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バイブ・レベニューとは?|ARRを将来売上として読むときの落とし穴

公開日

2026年9月25日

更新日

2026年9月25日

バイブ・レベニュー(vibe revenue)とは、お試しやPoC、「乗り遅れたくない」という空気で一時的に立っているだけで、継続する見込みの薄い売上のことです。たとえば生成AIのツールを「とりあえず全社で1か月契約してみた」「PoC予算が余ったので有料プランにした」という場合です。どちらも当月の売上にはなりますが、翌月以降も契約が続くかは別の話です。

ARR(年間経常収益)は、現在の経常的な月次売上を年換算する指標で、将来の入金をそのまま予測する数字ではありません。ただしARRを当月から12か月の売上見込みとして読むと、実質的に解約がない前提を置くことになります。新規獲得を考えず、現在の売上の月次継続率が90%なら、当月から12か月の売上は現在の月次売上×12の約60%、70%なら約27%になるという試算です。この記事では、お試し客が混ざるとこの差がどこまで開くのか、どの指標で確認できるのかを説明します。

この記事のポイント

  • ARRは現在の経常収益の年換算で、将来の入金予測そのものではありません。
  • 将来売上として読むときは、解約率・契約期間・顧客層を別に確認する必要があります。
  • 和からの計算は、新規獲得や単価変動を除いた仮定モデルです。

バイブ・レベニューはAIバブル論の中で広まった言葉です

2025年2月には起業家のGreg Isenberg氏がブログ記事「Vibe Revenue」で、好奇心や目新しさ、FOMO(取り残される不安)から払われているお金を「vibe revenue」と呼び、最初の転換率は高いのに3〜6か月後の継続が弱い、という特徴を挙げています。

2025年9月28日にはFortuneが、AIスタートアップのARRの数え方がばらばらになっている問題を取り上げました。2週間のパイロットを根拠に年32万5,000ドルのARRを名乗った例や、3か月で理由なく解約できる条項付きの契約を「受注済みARR」に数える例が、ベンチャー投資家の証言として紹介されています。記事の中で匿名の投資家が、こうした売上を「vibe revenue」と呼んでいます。

この言葉が広く目に触れた例の一つが、2025年11月14日のCNBCの報道です。リスボンのWeb Summitで取材を受けた画像編集アプリPicsartのCEO、Hovhannes Avoyan氏が、市場は「ちょっとした話題とバイブ・レベニューだけ」の小さなスタートアップにも値を付けている、と発言しました。AI企業の経営者自身がバブルへの懸念を口にした記事として、この言葉が引用されるようになります。paid.aiの「Vibe Revenue」や「ARR is dead. Long live VRR」といった論考も出ています。

サブスクリプション分析のChartMogulが2025年12月に公開したレポートは、約3,500社(うちAIネイティブ約200社)の2025年のデータから、ARR25万ドル以上の企業を対象に年換算の継続率を集計しています。AIネイティブ企業の売上継続率(GRR、拡大分を含まない)の中央値は40%、拡大分を含むNRRの中央値は48%でした。B2B SaaSのNRRの中央値は82%です。

価格帯別にも差があります。AIネイティブ企業のうち月額250ドル超の価格帯ではGRRが70%なのに対し、月額50ドル未満では23%まで下がります。レポートは、累計支払額が250ドル以上になった顧客の売上を、試用段階の支出と分けて測ることを提案しています。価格帯で継続率に差があることは、売上の継続性を確認する理由の一つです。

現在の売上は、継続率を入れると当月から12か月でいくらになるか

今月の月次経常売上をM、各月の売上が翌月も残る割合(月次売上継続率)をrとします。ARRの一般的な定義は次の式です。

ARR = M × 12

一方、新規獲得をいったん脇に置き、今いる顧客から今月を1か月目として12か月間に計上する売上を考えると、1か月目はM、2か月目はM × r、3か月目はM × rの2乗と減っていきます。等比数列の和なので、次の式にまとまります。合計する期間は当月から11か月後までです。以下の表の「12か月後」は、その翌月に残る月次売上を示します。

12か月の試算売上 = M ×(1 + r + rの2乗 + … + rの11乗)= M ×(1 − rの12乗)÷(1 − r)(r≠1)。r=1のときは M × 12 です。

