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大人向け数学教育実践における新たな数学教育の可能性(2017年「数学教育学会」発表)を公開

公開日

2022年3月22日

更新日

2022年3月22日

堀口です。いつもありがとうございます。

さて、2017年「数学教育学会」春季開催回にて、「大人のための数学教育」について発表させていただいた内容をこちらで無料公開したいと思います。ぜひ教育業界の多くの方の参考にしていただけたら何よりです。

大人向け数学教育実践における新たな数学教育の可能性~ロマンティック数学ナイトという数学エンターティメントの発信~

概要

弊社和から株式会社は大人向け数学教室として設立約7年が立ち、多くの社会人に数学を指導し、現在では東京3教室、大阪1教室と展開、多くのニーズに応えてきた。どんな分野を学び直すのか、どんな層が利用するのか、どんなニーズがあるのか、から見えてきた新しい数学教育の可能性。また、毎回約200名の方が参加する「ロマンティック数学ナイト」というイベントの開催報告、感触とこれからの展望についても言及する。

0.背景

 数学、mathematicsの語源はギリシャ語のマテーマタ(μάθηματα)であり、和訳すれば、「学ばれるべきもの」になると言われている。しかし、本当に数学とは、学ばれるべきものになっているのだろうか。弊社サービスである社会人向け数学教育は、“お金を払って数学を学びにくる社会人ばかりである。という方が多い。お金を払うという負担を負いながらも学ばなければいけない状況にあるという方が通う、つまり、数学が必要で、困っている社会人が多く、これを分析すれば、子供のときに学ぶべきであった数学について答えが見えてくるように思われる。社会人向け数学教育を通して、”学ばれるべきもの”である数学を再考していきたい。

1.社会人向け個別指導における顧客分析

1-1.現状分析

弊社社会人向け数学教室で受講するお客様について特性分析を行った。まずは、2015年度売上におけるお客様の受講目的の割合を円グラフとする。(お客様数=5503)


図1:受講者目的別(売上高)

仕事が目的の場合が全体の4割近くを占め、特に分析業務への活用が多い。多くの方が分析をしたいがために和を利用していることがわかる。資格が目的の場合も、深堀すると結果的に仕事に役立てたいという方が多く、仕事が目的の場合と合わせると5割を超える。大学授業対策、趣味で和を利用する方も多い。趣味関係で学ぶ人の中では、数学的思考を身につけるために和を利用している方もいる。仕事では、分析業務の他に、IT系、製造系、金融系の他、数字に強くなりたい、という理由で学ばれる方もいる。資格では、統計検定、アクチュアリー、電検が人気である。現状、多様な目的で和を利用されていることがわかる。


図2:受講者授業範囲別集計(売上高)

次に、授業範囲についての割合を見る。統計学の割合が全体の4割以上を占める。統計学を学ぶための準備として高校数学を学ぶ場合での範囲を合わせると全体の5割を超える。高校数学は数学の応用における基礎となっているので、統計に次ぐ高いニーズがある。算数、SPI対策等も統計ほどではないが、確かなニーズがある。大学数学では、工学で用いられる数学を中心に解析分野がほとんどである。趣味の方であれば、集合・位相などといった純粋数学も無くはないが、極めて少数である。
今後、目的・範囲共に、分析項目を増やして、さらなる詳しい調査を予定している。

1-2.分析における考慮事項

以上、図1、図2の分析は、弊社の個別指導に通われているお客様の特徴であり、社会人全体における一般的なニーズとは異なることをご了承いただきたい。すなわち、お客様自身が数学を学ぶ必要性を強く意識しており、料金を支払うことができる、または、支払いたいと思える投資対効果の見えるお客様が対象となっている。自学自習出来る方、趣味で学ぶといった比較的ニーズが強くない方は、和の受講者比率よりも遥かに大きいことが予想される。

