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AI時代に必要な力の1位はリーダーシップ|経営層139人調査は何を測ったか

公開日

2026年9月22日

更新日

2026年9月22日

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今後3〜5年で必要になる力の1位はリーダーシップで86.3%、デジタル・AI活用能力は48.9%で4位。日経ビジネスとグロービス経営大学院が2026年9月18日に公表した調査で、経営層139人が答えた数字です。約37ポイントの差だけを見ると、「AI研修に予算を割くより人間力を育てるべきだ」という読み方につながりかねません。

ただ、この調査だけでは研修の予算配分は決められません。回答者は日本の経営層全体を代表するように抽出された人たちではなく、設問も能力の不足度や研修効果を尋ねたものではありません。役職別の課題認識の違いを含め、調査から読み取れる範囲を確かめます。

この調査は誰に何を聞いたのか

調査主体は日経ビジネスとグロービス経営大学院で、対象はグロービス経営大学院の在学生・卒業生の約1万人です。Webアンケートで2026年5月19日から6月14日まで実施し、有効回答は618件、そのうち経営層が139人でした。結果の一部は日経BPのプレスリリース(2026年9月18日)で公表され、日経ビジネス電子版には日経ビジネス電子版「[独自調査]経営層の8割「AI日常利用」 最も必要なのは「リーダーシップ」」として掲載されています。誌面では日経ビジネス2026年9月21日号の特集で扱われ、グロービスによる詳しいリポートの掲載は2026年10月ごろの予定です。

対象の約1万人に対して有効回答は618件で、およそ6.2%です。回答した人としなかった人でAIへの関心や利用状況が異なる可能性はありますが、その違いは公表資料から分かりません。回答者の自己選択による偏りに注意が必要です。

調査対象も限られています。グロービス経営大学院の在学生・卒業生は、自分の時間と費用を投じて経営を学ぶことを選んだ人たちです。経営層139人は、そのなかでさらに経営層という立場にいる人です。この139人のうち生成AIを「業務の中核で、AIなしでは業務遂行が困難」と答えた人が23.7%、「ほぼ毎日利用」が56.1%で、合わせて79.8%が日常的に使っています。独立した無作為抽出を仮定して通常の近似式を当てはめれば73.1〜86.5%という区間になりますが、今回はその仮定を満たす標本とは確認できません。79.8%は調査に回答した経営層の割合であり、この参考計算によって日本の経営層一般の利用率やその精度が分かるわけではありません。

この調査は、経営を学んでいる、または学んだ経験がある回答者の課題認識を知る資料です。研修を設計する際の参考になりますが、学習経験の異なる人たちにも同じ課題があるか、その課題がより強いかは別に確かめる必要があります。

86.3%と82.7%の差は意味があるのか

経営層139人が「今後3〜5年で必要になる力」として挙げた割合は、リーダーシップ86.3%、コミュニケーション能力82.7%、やり抜く力79.1%、デジタル・AI活用能力48.9%、データ分析・活用能力31.7%です。回答者内の順位と、より広い集団についての推測は分けて考える必要があります。

独立した無作為抽出を仮定する場合、割合をp、人数をnとすると標準誤差の推定値は √(p(1−p)/n) で、95%信頼区間の正規近似にはその1.96倍を前後に取る方法があります。ここでは人数による変動の大きさを考える参考として計算します。自己選択や対象の限定による偏りは含まれず、この調査自体の誤差範囲を示すものではありません。リーダーシップの86.3%なら √(0.863×0.137/139) ≒ 0.029 で、1.96倍して約±5.7ポイント。同じ計算を5項目に当てはめると次のようになります。

今後3〜5年で必要になる力 「必要」と答えた割合 無作為抽出を仮定した参考区間(n=139)
リーダーシップ 86.3% 80.6〜92.0%(±5.7pt)
コミュニケーション能力 82.7% 76.4〜89.0%(±6.3pt)
やり抜く力 79.1% 72.3〜85.9%(±6.8pt)
デジタル・AI活用能力 48.9% 40.6〜57.2%(±8.3pt)
データ分析・活用能力 31.7% 24.0〜39.4%(±7.7pt)

