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条件収束級数の不思議な性質①

公開日

2021年4月7日

更新日

2021年4月7日


数学教室和(なごみ)講師の松中です。

先日岡本先生のこちらの記事で条件収束数列に関する驚くべき定理が紹介されました。

収束する無限級数とは?―呪術廻戦で学ぶ本格数学―

その定理とはリーマンによるこちらの定理です。

定理(リーマン)
条件収束する級数は足し算の順番を変えることで任意の値に収束させたり、発散させることができる。

 
今回と次回の2記事に渡って条件収束する級数の典型例である\(\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n+1}}{n}\)を用いて、この定理を味わっていきましょう。前編の本記事ではこの定理が意味することを確認していきます。

リーマンの定理の意味

まずは岡本先生の記事にも書かれている
\[
\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n+1}}{n}=1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}+\cdots=\log{2}
\]
を確認しましょう。

\(|x|<1\)のとき、初項\(1\)、公比\(-x\)の無限等比級数を考えると、以下が成り立つことが分かります。 \[ 1-x+x^2-x^3+x^4+\cdots=\frac{1}{1+x} \] 両辺を\(x\)で積分することで、 \[ x-\frac{1}{2}x^2+\frac{1}{3}x^3-\frac{1}{4}x^4+\frac{1}{5}x^5+\cdots=\log{(1+x)} \]

となり、ここで\(x=1\)とすることで、証明したかった式を得ます。なお、本来は項別に積分ができることの証明や、元々\(|x|<1\)としていたのに\(x=1\)としてよいことの確認を行う必要がありますが、細かい話になるのでここでは省略します。

リーマンの定理が意味していることは、この足し算の順番を入れ替えることで、収束先を\(\log{2}\)ではなく、\(2\)にしたり、\(\pi\)にしたり、\(-\frac{1}{7}\)にしたりできるということです。そして収束させるだけではなく\(\infty\)や\(-\infty\)に発散させることもできるというから驚きです。

小学校以来足し算の順番は入れ替えてよいと学んできた私たちには、にわかには信じられない定理です。しかし安心してください、足し算の順番を変えて収束先が変わり得るのは無限個の足し算の時だけであり、私たちが普段やっているような有限個の数の足し算であればどれだけ足す順番をどれだけ入れ替えても同じ答えになります。

リーマンの定理の証明は意外に簡単です。実際に\(2\)へ収束させる並べ方、\(\infty\)に発散させる並べ方を紹介することで、証明のイメージを掴んでいただきましょう。

\(2\)へ収束させる

足し算の順番を入れ替えて\(2\)に収束させてみましょう。その前に、\(\infty\)に発散させるときにも使う事実を述べておきます。それは正の項だけ、負の項だけを足していくとそれぞれ\(\infty\)、\(-\infty\)に発散するということです。つまり以下が成り立ちます。
\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}+\frac{1}{9}+\frac{1}{11}+\cdots=\infty
\]
\[
-\frac{1}{2}-\frac{1}{4}-\frac{1}{6}-\frac{1}{8}-\frac{1}{10}-\cdots=-\infty
\]
これは\(\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n}=\infty\)というよく知られた事実から以下のようにして簡単に分かります。

\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{2N-1}>\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{6}\cdots+\frac{1}{2N}=\frac{1}{2}\sum_{n=1}^N\frac{1}{n}\rightarrow \infty \,\,\,(N\rightarrow \infty)
\]

なお、一般の条件収束する級数に対しても、正の項だけを足していくと\(\infty\)に発散し、負の項だけを足していくと\(-\infty\)に発散することを比較的簡単に示せますが、ここでは今考えている\(\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n+1}}{n}\)に特化した考察で証明しました。

では実際に\(2\)に収束させる足し方を見てみましょう。まずは\(1\)、\(1+\frac{1}{3}\)、\(1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}\)のように正の項だけを足していきます。先ほど紹介した事実から、そのうちこの足し算は\(2\)を超えます。実際、

\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}=2.0218\cdots>2
\]
となりました。\(2\)に収束させたいのでこれ以上大きくなったら困ります。今度は負の項を絶対値が大きい順(\(-\frac{1}{2}\)、\(-\frac{1}{4}\)、\(-\frac{1}{6}\cdots\))に加えていき、\(2\)より小さくなるようにします。

