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2022/04/10

解析力学の魅力


※本記事はロマ数トレラン「解析力学入門~現代物理学の基礎を学ぶ~」の講師である石山先生による解析力学の紹介記事になります。ご興味を持った方は是非ゼミにご参加ください。ガイダンス回は無料となっております。

ロマ数トレラン「解析力学入門~現代物理学の基礎を学ぶ~」の詳細、お申し込みはこちらのページよりお願いいたします。⇒https://peatix.com/event/3219796/view

解析力学とは?

古典力学において、ニュートン力学が用いられていることは多くの方が知っておられることでしょう。ニュートンの運動の第2法則の式
\[
m\boldsymbol{a}=\boldsymbol{F}
\]
は運動方程式と呼ばれ、この(微分)方程式を解くことで、運動の時間変化を求めることができます。高校物理を学ばれた方はご存知の有名な式です。ここで、重要なことは、この方程式が成立つのは慣性系(静止系もしくは等速直線運動している系)でしか成立たないということと、加速度\(\boldsymbol{a}\)と力\(\boldsymbol{F}\)はベクトルであるということです。加速度運動している系では、見かけの力である慣性力を付け加えなければなりません。この方程式を実際の力学の問題に適用する場合には、働く力を図示して、座標軸を設定し、その成分ごとの方程式を作るという複雑な手順を踏む必要があります。また、デカルト座標から極座標へ変換すると、運動方程式は一般的には複雑になります。ニュートンの運動方程式を実際の問題に適用するためには、上記のことを常に考慮し、問題の解法に慣れなければなりません。

このような問題を解決してくれるのが、ラグランジュの運動方程式です。ラグランジュは偉大なオイラーと並ぶフランスの数学者です。整数論やガロア理論の形成においてもラグランジュの功績があります。ニュートンの「プリンキピア」の出版の101年後の1788年(フランス革命の前年)に「解析力学」(Mécanique analytique)を発表しました。その著書のはしがきには次のような記述があります。

「読者は本書に幾何学的図形がまったくないことに気づかれるであろう。私が呈示した方法は、作図も幾何学ないし機械論的検証も必要とせず、もっぱら代数学的な、規則的で単純な操作にしたがう演算だけしか必要としない。」
(「重力と力学的世界」山本義隆著 より引用)

このはしがきにあるように、ラグランジュが考案した解析力学によれば、作図もせず極めて単純な代数操作でニュートンの運動方程式を簡単に導き出すことができます。しかも、慣性系であろうとなかろうと何も気にする必要はありません。おまけにどのような座標変換に対してもラグランジュの方程式は不変(正確には共変)なのです。以上の理由からラグランジュの解析力学を用いる手法は力学の計算においてとても有用なのです。

ここで、ラグランジュ方程式を示しておきましょう。
\[
\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i}=0 \,\,\,(i=1,2,\cdots,f)
\]

\(L\)はラグランジアンと呼ばれ、\(q_i\)は座標\(\dot{q}_i\)は座標の時間微分を表します。\(L\)は\(q_i, \dot{q}_i, t\)の関数なので、\(L=L(q_1,\cdots,q_f,\dot{q}_1,\cdots,\dot{q}_f,t)\)と表すことができます。\(i\)は自由度を表す指標で座標が3次元でデカルト座標の場合は\(q_1=x,q_2=y,q_3=z\)を表します。

\(L\)は力が保存力(重力やクーロン力など)の場合、\(L=T-U\)となります。ここで、\(T\)は運動エネルギー、\(U\)はポテンシャルエネルギーです。大切なことは\(L\)がスカラーなので、代数的に運動方程式を求めることができるのです。ここで、ラグランジュ方程式がニュートンの運動方程式を導くことを最も簡単な例(一次元の運動)で示しておきましょう。

運動エネルギーは\(T=\frac{1}{2}mv^2=\frac{1}{2}m\dot{x}^2\)で与えられます。また、働く力\(F\)が保存力の場合、\(F\)はポテンシャルエネルギー\(U\)を用いて\(F=-\frac{dU}{dx}\)と表せます。これから、\(\frac{\partial L}{\partial x}=\frac{\partial T}{\partial x}-\frac{\partial L}{\partial x}=0+F,\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}=m\dot{x}\)となり、これらをラグランジュ方程式\(\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right)=0\)に代入すると、\(m\ddot{x}=F\)を得ます。これは一次元のニュートンの運動方程式に他なりません。

以上は簡単な例でしたが、ニュートンの運動方程式を求めることが難しい場合でもラグランジュ方程式により簡単に運動方程式(運動の微分方程式)を得ることができます。

解析力学の原理

ラグランジュ方程式はどのように導かれたのか、ここでは概要だけお話しましょう。ラグランジュ方程式の導出には2つの方法があります。歴史的には、解析力学の基礎となるのは1743年にダランベールが著わした「力学論」にある「ダランベールの原理」です。(正確に言うと、ダランベールの考え方をラグランジュがわかりやすくしたもので、ラグランジュの修正版を現在では「ダランベールの原理」と呼んでいます。)「ダランベールの原理」は「仮想仕事の原理」という、つりあいの力学(静力学)を動力学へ展開したものです。深く考えれば合理的なのですが、一見、奇妙に感じられる考え方です。ここでは、「仮想仕事の原理」だけを説明しておきます。

