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微分トポロジー入門-高次元の世界を感じる-

公開日

2021年3月2日

更新日

2021年3月2日

※本記事はロマ数トレラン「微分トポロジー入門-高次元の世界を感じる-」の講師である佐々木和美先生による微分トポロジーの入門の記事になります。ご興味を持った方は是非ゼミにご参加ください。ガイダンス回は無料となっております。

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微分トポロジー

 数学の分野には大きく分けて、解析(微積分や関数)、幾何(図形や空間)、代数(方程式や群)とありますが、トポロジーは「位相幾何」とも言い、幾何学の仲間で「空間全体の大域的な様子」を研究します。そのための道具としては、解析、代数、幾何など何でも使います。

トポロジーで研究の対象としている空間を「位相空間」と言い、中でも、どこもかしこも局所的にはユークリッド空間(平面や\(3\)次元空間など)と同じ、つまり「普通」に見える位相空間を「多様体」と言います。「多様体」のうち、「つながり方」だけに注目する「位相多様体」に対して「無限回微分可能な程度の滑らかさ」を要求するのが「滑らかな多様体(可微分多様体とも)」です。よって、滑らかな多様体には尖った角などは一切なく、どこでも通常の座標空間と同様に微分や積分の計算ができます。至る所ギザギザかもしれないような位相多様体に比べ、より現実味があり物理学や工学等での応用上もよく出現します。

微分トポロジー」とは、このような「滑らかな多様体」を調べる数学の分野です。

球面の裏返し

微分トポロジーでは、2つの滑らかな多様体の間に「微分同相写像(滑らかさを壊さないようにそっと移す写像)」があるとき、「つながり方も滑らかさも同じ」という意味で同型とみなします。ですから、微分トポロジーでの「変形」は、単につながりを保っていればよいだけではなく、「途中で折り曲げたりせず、滑らかさを保って」行う必要があります。

このことの意味は、平面内の円周を、平面から持ち上げずに、逆向きにするには、少なくとも1か所を必ず折り曲げなければならない、ということを考えてみるとわかるかもしれません。(向きの異なる2つの円周は\(2\)次元空間内の滑らかなはめ込みの変形でつながらない、ということ)。

一方、球面は\(3\)次元空間内で一切折り曲げずに裏返すことができます!

エキゾチック球面

\(3\)次元以下では、各位相多様体(の同型類)の「滑らかさ加減」というのはそれぞれ1つずつしかないのですが、\(4\)次元以上ではそうとも限りません。例えば\(7\)次元には、\(7\)次元球面\(S^7\)に位相同型だけれども微分同相ではない多様体が28種類も(!)あることが、1956年以降ミルナーらによって発見されました。これらの通常と異なる滑らかさを持つ高次元球面は「エキゾチック球面」と呼ばれています。ちなみに、各次元の球面の可微分構造は、以下の表のようになっています。(「球面」と言っていますが、実際には各次元の広さ(自由度)を持つ、境界のない閉じた空間のことを指しています)
https://en.wikipedia.org/wiki/Exotic_sphere 

球面の次元 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
滑らかさの種類 1 1 1 ? 1 1 28 2 8 6 992 1

\(4\)次元は特別?

また、\(4\)次元座標空間(\(R^4\))には通常と異なる滑らかさの構造が連続的にたくさんある(エキゾチック\(R^4\))ことがフリードマン、タウベスらにより証明されています。これは\(n=4\)だけの特性で、\(n\neq 4\)では\(R^n\)の滑らかさは通常の1通りしかありません。(\(R^n\)とは、\(n\)次元の自由度を持つ、閉じておらず境界もない空間をイメージしてください)
「参考)エキゾチック\(R^4\)(wikipedia)」