1-3 分析結果考察

上記の集計結果にお客様からの声を含めて大まかに解釈すれば、社会人の学ぶ目的は以下の4つに分類される。

  • a. ”使える”、”役立つ”としての数学
  • b. 試験・資格としての数学
  • c. 社会人として知っていなければいけない常識の数学
  • d. 趣味として楽しむ数学
  • となる。aについては、言い換えれば専門家としての数学である。数学は、社会の根本的な仕組みの理解や問題解決の道具として役立つ。なぜならば、現代の様々な科学技術を根本から支えているのが数学であり、多くの物理現象は数式として理解することが可能だからである。
    bについては、我々が最も馴染みのある数学である。試験・資格用にカスタマイズされた数学は存在し、それらには、点数を取る最適な戦略というものがそれぞれに存在する。答えを求め、その解が合っているかどうかが重要とされ、意味を理解しなくても問題視しない傾向がある。
    cについて。日本人や国際人が皆持っていることが好ましい、社会人として持っていなければいけない常識として、どのような数学が求められるのであろうか。例えば、足し算やかけ算、割り算、%などの概念がわからない場合、お金の簡単な計算が出来ず、日常生活で大きな支障が出る場合がある。生きる力としての数学が存在する。内容的には、SPI、GAB、GREなどの試験に近い内容が必要とされる。(元々SPI等は社会人として必要なスキルの有無を判定するための試験である。)
    dについて。数学に対してのコンプレックス解消として学ぶ方、社会人になってから数学への重要性に気づき少しずつ学んでいきたいという意欲を持つ方、知的好奇心の追求として高校数学や大学数学を学んでいる方もいる。
    以上の内容については、引用文献[1]の内容を大幅にカットし、まとめた上で掲載している。頁数の都合で大幅に削除した。詳しくは、引用文献をご参考頂きたい。

     

    2.ロマンティック数学ナイトについて

    2-1 ロマ数開催における社会背景

     数学についてとりまくイメージは決して良くはない。数学を嫌いな中学2年生は実に61%であり、約5人に3人は嫌い。これは他国平均である34%を大きく上回る(TIMSS2011)。また、大人になってから大人になってから初めて数学の有用性に気づく社会人はいるが、一度嫌いになってしまえば、「数学なんて二度と学びたくなんてない。しかし、学ばざるを得なくなってしまった。」という声を、お客様から聞くことも少なくない。
     そして、下記図のように、数学は、それを一度嫌いになった人には近寄りがたい雰囲気がある。よりカジュアルに数学の有用性、希望、面白さなどを学ぶ場所はこれまでほとんどなかった。


    図3:数学を学ぶ環境マトリクス

    また、概して、数学をする人は孤独である。数学をする人は研究者や教育者ばかりではなく、一般の方の方が多い。しかし、自分の学んだ数学の感動を語れる友人は、類するコミュニティに所属していなければ見つけるのは難しい。だからこそ、数学の感動や数学ロマンを共有する場、それを聞く人もまた熱狂する場を作った。数学への新しい入り口であるロマンティック数学ナイト(以降、“ロマ数”とする)は、多くの数学ファンを巻き込むことを意図して作っている。

    2-2.ロマ数概要

     ロマ数は、1人5分14秒で数学ロマンや感動、その実用性などをプレゼンするイベントである。発表者は”ロマンティスト”と呼ばれ、10~15名程度順々にプレゼンをしていく。参加者は毎回200~240名ほど参加し、うち、30~40名程度が大学生・院生(修士以下)、10~20名程度が高校生以下である。軽食や飲み物(お酒など)も販売される。

    2-3.ロマ数実施報告

     2016年4月28日に第1回を六本木にて開催した。他、同年8月19日、10月13日、12月24日という形で年内全4回開催され、特に、10月13日がニコニコ生放送と重なり、約3万人の視聴者がいたと思われる。(mathpower35時間生放送が総視聴者数16万人であり、最も視聴される時間の放送であったことからの推定値。)雰囲気のわかる例として、中学生が発表したが、「私は中学1年生で13才です。素数ですね。」この一言で会場が大きく沸いた。
     来年2018年には500名規模のスーパーロマンティック数学ナイトの開催、全国主要都市開催展開予定。本年5月に、大阪でも開催する。

    3.これからの数学教育への提言に向けて

     前述として、数学に対して4つの分類分けを行ったが、改めて、”誰のため”の学ぶべき数学かをきちんと定義した上で、数学教育のこれからを新しく提案していきたい。現状、教育現場で教えられているものについてはbが中心であり、社会構造上もそうである必要がある。a,c,dのそれぞれの数学についての有用性とメリットデメリットを深く考察していくことでこれからへの提言としたい。(項数制限があり十分な記載ができなかったため、またの機会に改めて各内容への報告を重ねたい。)

    引用文献

    [1] 堀口智之:「社会人向けの数学教育からみるこれからの数学教育~”常識としての数学”教育ver.~」,『科研報告書』水町龍一編著,2017

    参考

    数学教育学会

     

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    <文/堀口智之>

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