質点に働いている力の合力を\(\boldsymbol{F}\)とすると、つり合いの状態では、\(\boldsymbol{F}=\boldsymbol{0}\)です。この状態から任意の微小変位\(\delta \boldsymbol{r}=(\delta x,\delta y,\delta z)\)だけ動かしたものとすると、その仕事(仮想仕事)\(W\)は、\(W=\boldsymbol{F}\cdot \delta \boldsymbol{r}=0\)となります。一見、当たり前すぎてその有用性を知るには、応用として、つりあいの安定性を調べる問題を解いてみる必要がありますが、ここでは、省略します。

ダランベールの原理は上記の仮想仕事の原理とニュートンの運動方程式を組み合わせたもので、以下の式で表されます。
\[
(\boldsymbol{F}-m\ddot{\boldsymbol{r}})\cdot \delta \boldsymbol{r}=0
\]

この式(ダランベールの原理)を力学の問題に適用することで、割と簡単に運動方程式得ることができます。そして、ラグランジュはこの原理からラグランジュの方程式を導いたのです。(興味ある方は「考える力学」(兵頭)の解析力学の章を参照してください。)

最小作用の原理

ラグランジュの方程式のもう一つの導出法はオイラーの考えた変分法を用いる方法です。これまでの議論から力学系(一定の規則に従って時間の経過とともに状態が変化するシステム)はラグランジアン\(L(q,\dot{q},t)\)によって特徴付けられているので、次の式を考えます。
\[
S=\int_{t_1}^{t_2}L(q,\dot{q},t)dt
\]
\(S\)を作用(action)と呼び、「系は作用が最小となるように運動する」という原理(最小作用の原理)から変分法を用いると、ラグランジュ方程式が導かれます。

変分法を用いているため、最小作用の原理を変分原理と呼ぶこともあります。変分法を使って導出されているので、ラグランジュの方程式をオイラー・ラグランジュ方程式とも言います。ややこしいですが、最小作用の原理をさらに、ハミルトンの原理と呼ぶこともあります。ハミルトンもまた有名なイギリスの数学者で、ラグランジュとは別形式の力学系の解析力学を創始しました。

ここでは詳しく述べる余裕がないので、簡単な紹介だけですが、解析力学の基礎として、2つの力学系としてラグランジュ系とハミルトン系を学びます。ハミルトン系ではLではなく、\(H\)(ハミルトニアン)を用います。\(H\)を\(T\)と\(U\)で表すと、\(H=T+U\)となり、\(H\)は系の(力学的)エネルギーを表します。ラグランジュ系ではラグランジアンと呼ばれる関数を作用の定義にもちいましたが、力学系によって作用の定義は異なります。また、どちらの力学系を用いるかは扱う問題や分野によって変わりますが、2つの力学系はルジャンドル変換によって結ばれています。因みに量子力学ではハミルトン系を用い、場の量子論や素粒子物理学ではラグランジュ系を用いることが多いです。

ここで、重要なことは、ニュートンの運動方程式が最小作用の原理から導かれたように、あらゆる物理法則は最小作用の原理から導くことができます。歴史的には数学者フェルマーが最小作用の原理を用いて、光の反射と屈折の法則(スネルの法則)を導いたことは有名です。どうやら、宇宙は最小作用の原理に基づいて機能しているようなのです。どうして自然法則や宇宙が最小作用の原理を採択しているのか?ここに大いなる不可思議と奥深い自然の一貫性が見出せるのです。しかし、最小作用の原理は自然界だけでなく、人間社会の作った経済や社会活動にも適用されていることは、強調しておきたいと思います。一例として、経済学や最近話題となっているAI、深層学習を始め、あらゆる分野でラグランジュの未定乗数法という変分原理を用いた最適解を求める手法が用いられています。

ラグランジアンの対称性と保存則

物理には様々な保存則があります。エネルギー保存則や運動量保存則、角運動量保存則、電荷の保存則は代表的な例です。ニュートン力学、すなわち運動方程式から微積分を用いて力学的エネルギー保存則を導くことはできます。しかし、解析力学を用いると全ての保存則を統一的(数学的)に導くことができます。そして、その保存則はラグランジアンの対称性から求めることができるのです。

