人材開発支援助成金は2027年度どうなる?令和9年度概算要求602億円を研修担当者向けに解説
公開日
2026年9月1日
更新日
2026年9月3日
厚生労働省が、令和9年度(2027年度)の概算要求を公表しました。企業の人材育成を支える代表的な制度である人材開発支援助成金には602億円が要求され、前年度の539億円から63億円(約11.7%)の増額要求となっています。
結論を先にお伝えします。厚生労働省の要求額は増額方向です。一方、資料全体からは、職種・業務に結びつく訓練と、スキルの可視化・標準化を重視する方向性がうかがえます。生成AIやDX研修で活用されてきた「事業展開等リスキリング支援コース」が来年度も同じ名称・要件で続くかは、この資料だけでは判断できません。
この記事では、厚生労働省・人材開発統括官の概算要求資料を実際に読み、増える部分・新しく始まる部分・まだ分からない部分を、企業の研修担当者の目線で整理します。
この記事のポイント
・人材開発支援助成金は602億円(前年度539億円)の増額要求。ただし、63億円増の主因までは資料から特定できない
・団体訓練では、スキルの可視化・標準化・訓練プログラム開発への支援が拡充項目として示されている
・新規施策として「デジタル人材スキルプラットフォーム」が要求されている
・事業展開等リスキリング支援コースは令和8年度末までの時限措置。同じ名称・要件での継続は未確定
・一方、概算要求の注記には「事業展開に資する訓練」への支援が残っており、関連支援そのものが消えるとは断定できない
この記事の主な内容
大前提:概算要求は「決定」ではなく「要求」です
本題に入る前に、ここだけは押さえてください。概算要求は、各省庁が財務省に対して「来年度これだけ必要です」と提出する要求段階の数字です。決定した予算ではありません。
実際の予算額は年末の予算編成を経て翌年度の予算案として固まり、助成金の細かい要件(対象となる訓練の範囲、助成率、上限額など)は、例年、年度替わりのタイミングの改正で確定します。つまり今回の数字は「厚生労働省がどちらへ舵を切ろうとしているか」を読むための材料であって、来年度の制度そのものではありません。
今回参照したのは、厚生労働省・人材開発統括官の「令和9年度概算要求の概要」(令和8年8月・PDF)です。以下の数字はすべてこの資料に基づいています。
人材開発支援助成金は602億円を要求(前年度539億円)
資料では、「人材開発支援助成金による業界団体等に対する訓練プログラムの開発支援等」602億円(539億円)と示されています。個別メニューの表を見ると、団体訓練のうち、スキルの可視化・標準化・訓練プログラム開発に関する枠が拡充項目として示されています。
ここで注意したいのは、「602億円すべてが団体向け」「63億円の増額分の中心が団体支援」とまでは資料から確認できないことです。企業が実施する訓練への経費・賃金助成も、制度の支援対象として引き続き記載されています。
今回、団体訓練で拡充が示されている主な枠は、次のとおりです。
| 拡充が示されている内容 | 全体1億円 ・スキルの可視化 500万円 ・スキルの標準化 500万円 ・訓練プログラムの開発 1,000万円(3回まで) |
少なくとも、「自社研修の助成率や上限額が一律に引き上げられる」と読める資料ではありません。一方で、業界共通のスキル基準や訓練プログラムを整備する支援が新たに強調されている点は、来年度の方向性を考えるうえで重要です。
助成金が置かれた文脈:「17の戦略分野等におけるリ・スキリング人材育成加速化プラン」
この助成金は単独で増額されているわけではなく、「処遇向上に向けたリ・スキリング支援や生産性向上」951億円(前年度862億円)という柱の中に置かれています。
その柱の先頭に掲げられているのが、「17の戦略分野等におけるリ・スキリング人材育成加速化プラン」です。政府が2026年7月21日に決定した「日本成長戦略」で示された、AI・半導体、量子、航空・宇宙、創薬・先端医療などの戦略17分野について、業所管省庁等と連携し、スキルの可視化からプログラム開発・提供までを一気通貫で支援するという枠組みです。
このプランのうち、厚生労働省が担う主な項目は次のとおりです。