このように\(4\)次元空間は何か特別、謎めいています。これは私たちの住む時空が、空間\(3\)次元、時間\(1\)次元の\(4\)次元であることと関係があるのでしょうか。でも超弦理論によれば、本当の世界は\(10\)次元や\(11\)次元なんだとか。隠れた\(7\)次元はエキゾチックなのかも、などと想像は膨らみます。ちなみにトポロジーでは高次元とは\(5\)次元以上を指し、\(4\)次元の世界は「低次元」のうちに入ります。

3つのカテゴリー

トポロジーには、TOP(位相多様体)PL(組み合わせ多様体)DIFF(可微分多様体)の3つのカテゴリーがあり、それぞれのカテゴリーごとに多様体を分類することを目標のひとつとしています。さらにそれらの下に「ホモトピー論」というカテゴリーがあります。その観点で「一般化」ポアンカレ予想を言い換えると、「ホモトピー型が\(n\)次元球面と同相(PL同相、微分同相)な\(n\)次元閉多様体は、\(n\)次元球面に同相(PL同相、微分同相)か?」となります。ポアンカレ予想はペレリマンによって最終的にすべて解決された、と言われていますが、実はこれはTOP(位相)カテゴリーの話で、2021年現在でも唯一、\(4\)次元のDIFF(微分)カテゴリーのみが未解決で残っています。つまり、滑らかで単連結な\(4\)次元閉多様体があったとき、それは必ず通常の\(4\)次元球面\(S^4\)に同相(位相同型)になることは分かっているが、微分同相か(滑らかさを保つ写像か)どうかはわからない、ということなのです。
「参考)Generalized Poincaré conjecture(wikipedia)」 

使用テキストについて

微分トポロジーの業績により1962年にフィールズ賞を受賞したミルナーがヴァージニア大学で学生向けに行なった講義をもとに著したのが1965年初版の名著「Topology from the Differentiable Viewpoint」(邦訳書は「微分トポロジー講義」(丸善出版)

わずか65頁に当時の最先端がぎゅっと詰まっている名著で、原文はシカゴ大学のウェブサイトにも掲載されています。
https://math.uchicago.edu/~may/REU2017/MilnorDiff.pdf

この本に触発されて書かれた教科書が、V.Guillemanと A.Pollackの「Differential Topology」です。ストークスの定理やガウスボンネの定理を含む第4章を追加し、演習問題を加えてより分かりやすいものになっています。ロマ数トレラン「微分トポロジー入門-高次元の世界を感じる-」では、その邦訳書「微分位相幾何学」(現代数学社)を教科書として使用し、微分トポロジーの基礎を学びます。

本テキストでは、滑らかな多様体を、交差理論とホモトピー(つまり摂動)を用いて調べます。交差理論では、例えば、\(3\)次元空間内の平面と直線は一般に「横断的に」交わる、などと考えます。ちなみに、空間内の2直線の交わりは横断的ではありません。「横断的」とは、少し動かしても変わらない安定した性質なのです。この交差理論を用いて、なんと、通常は基本群や(コ)ホモロジー論などの代数的トポロジーをしっかり学んでからでないと教わらないような、様々な大定理を証明できてしまいます。

<使用テキストで証明している定理>
Sardの定理、Whitneyの埋め込み定理、代数学の基本定理、Jordan-Brouwerの分離定理、Borsuk-Ulamの定理、Lefschetzの不動点定理、Poincare-Hopfの定理、Hopf の写像度定理、Euler標数と三角形分割の関係、Stokesの定理、Gauss-Bonnetの定理、1次元多様体の分類定理

各定理の内容についてはwikipedia等で調べてみてください。

参考動画

数学を創る-数学者達の挑戦(東京大学学術俯瞰講義)2009年度
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/course_11323/ 
↑ 第10回~第12回で幾何学やトポロジーを解説しています。

①次元(数学の散歩道)第1章~第9章
http://www.dimensions-math.org/Dim_JP.htm 

②カオス(数学的冒険)第1章~第9章
https://www.chaos-math.org/ja.html 

①②とも、日本語版吹き替えと字幕があります。

<文/佐々木和美>

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