対称性というのは様々な対称性がありますが、図形の対称性がわかりやすい例です。ある操作をすると元の形と重なる、これを対称性と言います。ある操作を代数的に表現することができます。ラグランジアンは代数で表現されていますから、ある物理量を別の形の物理量に入れ替えてもラグランジアンが変化しなければ、対称性があると表現します。例えば、時間tの代わりに\(t+\delta t\)にしてもラグランジアンが変化しなければ、時間並進性に関して対称であると表現します。また位置\(x\)の代わりに\(x+\delta x\)にしてもラグランジアンが変化しなければ、空間並進性に対して対称です。このような対称があるとき、ある保存量が存在することを数学者エイミー・ネーターが発見しました。これをネーターの定理と呼びます。このネーターの定理を用いると時間並進性の対称性から力学的エネルギー保存則が導かれ、空間対称性から運動量保存則、回転対称性から角運動量保存則が導かれます。

このように、物理学においても対称性と物理法則とは深遠な関連があることがわかりました。数学理論が導いた対称性と数学的な保存量は、現実に物理法則と対応しているのです。この応用はこれまで主に素粒子物理学においてなされました。素粒子の性質と対称性を表現する群論によって、新しい素粒子が予言され、実際に実験で検証されました(代表例は\(\Omega\)-粒子)。さらにはラグランジアンの対称性から新しい保存則を予測することもできるのです。電荷の正負の対称性もまた電荷保存則を導きます。最先話題となっている「超ひも理論」は「超対称性(スーパーシンメトリー)」という素粒子の性質に関する対称性を仮定して作られた理論です。このように、自然には多くの対称性があり、数学的な対称性から物理法則を予言することができるのです。
 

解析力学と現代物理学、現代数学とのつながり

このように、物理学と数学とが深く結ばれていることが、解析力学を学ぶことによって体感できるのです。想像の世界の数学の発展が現実の自然法則を対象とする物理の発展がダイナミカルにリンクしているのです。

しかし、解析力学は古典力学だけに関与しているわけではありません。量子力学に適用され、統計力学もまた解析力学と量子力学が用いられます。そればかりか、相対論、電磁気学にも適用できるのです。驚いたことに、古典力学と量子力学は全く異なる物理法則にも関わらず、解析力学を用いて量子力学の基本方程式であるシュレーディンガー方程式を導くことができます。シュレーディンガーがどうやって人類が見たことのない量子力学の基本方程式を発見したのかと言えば、実は解析力学を用いたという歴史的な経緯から考えれば当然と言えます。(しかし、シュレーディンガーは発見当初、自分が発見した方程式の物理的解釈を正しく認識していなかったという顛末があるのですが。)  さらに、解析力学からマクスウェル方程式、一般相対論の重力場の方程式も導くことができます。現代物理学は量子力学をさらに発展させた、場の量子論に基づいているのですが、場の量子論もまた、解析力学が用いられます。

最後に現代数学との関わりとして一例だけ紹介しておきます。それは天体力学と現代数学の関わりについて概要だけ述べることにします。天体力学における三体問題においては微分方程式の解は積分によって求めることができません。このことを数学者ポアンカレが証明しています。そこで、ポアンカレは解を求める代わりに解の安定性というような定性的な研究をおこなった中で、カオス理論が生まれました。僅かな初期条件の違いによって微分方程式の解の挙動が大きく変化することがわかりました。これは、ある力学系において、物体の軌道が安定するかどうかという問題と関連しています。太陽と地球だけであれば、二体問題のケプラー問題ですが、実際のところ、地球は他の惑星の重力の影響を受けているので、地球の軌道は多体問題です。地球の軌道が安定しているのか、不安定でいつか太陽系から離れてしまうのか、という議論に発展します。これは、ある力学系における微分方程式の解の安定性という、数学的な問題に帰着します。ポアンカレはハミルトン系における微分方程式の可積分性や解の安定性の研究にトポロジーの手法を用いました。このようにして、トポロジーがポアンカレによって創始されたのです。このようなポアンカレの研究から発展した、微分方程式の研究分野を「力学系」(Dynamical Systems)と呼ぶようになったのです。力学という名前は付いていますが、物理学の分野ではなく、れっきとした数学の分野です。その端緒となったのが、解析力学であるということです。力学系の研究には、多様体やトポロジーの幾何学的手法が用いられます。そして、ハミルトン系はさらにシンプレティック幾何学へと発展します。

以上から、解析力学がもたらした現代物理学や現代数学への影響は多大なるものであることが理解して頂けることでしょう。また、量子力学、統計力学は解析力学を用いて発展した歴史的経緯があるため、量子力学や統計力学をしっかりと学びたい方にとって、解析力学は重要なものとなります。さらに、初等的な電磁気学と相対論を学んだ後に解析力学を通してさらに深く学ぶことで、電場や磁場よりもマクスウェルが数学的に導入したベクトルポテンシャルこそが、電場や磁場の実体であることを深く理解できるでしょう。いずれにせよ、抽象的な現代数学が解析力学と深くつながっていることを知れば、「宇宙は数学の言葉で書かれている」ことをさらに実感できるかもしれません。(参考文献として、アーノルドの「古典力学の数学的方法」を挙げておきます。)


<文/石山>

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