| 項目 | 令和9年度要求額 | 前年度 |
| スキル情報を含めたデータ連携・一元的なデータ提供 | 7.1億円 | 4.5億円 |
| キャリアラダーの企業導入支援 | 1.2億円 | 0.9億円 |
| 成長戦略分野等における検定創設等支援事業【新規】 | 1.6億円 | ― |
| 人材開発支援助成金による業界団体等に対する訓練プログラムの開発支援等 | 602億円 | 539億円 |
| 教育訓練給付金等による労働者の主体的な能力開発への支援 | 582億円 | 558億円 |
| デジタル人材スキルプラットフォーム【新規】 | 情報システム関係経費の内数で要求 | ― |
並べてみると、方向性がはっきりします。「スキルを可視化し、標準をつくり、それに沿ったプログラムを開発して、そこにお金を流す」という一本の線です。研修の実施そのものより、「何ができるようになったのかを外から確認できる形にする」ことに重心が移っています。
【新規】デジタル人材スキルプラットフォームとは何か
今回の新規施策で、研修に関わる人がいちばん気にすべきなのがこれです。資料の説明は一文だけで、「戦略17分野等を念頭にAI・デジタル関連スキル・資格等の可視化・証明のための基盤を整備」とされています。
要求額は単独では計上されておらず、「情報システム関係経費の内数で要求」という形です。金額規模はこの資料からは分かりません。
公式資料から確認できるのは、AI・デジタル関連のスキル・資格等を可視化・証明する基盤を整備する方針までです。個人や企業が何を登録できるのか、誰が照会できるのか、資格情報とどのように連携するのかといった具体的な設計は、現時点では公表されていません。
ただし、同じ柱に「スキル情報を含めたデータ連携・一元的なデータ提供」や「検定創設等支援事業」が並んでいることから、研修の受講履歴だけでなく、習得したスキルを説明・証明しやすくする方向を目指していると考えられます。これは資料全体からの推測であり、確定した仕様ではありません。
研修担当者にとっては、制度の詳細を待つ間にも、「受講したか」ではなく「どの業務をどの水準でできるようになったか」を評価できる設計に近づけておく価値があります。
この資料から読み取れないこと:事業展開等リスキリング支援コースの来年度
ここが多くの研修担当者にとっての本題だと思います。結論から言うと、今回の概算要求資料からは判断できません。
まず事実の確認です。生成AI研修やDX研修でよく使われてきた「事業展開等リスキリング支援コース」は、厚生労働省の詳細版パンフレット(令和8年8月3日版)に「令和8年度末までの時限措置」と明記されています。つまり制度上は、2027年3月末で期限を迎えることになっています。
では令和9年度はどうなるのか。概算要求資料には、このコース名は登場しません。人材開発支援助成金のページには「一般訓練」「認定実習併用職業訓練等」「非正規雇用労働者特定訓練」「団体訓練」「教育訓練休暇制度」「長期教育訓練休暇制度」「教育訓練短時間勤務等制度」といった訓練メニュー単位の整理が並び、現行のコース名は出てきません。
一方で、同じ表の注記には「事業展開に資する訓練」という表現と、一定の設備投資を行った場合の加算が残っています。したがって、同じコース名が続くかは不明でも、事業展開に関係する訓練への支援自体がなくなるとまでは読めません。名称・要件・助成率がどう整理されるかを分けて確認する必要があります。
参考までに、前年度(令和8年度)の同じ資料には「人材育成支援コース」「教育訓練休暇等付与コース」「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」というコース名が並び、「人への投資促進コース及び事業展開等リスキリング支援コース 401億円」という内訳まで書かれていました。1年で書きぶりが変わっていることになります。
ただし、これだけで制度再編を断定することはできません。資料上の見せ方を変えただけ、という可能性も十分にあります。言えるのは「事業展開等リスキリング支援コースが令和9年度も同じ形で続く」と読める材料が、この資料の中にはない、という一点です。確定するのは年末の予算編成と、その後の改正内容の公表を待つことになります。
