円周率が無理数であることの証明
公開日
2025年7月16日
更新日
2025年7月2日
こんにちは!和からの数学講師の岡本です。
今回は、みんな大好き「円周率」についてのお話です!
以前のマスログでは、ネイピア数 \(e\) の無理数性を証明しました。今回はその続編として、円周率 \(\pi\) が無理数であることについて、少し詳しく解説していきます。
この記事の主な内容
1.円周率とは?
円周率とは、円の周の長さと直径の比として知られ、小学校の算数で登場するおなじみの数です。中学校以降では、ギリシャ文字 \(\pi\) を使って表され、具体的な数値は次のように与えられます:
\begin{align*}
\pi = 3.141592653589793238\ldots
\end{align*}
このように小数点以下が無限に続き、かつ循環しない数であるため、どうやら有理数ではなさそうだと感じられます。
2.円周率の無理数性
円周率もネイピア数と同様に「無理数」であることが知られています。今回のマスログでは、その無理数性の証明にチャレンジしてみましょう!なお、ネイピア数も円周率も、無理数であることを証明する内容の問題が過去に大学入試において出題されています。特に円周率の無理数性に関しては大阪大学の理系後期の問題に登場し、伝説級の難問として知られています。なお、今回の証明においては、つぎの極限公式がカギとなります。
\begin{align*}
\lim_{n \to \infty} \frac{a^n}{n!} = 0
\end{align*}
つまり、指数的な増加\(a^n\)よりも、階乗的な増加の方が“強い”ということが知られています。この極限がどのように効いてくるのか、証明をじっくりを味わっていきましょう!
3.円周率が無理数であることの証明(STEP1)
まずは、非常に唐突ですが、次の積分を定義します:
\begin{align*}
I_n := \frac{\pi^{n+1}}{n!} \int_0^1 t^n (1 – t)^n \sin(\pi t) \, dt
\end{align*}
\(I_{n+1}\)に対し部分積分を行うことで、実は\(I_n\)と\(I_{n-1}\)で表せ、漸化式を得ることができます。この計算に必要なのは\(t^{n+1}(1-t)^{n+1}\)の2階微分の計算です(入試問題ではこの計算が厄介なため、なかなか最後までたどり着けなかった学生が多かったよう思います)。簡単のため\(a_n(t):=t^n(1-t)^n\)とおき、実際に積の微分を繰り返し行うと、
\begin{align*}
a_{n+1}^{\prime \prime}(t)&=(t^{n+1}(1-t)^{n+1})^{\prime \prime}\\
&=((n+1)t^n(1-t)^{n+1}-t^{n+1}(n+1)(1-t)^n)’\\
&=(n+1)nt^{n-1}(1-t)^{n+1}-2(n+1)^2t^n(1-t)^n+(n+1)nt^{n+1}(1-t)^{n-1}\\
&=-2(n+1)^2a_n(t)+(n+1)na_{n-1}(t)((1-t)^2+t^2)\\
&=-2(n+1)^2a_n(t)+(n+1)na_{n-1}(t)-2(n+1)na_n(t)\\
&=-(4n+2)(n+1)a_n(t)+(n+1)na_{n-1}(t)
\end{align*}
と計算できます。これにより、積分\(I_{n+1}\)は次のように計算できます。
\begin{align*}
I_{n+1}&=\frac{\pi^{n+2}}{(n+1)!}\int_0^1a_{n+1}(t)\sin (\pi t) dt\\
&=\frac{\pi^{n+2}}{n!}\left\{\left[ a_{n+1}(t)\left(-\frac{1}{\pi}\cos (\pi t) \right)\right]_0^1- \int_0^1a_{n+1}'(t) \left(-\frac{1}{\pi}\cos (\pi t) \right)dt\right\}\\
&=\frac{\pi^{n+1}}{(n+1)!}\int_0^1a_{n+1}'(t)\cos (\pi t) dt \\
&=\frac{\pi^{n+1}}{(n+1)!}\left\{\left[ a_{n+1}'(t)\left(\frac{1}{\pi}\sin (\pi t) \right)\right]_0^1- \int_0^1a_{n+1}^{\prime \prime}(t) \left(\frac{1}{\pi}\sin (\pi t) \right)dt\right\}\\
