タクシー数1729とは?ラマヌジャンの逸話から楕円曲線までやさしく解説
公開日
2024年11月10日
更新日
2026年7月26日
2020年5月30日、オンラインで開催された「ロマンティック数学ナイト」にて、和からの数学講師・松中、通称「まっちゅう」が「タクシー数に興奮した話」と題したプレゼンテーションを行いました。
テーマとなったタクシー数1729は、数学好きのあいだで語り継がれてきた有名な数です。しかしこの発表の面白さは、1729そのものではなく、その裏側に「楕円曲線」という現代数学の主役が隠れていたという点にありました。この記事では、その内容を数式が苦手な方にも追えるかたちで再構成してお届けします。
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この記事の主な内容
この記事のポイント
・1729は「2通りの立方数の和で表せる最小の数」=タクシー数
・1729 = 12³ + 1³ = 10³ + 9³。整数解はこの4組だけ
・有理数まで広げると解は無限にあり、楕円曲線の理論で扱える
・ラマヌジャンが挙げた2組が、すべての有理解を生む出発点になっている
タクシー数とは?ラマヌジャンとハーディの逸話
タクシー数を語るとき、避けて通れないのがインドの天才数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの逸話です。
1918年、療養のため入院していたラマヌジャンのもとを、師であるイギリスの数学者G.H.ハーディが見舞いに訪れました。会話のきっかけにと、ハーディはこう切り出します。「乗ってきたタクシーの番号は1729だった。まったく平凡な数だったよ」。するとラマヌジャンは即座に答えました。
「いいえ、それはとても興味深い数です。2通りの立方数の和で表せる、いちばん小さな数ですから」
実際に確かめてみましょう。
1729 = 12³ + 1³ = 1728 + 1
1729 = 10³ + 9³ = 1000 + 729
確かに、まったく異なる2組の立方数から同じ1729が現れます。そしてこれより小さい数では、こうした2通りの表し方は存在しません。この逸話にちなんで、1729はタクシー数(Taxicab number)と呼ばれるようになりました。
ちなみに、3通りで表せる最小の数は87,539,319、4通りなら6,963,472,309,248。数はあっという間に手に負えない大きさになります。
本当のロマンは「12と1」「10と9」の側にある
ここからが今回の本題です。松中講師が注目したのは、1729という数そのものではなく、それを成り立たせている2組の立方数——「12と1」「10と9」——のほうでした。
この2組は、なぜ選ばれたのでしょうか。ただの偶然なのでしょうか。それを探るために、次の方程式を考えます。
x³ + y³ = 1729
整数解、有理解、そして楕円曲線へ
まず整数の範囲で解を探すと、次の4組が見つかります。
(12, 1) (1, 12) (10, 9) (9, 10)
そして、これ以外の整数解は存在しません。1729 = 7 × 13 × 19 と素因数分解し、x+y が取りうる値を一つずつ調べていけば、この4組に限られることが確かめられます。
整数だけでは、解が4つしかなく議論が広がりません。かといって実数まで広げると、解は曲線として連続的に無数に存在し、今度は焦点が定まらなくなります。そこで「整数と実数のあいだ」にある有理数(分数で表せる数)で考える——これがちょうどよい塩梅なのです。
| 数の範囲 | x³ + y³ = 1729 の解 | 扱いやすさ |
|---|---|---|
| 整数 | 4組だけ(12,1)(1,12)(10,9)(9,10) | 少なすぎて議論が広がらない |
| 有理数 | 無限にあるが、構造がある | ちょうどよい。楕円曲線の出番 |
| 実数 | 無限にあり、曲線として連続 | 多すぎて焦点が定まらない |
有理数の範囲では、たとえば次のような解があります。
x = −37/3 , y = 46/3
実際に計算すると、(−37)³ + 46³ = −50,653 + 97,336 = 46,683。これを 3³ = 27 で割ると、ちょうど1729になります。整数解の外側にも、確かに解が広がっているのです。
楕円曲線の「足し算」で解を増やす