2026年8月3日の改正と、方向は一致している
もうひとつ押さえておきたいのが、直近の改正との整合です。事業展開等リスキリング支援コースは令和8年(2026年)8月3日の改正で、助成対象になる訓練の範囲が絞り込まれました。DX・GX分野の訓練であっても、職務に間接的に必要となる知識・技能や、職種を問わず職業人として共通して必要となるもの(=汎用的な内容)は助成対象外と明記されています。
生成AI研修については、厚生労働省が次の判定例を示しています。
| 助成対象にならない例 | 生成AIを利用するための汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練 DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練 |
| 助成対象になる例 | 営業担当者向けに、生成AIを活用した商品提案書の構成案作成・文章生成・修正方法を学ぶ訓練 |
あわせて受講回数の上限も設けられました。令和8年8月3日以降に提出された計画に基づく訓練では、同一の労働者につき1年度あたり3回まで、うちeラーニングによる訓練は1回までです。なお、この「年度」は支給申請日を基準に数えるとされています。
この改正の考え方と、今回の概算要求で示されたスキルの可視化・標準化の重視には、共通する方向性が見られます。職種や具体的な業務とのつながりを説明できる研修が重視される傾向はうかがえますが、来年度の対象要件が確定したわけではありません。現時点では、要件が緩和されることを前提に計画を立てないほうが安全です。
研修担当者は、今年度中に動くべきか・待つべきか
ここまでを踏まえると、情報を次の3層に分けると判断しやすくなります。
| 確定していること | 令和8年度の現行制度と、2026年8月3日からの対象範囲・回数上限の変更 |
| 要求されていること | 令和9年度602億円の概算要求、団体訓練の拡充、デジタル人材スキルプラットフォーム等の新規施策 |
| まだ分からないこと | 令和9年度のコース名称、対象要件、助成率・上限額、現行コースの継続・再編 |
和からでは、助成金の有無より先に、研修企画を次の4つの問いで確認することをおすすめしています。
| 1. 対象 | どの部門・職種の人が受けるのか |
| 2. 業務 | どの具体的な業務を変えるのか |
| 3. 行動 | 受講後に何をできるようにするのか |
| 4. 証拠 | 成果を何で測り、どのように確認するのか |
この4点が具体的なら、制度変更に対応しやすいだけでなく、助成金を使わない場合でも研修投資の妥当性を説明しやすくなります。そのうえで、実務上の判断を3つに整理します。
1. 今年度の制度を使うなら、必要性と期限を先に確認する。
事業展開等リスキリング支援コースは令和8年度末までの時限措置で、令和9年度以降は未確定です。実施する必要がすでにあり、対象職種・業務と訓練内容が明確な場合は、計画届などの期限を早めに確認する価値があります。ただし、助成金を使うことだけを目的に、必要性の薄い研修を急いで実施することはおすすめしません。
2. カリキュラムは、制度が変わっても価値が残る形にする。
「どの部門・職種の、どの業務を、どう変えるのか」まで落とし込んだ研修なら、制度が変わっても社内での目的と効果を説明しやすくなります。「ChatGPT研修」などツール名だけでは対象性を判断できず、実際のカリキュラム、対象者、業務との関連で審査される点に注意が必要です。
3. 情報のチェックポイントは年内と年度替わりの2回。
1回目は年末の予算編成(政府予算案)。ここで金額の枠が決まります。2回目は年度替わりの改正内容の公表。ここでコース構成と要件が確定します。概算要求の段階で判断を固めてしまわないことが大切です。
なお、助成金の支給対象になるかどうかの最終的な判断は、管轄の都道府県労働局が行います。個別の研修計画が対象になるかは、必ず労働局または社会保険労務士にご確認ください。本記事は制度の解説を目的としたもので、支給を保証するものではありません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 概算要求で増額されれば、来年度の助成金は必ず増えるのですか。