実際以下のように\(-\frac{1}{2}\)を加えるだけで\(2\)より小さくなることが分かります。
\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}=1.5218\cdots<2 \] さてこれ以上小さくなっては困るので、今度は\(2\)より大きくなるように正の項を加えていきましょう。もちろん既に足している\(1\)、\(\frac{1}{3}\)、\(\cdots\)、\(\frac{1}{15}\)は使ってはいけません。 \[ 1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}+\frac{1}{17}+\cdots+\frac{1}{41}=2.0040\cdots>2
\]

今度は負の項の番です。
\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}+\frac{1}{17}+\cdots+\frac{1}{41}-\frac{1}{4}=1.7540\cdots<2 \] そして正の項の番です。

\[
1+\frac{1}{3}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}+\frac{1}{17}+\cdots+\frac{1}{41}-\frac{1}{4}+\frac{1}{43}+\cdots+\frac{1}{69}=2.0094\cdots>2
\]

このように\(2\)を越えるまで正の項を足し、その次は\(2\)を下回るまで負の項を足すという操作を繰り返すことで、この足し算の行き先をいくらでも\(2\)に近づけることができることが分かります。

この議論は収束先の目標が\(2\)でなくても\(\pi\)でも\(-\frac{1}{7}\)でも同様にできることが分かるかと思います。このようにして足し算の順番を並び替えることで任意の実数に収束させることができるのです。

\(\infty\)へ発散させる

次に足し算の順番を入れ替えて\(\infty\)に発散させてみましょう。先ほどの議論から正の項だけを足していけば\(\infty\)になったので、

\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}+\frac{1}{9}+\frac{1}{11}+\cdots=\infty
\]

で良さそうですが、注意が必要です。この足し算には負の項が一つも出てきていません。足し算の順番を並び替えることは許していますが、負の項を使わないというずるは許されていないのです。ということでしぶしぶですが負の項を入れてあげることにします。

ここでは足し算の途中経過が\(2\)、\(3\)、\(4\)などの整数を越えたときに、整数を越えた記念として申し訳程度に負の項を挟んであげることにしましょう。
つまり以下のようにします。

正の項の足し算は\(\frac{1}{15}\)まで足すと初めて\(2\)を超えるのでした。

\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}=2.0218\cdots>2
\]

この\(2\)を越えたタイミングで\(-\frac{1}{2}\)を足してあげます。

\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}=1.5218\cdots
\]

続けて\(3\)を越えるまで正の項を足していきます。
\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}+\frac{1}{17}+\cdots+\frac{1}{307}=3.00023>3
\]

そして記念として\(-\frac{1}{4}\)を足してあげましょう。

\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}+\frac{1}{17}+\cdots+\frac{1}{307}-\frac{1}{4}=2.75023\cdots
\]

同様に今度は\(4\)を越えるまで正の項を足してあげます。

\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}+\frac{1}{17}+\cdots+\frac{1}{307}-\frac{1}{4}+\frac{1}{309}+\cdots+\frac{1}{3751}=4.00020\cdots
\]

そしてここでは記念として\(-\frac{1}{6}\)を足します。

\[
1+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\cdots+\frac{1}{15}-\frac{1}{2}+\frac{1}{17}+\cdots+\frac{1}{307}-\frac{1}{4}+\frac{1}{309}+\cdots+\frac{1}{3751}-\frac{1}{6}=3.8335\cdots
\]

以下これを繰り返すことで、全ての負の項もこの足し算に現れ、なおかつ足し算の結果がどんな数よりも大きくなる、つまり\(\infty\)に発散することが分かるでしょう。

まとめ

今回はリーマンの定理の意味を\(\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n+1}}{n}\)という条件収束級数を題材にして解説しました。しかし例えば\(2\)に収束するような並び替えは乱雑であまりきれいな感じがしませんでした。次の記事では\(\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n+1}}{n}\)に対して正の項を\(p\)個、負の項を\(q\)個ずつ並べるという規則正しい並び替えを行ったときに、どんな値に収束するのかを紹介したいと思います。

<文/松中>

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