ARRは現在の月次経常収益 M を12倍した指標です。これを当月から12か月の売上予測として扱う場合は、このモデルで r=1、つまり「現在の売上が解約なく続く」とみなすことになります。本記事では比較のため、現在の顧客について当月から12か月分を試算した売上をARRで割った値を「実現率」と呼びます。これは一般に定義された会計指標ではなく、本記事内の呼び方です。

実現率 =(1 − rの12乗)÷{12 ×(1 − r)}(r≠1)。r=1のときは100%です。

rを0.5から1まで振って、Pythonで計算した早見表がこちらです。

月次継続率 r 12か月後に残る割合 実現率(試算売上÷ARR)
0.50 0.0% 16.7%
0.60 0.2% 20.8%
0.70 1.4% 27.4%
0.80 6.9% 38.8%
0.85 14.2% 47.7%
0.90 28.2% 59.8%
0.926 39.7% 67.8%
0.95 54.0% 76.6%
0.98 78.5% 89.7%
1.00 100.0% 100.0%

月次売上継続率95%なら、1年後に残る月次売上は現在の約54%で、当月から12か月の試算売上はARRの約77%です。0.926の行は、年間GRR40%(先ほどのAIネイティブ企業の中央値)を月次に直した値で、この一定率モデルでの実現率は約68%です。月次売上継続率が90%なら、ARRは当月から12か月の試算売上の約1.7倍で、継続率が下がるほどこの倍率は大きくなります。

お試し客が混ざるとARRと試算売上の差はどう広がるか

現実の顧客には、本気で業務に組み込んでいる顧客と様子見で契約した顧客が混ざっています。ここでは仮定として、継続利用する顧客層の月次売上継続率を0.98、お試し客の層を0.6とし、当月の売上に占めるお試し客の比率をpとします。

実現率 =(1 − p)× 継続利用する層の実現率 + p × お試し客の実現率

お試し比率 p 実現率(試算売上÷ARR) 12か月後に残る月次売上
0% 89.7% 78.5%
20% 75.9% 62.8%
40% 62.1% 47.2%
50% 55.2% 39.3%
60% 48.4% 31.5%
80% 34.6% 15.9%

お試し客が当月の売上の半分を占める場合、当月から12か月の試算売上はARRの約55%で、1年後に残る月次売上は当月の4割を切ります。ARRは顧客層の継続率を区別しないため、同じARRでも試算額に差が出ます。

これを成長に当てはめた仮想のシナリオを置きます。昨年、月次売上1,000万円がすべて継続利用する層からのものだった会社が、今年は月次売上3,000万円になったとします。内訳は継続利用する層から1,200万円、お試し客の層から1,800万円です。ARRは1.2億円から3.6億円へ、ちょうど3倍になります。

ところが、新規獲得がないと仮定して、それぞれの当月から12か月分の売上を試算すると、約1.08億円から約1.74億円へ、1.6倍にとどまります。ARRは3倍ですが、1年後に残る月次売上の試算額は約785万円から約946万円へ、約1.2倍です。この仮定では、お試し売上の比率が高いほど、ARRの伸びと将来残る月次売上の伸びに差が出ます。

なお、ここまでの計算は、月次継続率が毎月一定で新規獲得と単価の変動はないと仮定した、乱数を使わない確定的な計算です。継続利用する層0.98、お試し客の層0.6は仮定の値で実在の企業のデータではなく、年間GRR40%から月次0.926への換算も毎月同じ割合で減るという仮定によります。実際の解約は契約形態や価格帯で大きく変わります。

売上コホートの継続率から何が分かるか

ARRだけでは、当月売上に占めるお試し客の比率pは分かりません。同じ月に契約した顧客のまとまり(コホート)について、当初の月次売上の何%が残っているかを追うと、継続状況を確認できます。この混合モデルでは、kか月後に残る売上の割合は次の式になります。

kか月後に残る売上の割合 =(1 − p)×(継続利用する層のrのk乗)+ p ×(お試し客の層のrのk乗)

お試し比率 p 1か月後 3か月後 6か月後 12か月後
20% 90% 80% 72% 63%
50% 79% 58% 47% 39%
80% 68% 36% 21% 16%

この仮定では、お試し客の層からの売上が半年ほどで大きく減るため、6か月目以降の曲線は主に継続率の高い層の売上を反映します。ただし、継続利用する層の売上も月次0.98で少しずつ減るため、曲線の高さから 1−p をそのまま読み取ることはできません。p=50%の行で6か月目が47%なのは、継続利用する層の売上約44%に、お試し客の残りが加わった結果です。初期の急落と、その後の緩やかな傾きを分けて見ることが手がかりになります。