上位3項目の参考区間は重なっています。ただし、区間が重なることだけから差がないとは判断できません。今回の回答者ではリーダーシップが1位で、2位との差は3.6ポイント、3位との差は7.2ポイントです。この順位をより広い集団に一般化できるかは、回答の対応関係や標本の集め方も含めて検討する必要があります。

上位3項目とデジタル・AI活用能力との回答割合の差は、30.2〜37.4ポイントです。先ほどの参考区間も重なっていません。この回答者集団では上位3項目を必要と答えた割合が高かったといえますが、参考区間の比較だけで日本の経営層全体について差を保証することはできません。

また、2項目の差の不確かさを見積もるには、同じ人がどの選択肢を同時に選んだかという情報が必要です。独立した2標本に使う標準誤差の式を、同じ139人の複数回答にそのまま当てはめることはできません。個々の区間の重なりは、差そのものの検定の代わりにはなりません。

複数回答の「必要」順位は何を測っているのか

設問形式について、プレスリリースには複数回答かどうかの記載がありません。ただ5項目の合計が328.7%になるので、複数回答と見られます。選択肢の全体像や、一般社員・管理職の数値は2026年9月21日時点では公表されていないため、ここでは経営層の5項目だけを扱います。

複数回答で「必要な力」を選ぶ形式だとすれば、複数の能力を同時に重視している回答を含みます。高い回答割合は、その能力が不足している人の割合でも、研修への投資順位でもありません。幅広い仕事に必要だと捉えられる能力が選ばれやすい可能性はありますが、その理由まで今回の数字で確かめたわけではありません。

比較できる調査でも同じ形が見えます。世界経済フォーラムのFuture of Jobs Report 2025(2025年1月、22業種・55の経済圏の1,000社超)では、2025年時点のコアスキルの上位は分析的思考、レジリエンスと柔軟性・敏捷性、リーダーシップと社会的影響力、創造的思考、動機づけと自己認識の順で、分析的思考は企業の約7割が必須と答えています。AIとビッグデータは上位5位には入りません。ところが同じ報告書は、2030年までに最も需要が伸びるスキルの首位としてAIとビッグデータを挙げ、コアスキルの39%が2030年までに変化すると述べています。重要度の順位では人間側の力が上に来て、変化の速さではAI側が上に来る。設問が違えば別の順位が出るという、ちょうどその実例です。

ここから「AI研修より人間力に予算を」という読み替えが飛躍になる理由が見えます。「必要」と答えた割合は、その力がどれだけ不足しているかを測っていません。リーダーシップが86.3%で必要とされていても、研修が必要かどうかは現在の能力や業務上の課題も調べなければ分かりません。逆にデジタル・AI活用能力が48.9%でも、半分の経営層が今後必要になると答えているなら、AI活用能力も多くの回答者に重視されていると読めます。必要度と不足度、そして研修で改善できる範囲は別の量です。この設問は必要な能力の回答割合を示しており、予算配分を決めるには不足度や研修による改善可能性も確かめる必要があります。

実務の側の数字も、AI側の力の軽視には向いていません。社内でAIを使える人に仕事が集まり始めている実態は5社に1社で「AIを使える人に仕事が集まる」が始まったで扱いました。必要な能力を尋ねる調査と、仕事の集中を尋ねる調査では測っている内容が異なります。

経営層と一般社員で課題が逆転している

この調査では、必要な力の順位よりも、AI活用の課題を役職別に見た部分が研修設計の手がかりになります。「業務で使用できるツールの制限が厳しい」は経営層15.1%に対して一般社員37.6%、「試行錯誤や失敗を許容する文化がない」は経営層13.7%に対して一般社員26.8%。ところが「AI活用のガイドライン・ルールが未整備」は経営層33.1%に対して一般社員21.0%で、向きが逆になります。