こうした有理数解を組織的に探すために威力を発揮するのが、楕円曲線の理論です。楕円曲線とは、おおまかに次の形で表される曲線を指します。
y² = x³ + ax + b
名前に「楕円」とありますが、見た目が楕円になるわけではありません(楕円の弧の長さを求める研究から派生した歴史的な呼び名です)。そして x³ + y³ = 1729 という式も、適切な変換を施すことでこの形の楕円曲線に対応させることができます。
楕円曲線の最大の特徴は、曲線上の点どうしに「足し算」を定義できることです。手順はきわめて視覚的で、次のようになります。
1.曲線上の2つの有理点 A と B を、直線で結ぶ。
2.その直線は、曲線ともう1点 C′ で必ず交わる。
3.C′ を x軸で折り返した点を C とする。
4.この C を A + B と定義する。
驚くべきことに、有理点どうしを足した結果もまた有理点になります。つまりこの操作を繰り返せば、手持ちの解から新しい解を次々と生み出せるのです。有限個の基準点から曲線上のすべての有理点が得られる、という事実はモーデル・ヴェイユの定理として知られています。
1729のロマン、再び
そしてここで、話は最初に戻ります。
ラマヌジャンが病床で口にした2組の整数解 (12, 1) と (10, 9)。この2つが、対応する楕円曲線の上ではまさに「基準点」にあたっている——発表のクライマックスはここでした。松中講師の言葉を借りれば「最強の矢印」です。この2点から足し算を繰り返すことで、無限に広がる有理解の世界が生成されていきます。
ハーディが「平凡だ」と言った4桁の数字。その内側には、無限を生み出す2つの種が埋まっていたわけです。ラマヌジャンが本当に楕円曲線まで見通していたかどうかは誰にもわかりません。しかし、彼が反射的に選び出した2組が、100年後の数学の言葉で「すべての出発点」と呼べる位置を占めていた——この符合こそが、この話のいちばんのロマンだと言えるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. タクシー数1729とは何ですか?
2通りの立方数の和で表せる最小の正の整数です。1729 = 12³ + 1³ = 10³ + 9³ という2つの書き方ができます。1918年、入院中のラマヌジャンを見舞った数学者ハーディが「乗ってきたタクシーの番号1729は平凡な数だった」と言ったところ、ラマヌジャンが即座にこの性質を指摘した——という逸話から「タクシー数」と呼ばれるようになりました。
Q2. 1729以外にもタクシー数はありますか?
あります。n通りの立方数の和で表せる最小の数を Ta(n) と書き、Ta(1)=2、Ta(2)=1729、Ta(3)=87539319、Ta(4)=6963472309248 と続きます。数が急激に大きくなるため、Ta(6) までしか確定していません。単に「タクシー数」と言った場合は、逸話にちなんで Ta(2)=1729 を指すのが一般的です。
Q3. x³+y³=1729 の整数解はいくつありますか?
ちょうど4つです。(12, 1)、(1, 12)、(10, 9)、(9, 10) の4組で、これ以外に整数の組み合わせは存在しません。1729 = 7 × 13 × 19 という素因数分解から、x+y が取りうる値を絞り込んでいくと、この4つに限られることが確かめられます。
Q4. 楕円曲線とはどんな曲線ですか?
おおまかには y² = x³ + ax + b の形で表される曲線です。名前に「楕円」とありますが、見た目は楕円ではありません(楕円の弧の長さを求める研究から生まれた名残です)。最大の特徴は、曲線上の点どうしに「足し算」を定義できること。この足し算があるおかげで、1つの解から次々に新しい解を作り出せます。フェルマーの最終定理の証明でも中心的な役割を果たした、現代数学の主役の一つです。
まとめ|平凡な数字などない
タクシー数1729は、2通りの立方数の和で表せる最小の数です。その整数解は4組しかありませんが、有理数まで視野を広げると解は無限に広がり、楕円曲線という現代数学の道具でその構造を捉えることができます。そしてラマヌジャンが挙げた2組は、その無限の世界を生み出す出発点にあたっていました。
数学の世界には、日常では味わえない驚きが埋まっています。今日のお話が、その入り口になれば幸いです。
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