
\end{align*}
が\(2\)以上の全ての\(n\)に対して成り立ちます。
いま、\(e\)が有理数である、つまり\(e = \frac{M}{N}\)(\(N, M\) は整数)の形で表せると仮定すると、\(n!e=n!\frac{M}{N} \)は\(n\)を十分大きくとると整数になるはずです。ところが先ほどの式から、\(n! e -A(整数)\)が\(0\)より大きく\(1\)未満であることが全ての\(n\)について成り立ってしまい、どれだけ\(n\)を大きく設定しても\(n!e\)の小数点以下が存在することになります。ゆえに、\(e\) は有理数ではなく、無理数であることが証明されました!
※証明が美しいと、つい感嘆符「!」を使ってしまいますが、階乗の記号と間違わないように注意しましょう。
3.さいごに
今回のマスログでは、ネイピア数 \(e\) が「無理数」であることを証明しました。驚くべきことに、無限級数の収束性と階乗の性質を使うだけで、美しく完結な証明ができてしまいます。しかし、ネイピア数の不思議はまだまだ続きます。実は \(e\) は「超越数」でもあります。これは、「どんな整数係数の代数方程式の解にもなれない」という、無理数よりさらに強い性質です。こうした深い数学を学んでみたい方は、是非和からの個別授業にお越しください!
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<文 / 岡本健太郎>



