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2017/04/30

企業の人事部門でも進むデータ活用。どんなことが分析できるの?

企業における人事部門においては、従来、エントリーシートや職務経歴書、面接や評価面談やなどから得られる定性的な情報が頼りにされてきました。しかし、ここ数年で進化した機械学習・人工知能(AI)などのテクノロジーを用いて、定量的な分析を元に人材の評価や育成、配置を試みる動きが出てきており、HRtechなどとも言われ、注目されています。

今回は、戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」を提供する株式会社ビズリーチの事例をまじえて、人事領域でのデータ活用の可能性と、人事担当者に求められる知識・スキルについて考えてみたいと思います。

人事部門でもデータ活用の機運が高まっている

企業の中でも、ビッグデータの活用にいち早く着手してきたのは、マーケティングの領域でしょう。大人のための数学教室「和(なごみ)」に学びに来られる方の中には、統計学を学んで仕事に活かしたいと考えるマーケティング担当者の方が多くいらっしゃいます。

しかし最近では、ビッグデータ活用の機運は企業内の他部門でも高まっているようで、和からでも、人事部の方を対象に統計・数学の授業を行う機会が出始めています。

一方、人事の世界では近年「戦略人事」がキーワードになっています。これまでの人事の役割は、事務処理や労務管理などの管理・運用的な業務が主だと考えられてきました。これに対し、人材マネジメントを経営戦略と連携させることによって、業績や生産性の向上、企業の成長に貢献する人事、すなわち「戦略人事」という役割の重要性が再認識されています

企業内に散在していた人事データを一元管理する

株式会社ビズリーチで、HRMOSのBtoBマーケティングを担当している現王園浩士さんも、人事領域でのデータ活用の必要性についてこう話します。

「人事担当者の方とお話しすると、データを活用へのニーズを強く感じます。担当者の方だけでなく、管理職の方も採用業務や人事業務を数字で評価・管理することで、マーケティングや営業と同じように、人事施策に対してPDCAサイクルをスピーディーに回していきたいと考えています」

<今回お話を聞いた人>

株式会社ビズリーチ
インキュベーションカンパニー マーケティング本部
現王園 浩士(げんおうぞの ひろし)さん

東京大学農学部を卒業後、インド最大のIT企業の日本法人に入社。インドでの研修を経て、ブリッジエンジニアとして活躍。IoTを活用したビッグデータプロジェクトにも携わる。2015年7月にビズリーチへ転職後は、求人検索エンジン「スタンバイ」の立ち上げに携わり、ディレクション、アプリマーケティング、データ収集・分析などを幅広く担当。現在は戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」のBtoBマーケティングに従事。

採用管理に関してはこれまで、求人票や応募者管理をする「ATS(Applicant Tracking System)」を導入する企業も一部にはありました。

「これまでは、採用活動が終わると、ATSに蓄積されたデータは次の採用活動に活かされないということが多かったのではないでしょうか。「HRMOS採用管理」では、採用経路別・職種別の採用実績や進捗を細かく分析できるため、採用業務における課題がどこにあるかを発見することができます。さらには、採用に関するデータと、入社後の社員の評価・勤怠管理など、これまで別々で管理していた人事データを、『人』を中心に紐付けて一元管理し、組織の最適化に活かしていく、これがHRMOSで実現したい戦略人事クラウドの世界観です」

データを一元管理することによって、いつでも簡単にデータにアクセスでき、無駄な事務作業を省くことができるようになります。またそれだけでなく、ビッグデータ解析によって個々の企業に必要な人材の採用・育成・配置ができるようになるといいます。

「例えば、採用した時にどのような評価だった人が、入社後にどのような活躍をしているかを定量化できるようになります。そうすると、逆に『入社後に活躍する可能性が高い人』を採用するために、どういうターゲットに募集をかければいいのか、どのような採用基準を設けたらいいのかが分かるようになるでしょう」

求人票を作成したら、給与を推定してくれる

現王園さんによると、「『HRMOS』においてAIの実装はまだ部分的」とのこと。今後の予定として、「給与推定」の機能開発を検討しているといいます。

「『HRMOS』とは別に、当社で提供している『スタンバイ』という求人検索エンジンがあります。これは、求人情報だけを対象にした検索エンジンなのですが、このシステムが、Webをクロールして日本中の求人情報700万件以上を集めているんですね。今後予定している機能では、そのデータの活用を予定しています。人事担当の方が『HRMOS』上で求人票を作成すると、まずは、その求人票に書かれた内容を解析します。そして、『スタンバイ』がWeb上から集めてきたあらゆる求人情報のデータと照らし合わせて、作成した求人票のポジションにふさわしい給与額を推定してAIが教えてくれるのです