いいえ。概算要求は各省庁が財務省に提出する要求段階の数字で、決定された予算ではありません。年末の予算編成の過程で減額されることも、内訳が組み替えられることもあります。今回の602億円という数字は「厚生労働省の意向」を示すものと理解してください。
Q2. 事業展開等リスキリング支援コースは終了するのですか。
現時点では分かりません。同コースは厚生労働省のパンフレット(令和8年8月3日版)に「令和8年度末までの時限措置」と明記されていますが、令和9年度以降の扱いは公表されていません。今回の概算要求資料にもコース名の記載はなく、継続・終了・再編のいずれとも判断できない状態です。
Q3. 「デジタル人材スキルプラットフォーム」は、うちの会社の研修に関係しますか。
直接の助成制度ではなく、AI・デジタル関連のスキルや資格を可視化・証明するための国の基盤整備です。ただし、社員のスキルを「研修を受けた」ではなく「何ができるか」で示す方向に制度全体が動いているという意味で、研修の効果測定やスキル評価の設計には影響します。
Q4. 生成AI研修は、まだ助成金の対象になりますか。
内容次第です。2026年8月3日の改正で、汎用的なプロンプトの作り方やDXの概念を学ぶ訓練は対象外と明示されました。一方で、特定の職種の具体的な業務に直結する内容であれば対象になり得ます。カリキュラムの書き方が結果を左右するため、企画の段階で線引きを意識しておく必要があります。
Q5. 来年度まで待ったほうが得ですか。
一律には言えません。すでに必要な研修があり、対象要件と申請期限を確認できるなら、今年度中の実施を検討する余地があります。一方、目的・対象者・カリキュラムが固まっていないなら、助成金だけを理由に急ぐべきではありません。事業上の必要性と準備状況を優先し、令和9年度の制度は公表後に改めて比較してください。
まとめ
令和9年度の概算要求から読み取れることは、次の3点です。
第一に、厚生労働省は人材開発支援助成金602億円(前年度539億円)を要求し、リ・スキリング支援等の柱にも951億円(前年度862億円)を要求しています。これは令和9年度に向けた要求段階の方針であり、決定予算ではありません。
第二に、団体訓練ではスキルの可視化・標準化・訓練プログラム開発への拡充が示されています。ただし、63億円増の主因がこの項目だと断定したり、企業研修への助成が一律に手厚くなると読んだりすることはできません。
第三に、令和9年度の個別コース名称・要件・助成率は未確定です。現行の事業展開等リスキリング支援コースは令和8年度末までの時限措置ですが、概算要求には「事業展開に資する訓練」への支援が残っています。継続・終了だけでなく、制度再編の可能性も含めて今後の公表を確認する必要があります。
制度がどう変わっても効くのは、「どの職種の、どの業務を、どう変える研修なのか」をカリキュラムまで具体化しておくことです。これは助成金の対象性のためだけでなく、研修そのものの成果を上げるためにも同じ答えになります。
和からでは、部門・職種と業務単位まで落とし込んだ生成AI・データ活用の法人研修をご提供しています。カリキュラムの設計段階からご相談いただけます。
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参考にした資料
・厚生労働省 人材開発統括官「令和9年度概算要求の概要」(令和8年8月・PDF)
・厚生労働省「人材開発支援助成金」
・厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コース 令和8年8月3日からの変更点について」(PDF)
・厚生労働省「人材開発支援助成金 詳細版パンフレット(令和8年8月3日版)」(PDF)
・内閣官房「日本成長戦略」(2026年7月21日・PDF)
※本記事は令和8年8月時点で公表された概算要求資料に基づく解説です。予算額および制度の内容は、今後の予算編成および改正により変更される可能性があります。最新の情報は必ず厚生労働省の公式ページでご確認ください。
監修/和から株式会社 堀口智之
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