&=-\frac{\pi^{n}}{(n+1)!}\int_0^1a_{n+1}^{\prime \prime}(t)\sin (\pi t) dt \\
&=\frac{4n+2}{\pi}\cdot\frac{\pi^{n+1}}{n!}\int_0^1a_n(t)\sin (\pi t) dt-\frac{\pi^n}{(n-1)!}\int_0^1a_{n-1}(t)\sin (\pi t) dt\\
&=\frac{4n+2}{\pi}I_n-I_{n-1}
\end{align*}
長い計算でしたが、\(a_n(1)=a_n(0)=0, \sin\pi =\sin 0=0\)であることから積分計算は意外にもザクザク消えてシンプルになります。こうして積分の漸化式
\begin{align*}
I_{n+1}=\frac{4n+2}{\pi}I_n-I_{n-1}
\end{align*}
を得ることができました。また、初期値の計算により、
\begin{align*}
I_0 &= \frac{\pi}{0!} \int_0^1 \sin(\pi t) \, dt = 2 \\
I_1 &= \frac{\pi^2}{1!} \int_0^1 t(1 – t) \sin(\pi t) \, dt = \frac{4}{\pi}
\end{align*}
が得られます。さらに、\(0 \leq t \leq 1\) において、\(0 \leq t^n(1 – t)^n \sin(\pi t) \leq 1\)であるため、
\begin{align*}
0 < \int_0^1 t^n(1-t)^n\sin (\pi t) dt\leq 1\Leftrightarrow 0< I_n\leq \frac{\pi^{n+1}}{n!}
\end{align*}
であることが分かります。
4.円周率が無理数であることの証明(STEP2)
それではいよいよ、\(\pi\)の無理数性について踏み込んでいきます!まず、無理数であることを示す際のお決まりパターンですが、\(\pi\)を有理数であると仮定します。つまり、\(0\)でない正の整数\(N,M\)を用いて\(\pi=\frac{N}{M}\)と表せるとします。このとき、\(I_n\)の漸化式は
\begin{align*}
I_{n+1}=\frac{4n+2}{\frac{N}{M}}I_n-I_{n-1}\Leftrightarrow NI_{n+1}=(4n+2)MI_n-NI_{n-1}
\end{align*}
となります。この式の両辺に\(N^n\)を掛け、\(X_n:=N^nI_n\)とおくと、
\begin{align*}
X_{n+1} = (4n + 2) M X_n – N^2 X_{n-1}
\end{align*}
と表せ、\(X_0=N^0I_0=2, X_1=NI_1=N\frac{4}{\pi}=4M\)となり、初期値は整数になることがわかります。これと漸化式の形から、全ての\(n\)に対して\(X_n\)が整数値をとることが帰納的にわかります。なお、\(I_n\)の積分の定義からわかるように、\(0\)より大きな値をとるため、\(X_n\)は正確には\(1\)以上の正の整数値をとります。
ここで、STEP1の最後に示した評価式により、
\begin{align*}
0 < I_n\leq \frac{\pi^{n+1}}{n!} \Leftrightarrow 0 < X_n\leq \pi \frac{(N\pi)^n}{n!}
\end{align*}
であることがわかります。ここで、極限公式により、\(\frac{(N\pi)^n}{n!}\)は\(n\to \infty\)で\(0\)に収束することがわかるので、はさみうちの原理により、\(X_n\)は\(0\)に収束することが示されてしまいました…!これは、\(X_n\)が常に\(1\)以上の整数値であることに矛盾します!したがって、はじめの仮定「\(\pi\)が有理数である」が否定され、円周率\(\pi\)が無理数であることが示されました。
5.さいごに
今回は、円周率 \(\pi\) が無理数であることを厳密に証明してみました。計算はやや長めでしたが、論理の流れを一つずつ丁寧に追えば、ちゃんと筋道が見えてきます。また、今回のような、理論の背景や“元ネタ”があるような面白い話題は、大学入試においてたびたび出題されます。引き続き面白い問題を見つけたらマスログにて解説していこうと思いますので、今後もご期待ください!
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<文 / 岡本健太郎>