ここには、作成された求人票に書かれた文章や、Web上から集めた求人情報に書かれている文章を解析する「テキストマイニング」というデータ分析手法が使われています。

「テキストマイニング」とは、通常の人間が理解するような文章からなるデータを単語や文節に区切り、それらの出現の頻度や出現傾向、時系列などを統計的に解析することで、人間が文章を読み取るように、そのテキストから意味のある情報を取り出す分析方法です。

人事施策の成功の再現性を高めるために、定量データが必要

企業が人を採用するに当たって、もし、採用コストにも、採用した人の給与にも糸目を付けなくてよいのであれば、お金を際限なくかけて“超”優秀な人材を採用すればいいでしょう。でも、当然ながらそういうわけにはいきません。戦略人事を実現するには、投資対効果の観点が求められるのです。

  • ・どのような能力・資質を備えた人材を、どの程度の給与で雇うべきか
  • ・採用した人が、入社後に活躍して、投資に見合ったリターンをもたらしているか
  • ・即戦力ではない社員をどのくらいの期間をかけて、どのように育成し、戦力化していくのか
  • ・人材リソースが適切に配置され、最大限活用できているか
  • ・採用にかけた投資を回収できないうちに退職していないか

このようなことを人事が考えたり、投資対効果を検証したりする上で、「人材」の質と「業績」を定量化し、結びつけて把握していかなければなりません。

もちろん、人事担当者の経験や感覚、勘といった定性的な評価が、まったく役に立たないわけではないでしょう。ただ、企業戦略という観点では、そうした定性的な情報に頼ることは、人事施策の成功の再現性を不確定要素にゆだねることになり、「戦略人事」とは言えないものになってしまいます。だからこそ、データの活用が重要になってくるのです。

AIによる分析結果も、最終的に判断するのは人

機械学習・AIの発達によって、これまで人が感覚的に行っていた人材の評価・育成・配置が、定量的なデータの解析に基づくものに置き換わっていくでしょう。ただ、AIが出す分析結果や予測を人事施策にどう生かすかを最終的に判断するのは、それを受け取る人事担当者です

機械学習・AIによる分析には、統計学的な手法が用いられています。なぜそのような結果が出ているのかを理解したり、その分析結果が表しているものがどの程度確からしいかを判断するためには、統計学に関する知見と、分析手法に対する理解が求められます。

また、自社で人事データ活用の仕組みをつくるには、「経営視点で何を判断したいのか」「どのようなデータを集めなければいけないか」「ロジックをどう設計するか」というように、それぞれの分野に合った手法を身につける必要があります

その意味では、経営やマーケティングの分野でデータ分析のリテラシーが求められているように、人事職にも同様の知見・能力が求められるようになってきたと言えるでしょう。

AIで使われている技術を理解することは、AIが導き出した結果や数字を操る力を身につけることにつながります。高度な分析手法を知らなくても、AIに関するリテラシーは誰もが習得しておきたいものです。

和から株式会社 鈴木のコメント:

人事データのクラウドサービス化から見える将来のビジョンについて、「データの一元管理」「機械学習を利用した解析」の2点からお話をしていただきました。データの一元管理によって、いつでも簡単にデータにアクセスでき、無駄な事務作業を省くことができるだけでなく、ビッグデータ解析によって個々の企業に必要な人材の採用・育成・配置ができるようになるだろうとのことでした。

一口に「機械学習を用いたビッグデータ解析」といっても、「データの前処理」から「ロジックの設計」「結果の評価」と個々の分野に合った手法を身につける必要があります。弊社の統計学講座や機械学習研修でも、さまざまなデータ分析に必要になる統計学・機械学習のエッセンスをお客様のニーズに合わせてお伝えできるように心がけています。

今後いろいろなビッグデータを用いたサービスが私たちの暮らしをより便利にしてくれると思われます。その一方で、AI・機械学習のサービスをより有益に利用するうえでも、それらの技術について理解しておきたいものですね。

(取材協力=株式会社ビズリーチ/文・写真=畑邊康浩)