一般社員の回答者数は公表されていないため、一般社員側の参考区間は計算できません。経営層側に先ほどと同じ仮定を置くと、15.1%は9.1〜21.1%、13.7%は8.0〜19.4%、33.1%は25.3〜40.9%になります。ただし、これらはこの調査の精度を保証する区間ではありません。一般社員の人数を仮に100人と置いても、実際の差の不確かさは決められません。ここでは、ツール制限は22.5ポイント、失敗を許容する文化は13.1ポイント、ルール未整備は逆方向に12.1ポイントという回答割合の差として読みます。

この違いを考える仮説の一つは、役割によって気にかかる課題が異なるというものです。ルールを整える立場では未整備が、ルールに従って働く立場では制限が課題として意識される可能性があります。ただし、同じ職場の経営層と一般社員を対応させた比較とは確認できず、役割の違いが回答差の原因だとまではいえません。

研修を設計する際は、対象者の役割と、実際に困っていることを確かめる必要があります。ガイドラインの整備を担う人には、入力してよい情報、出力を根拠として使う範囲、最終責任の所在などを検討する内容が考えられます。利用制限に困っている人には、許可されたツールでできることの確認が先になります。操作研修も、使える環境や運用ルールに合わせて設計する必要があります。

  • 経営層向け:入力してよい情報と使ってよい出力の線引き、責任の置き方、ガイドラインを現場の判断に落とす手順
  • 一般社員向け:許可された範囲の中で何ができるかの見極めと、AIの出力を自分で確かめる手順

後者は操作よりも検証の技術です。もっともらしいけれど中身が薄い成果物が回り始める現象はワークスロップとは?で、AIに任せ続けて自分の技能が落ちていく現象はAIデスキリングとは?で扱いました。どちらも操作を覚えるだけでは避けられず、出てきた数字や文章が妥当かを自分で判断できるかにかかっています。

よくある質問

経営層に必要なのはAIスキルとリーダーシップのどちらですか?

この調査だけでは、どちらの研修を優先すべきかは分かりません。「今後3〜5年で必要になる力」について、リーダーシップは86.3%、デジタル・AI活用能力は48.9%でした。しかし、どちらが不足しているか、研修でどこまで改善できるかは別に調べる必要があります。

n=139の調査結果は信用できますか?

人数だけで調査の信頼性は決まりません。独立した無作為抽出を仮定すれば、139人で割合が80%前後のとき通常の近似区間は約±7ポイント、50%前後なら約±8ポイントです。ただし、この調査はグロービス経営大学院の在学生・卒業生を対象とし、回答は対象者数の約6.2%でした。参考計算では自己選択による偏りを捉えられず、人数を増やすだけで代表性が保証されるわけでもありません。

管理職向けのAI研修では何を教えるべきですか?

この調査は管理職の数値を公表していないため、管理職に限った答えは出せません。経営層と一般社員の課題の出方から言えるのは、ルールを作る立場と使う立場の両方に接している管理職には、線引きの判断とその説明の仕方が必要になりそうだということです。制限の理由を部下に説明でき、現場で出てきた無理をガイドラインの見直しに戻せる人が、この非対称を埋める位置にいます。

経営層の生成AI活用率79.8%は日本企業全体の値ですか?

違います。79.8%は、グロービス経営大学院の在学生・卒業生のうち、調査に回答した経営層139人の値です。独立した無作為抽出を仮定した73.1〜86.5%という参考区間も、日本の経営層一般への代表性を保証しません。一般の利用率と比べてどれだけ高いか、低いかはこの調査だけでは分かりません。

この調査を研修の話に引き寄せるなら、必要な力の順位表ではなく、役職によって課題の見え方が逆を向いた部分のほうが手がかりになります。経営層にはガイドラインと判断、現場には制限の中での見極めと検証。和からでも、AIが出した答えや数字をどう確かめるかを統計の見方とあわせて考える生成AI研修を法人向けに行っています。誰に何を配るかを決めてから中身を選ぶと、研修内容を対象者の課題に合わせやすくなります。

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