コホート継続率に加えて、割合で見ておきたい指標があと二つあります。一つは無料トライアルやPoCから有料契約へ移った割合(有料転換率)で、これが高いのに継続率が低いなら、購入後の利用が続いていない可能性があります。もう一つは、契約している席のうち週に一度以上使っている割合(利用頻度)です。支払いは続いていても利用がない席は、次の契約更新時に利用状況を確かめたい対象です。

研修会社にもバイブ・レベニューはあります

和からは法人向けに生成AI研修やデータ分析研修を行っていますが、現場の感覚では「生成AI研修を一度やってみた」という予算は、全社で一巡すると次の年度には消えてしまうことがあります。売上表では、こうした一巡型の案件も、毎年の新人研修や部署ごとの育成に組み込まれた案件も、同じ「売上」として並びます。先ほどの式でいえば一巡型の案件は継続率が低い顧客で、前年に大きく伸びた売上の一部は、そもそも翌年に残る前提のものではありません。

なぜAIの分野でこれが起きやすいのか。導入の最初の数分で「すごい」と感じられる体験があり、判断が速く、予算も「とりあえず試す」名目で付きやすいからです。研修でいえば、受講後に現場の仕事で何を変えたかが、翌年に残るかどうかを左右していると和からは考えています。

バイブ・レベニューに振り回されないためには何をすればよいか

まず、売上を報告するときは M×12 のARRだけでなく、直近コホートの継続率を使い、当月から12か月分を試算した売上も並べます。二つの差には通常の解約や契約期間の影響も含まれるため、差額のすべてがバイブ・レベニューとは限りません。それでも、将来にそのまま延ばせない売上の大きさを把握する警告指標になります。

次に、売上を試用段階と継続利用の段階に分けて集計します。ChartMogulのレポートのように、累計支払額や契約期間の基準を決めて集計すると、同じARRでも顧客層ごとの売上を比べられます。区分の基準を明示し、毎期同じ基準で比較します。

売上コホートの曲線では、初月の変化に加えて、6か月目以降の減り方を確認します。このモデルでも継続利用する層の売上は減り続けるため、曲線の高さをその層の割合とみなすことはできません。同じ定義で期ごとの曲線を比べれば、売上の残り方がどう変わったかを確認できます。あわせて、席数や契約数ではなく、実際に使われている割合を契約の割合と分けて追います。研修であれば、受講後に業務で使っている人の割合がこれにあたります。

ここで使ったのは、等比数列の和と、二つの集団を比率で混ぜる加重平均だけです。どちらもデータ分析の基本です。指標を読むときは、その定義と計算に使った仮定を式で確認できます。社内でこうした指標を扱える人を育てたい場合はデータ分析研修を、個人で統計の読み方を身につけたい方は個人向けの統計講座をご覧ください。スクールや講座への投資を回収年数で考える話は、AIスクールは元が取れるかを計算した記事で扱っています。

よくある質問

バイブ・レベニューは粉飾や不正のことですか

いいえ。多くの場合、お金は実際に支払われています。問題は売上が偽物であることではなく、継続する前提で年額に換算されている点です。Fortuneの記事が紹介したパイロットや解約条項付きの契約の扱いは、会計基準の話というより、ARRという指標の定義が各社でばらばらなことから生じています。

ARRを使うこと自体が間違いなのですか

ARRは継続率が十分に高いサブスクリプション事業では便利な指標です。月次売上継続率98%なら、当月から12か月の試算売上はARRの約90%です。ずれが問題になるのは継続率が低いときで、その場合はARRだけで判断しない方が安全です。

月次継続率はどうやって測ればよいですか

ある月に売上があった顧客の売上合計を分母に、同じ顧客の翌月の売上合計を分子にとるのが最も単純な方法です。拡大分を含めるか含めないかで値が変わるので、含めないGRRの考え方で測ると、この記事の式と対応が取りやすくなります。

お試しの顧客はすべて悪い顧客なのですか

そうではありません。お試しから本気の利用に移る顧客もいます。大切なのは、お試しの売上を継続利用する層の売上と同じ継続率で将来額を試算しないことです。有料転換率と、転換後のコホートの継続率を分けて見れば、お試しが入口として機能しているかどうかが分かります。

監修/和から株式会社 堀口智之

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