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社会人向け数学教室における統計学学習での具体的なニーズ(2019年「数学教育学会」春季年会発表)を公開

公開日

2022年4月7日

更新日

2022年4月7日

堀口です。いつもありがとうございます。

さて、2019年「数学教育学会」春季開催回にて、「大人向けの統計学教育」について発表させていただいた内容をこちらで無料公開したいと思います。ぜひ教育業界の多くの方の参考にしていただけたら何よりです。

社会人向け数学教室における統計学学習での具体的なニーズ

概要

社会人の方が「統計学」を求めているという一般的な意見は世の中に溢れているが、具体的にどんなニーズがあり、どんな場面で求められるかを記述された例は多くない。子供向けの統計学学習においても、「大人になったらどんな統計学が求められるか。」でそもそも語られるべきであり、特に目的重視で学ぶ社会人からすれば効率の悪い学びとなっているかもしれない。今回は、お客様の統計学やデータ分析におけるニーズを具体的に記載する。

1.はじめに

弊社和から株式会社は社会人向け数学教室として、設立から約8年、多くの社会人に数学を指導し、現在では東京4教室、大阪1教室を展開、幅広い年齢層に対し多様な数学(大学数学を含む)ニーズに応えてきた。子供向け学習塾と大きく違い、受験のための数学教育を行う組織ではなく、人や社会に対する数学の在り方を探求し、最先端の数学を社会に発信する「ロマンティック数学ナイト」などのイベント活動なども行っている。
今回は、弊社で運営する「大人のための数学教室和(なごみ)」という社会人向け個別授業教室に通う社会人の「統計学」のニーズを具体的に記述することで、「どんな統計学が会社や社会から求められているか」「どんな風に統計学を学ぶことを求めているのか。」という視点を考察するための材料を提供する。
参考までに、弊社で行っている統計学の集団向けセミナーにおいて受講対象を変えたことによる売上の変化も考察する。

2.お客様個別ニーズ選定基準

具体的なお客様をこれから8名記載するが、その選定基準として、2017年4月1日~4月11日に弊社での個別指導の体験授業を行った方を対象とし、4月~学び始める方のみ選定した。その中よりさらに具体的な個別ニーズをヒアリングできた肩を設定し、十分にヒアリングできなかったお客様については対象外とした。また、お客様の個人が特定しうる情報についても掲載しないよう削除している。

3.お客様8名の具体的ニーズ

以上、図1、図2の分析は、弊社の個別指導に通われているお客様の特徴であり、社会人全体における一般的なニーズとは異なることをご了承いただきたい。すなわち、お客様自身が数学を学ぶ必要性を強く意識しており、料金を支払うことができる、または、支払いたいと思える投資対効果の見えるお客様が対象となっている。自学自習出来る方、趣味で学ぶといった比較的ニーズが強くない方は、和の受講者比率よりも遥かに大きいことが予想される。

3.お客様8名の具体的ニーズ

M様・・・50代女性。

製薬会社でマーケティング業務に従事。統計学を用いて売上予測などを行っている。しかし、前任者が使用していたExcel内の数式について意味を理解しないまま用いているため、正しい数値を出せているのかよくわからない。自分で一から予測できるように基礎から学びたいと思い、体験授業を受講。
【数学のレベル】中学くらいまで数学の成績は比較的よかったが、大人になってから使う機会がなかったため、ルートの計算など忘れている。高校の授業はほとんど記憶にない。微積や統計は未履修。簡単な統計の書籍(マンガ)を読んだことはあるが、きちんと理解はできていない。
【今後の目標】夏くらいまでに既存薬の売上予測をしなければならない。

T様・・・30代男性。会社員(営業)。

商品の在庫管理や売上管理の業務において、Excelを用いて投資判断の指標となる「IRR」(内部収益率)などの数値を出している。今後統計学を用いてさらに分析を進めていきたいが、部署内に統計を学習している人はおらず、現段階では誰も統計を業務活用していない。
【数学のレベル】高校では文系で数ⅡBまで履修したことがあるが、確率、数列、微積などの内容は覚えていない。数学自体は嫌いではない。統計学の履修経験はない。
【今後の目標】自分でしっかりデータを扱えるようになりたい。そのために数学的な知識及び統計学を学習したい。今後転職することも視野に、統計学に関連する資格を何か取得したい。まずは11月の統計検定2級受験を目標にする。

S様・・・20代女性。ECサイトの分析推進担当。

B to C 型の●●販売サイトとB to B 型の●●販売サイトを運営する会社に勤務。従業員200人規模の企業。会社としてデータ分析は行ってきていなかったが、今後データ分析部門を立ち上げる方向になりその責任者の1人に。これまで、企画や営業支援の業務を行った際には、データの集計およびクロス分析は行ってきたものの本格的な分析についてはわからない。「Rを使いたい」という意見が社内で出ているが、社内に誰も詳しい人がいない。
【数学のレベル】不明。
【今後の目標】どんな分析をしたいのか具体的な統計分析の目的を決め、その後必要な統計手法から学んでいく。個人ではなく、会社支払いにて受講。

K様・・・30代女性。会社員。

「SAS」(統計解析ソフト)を用いてお客様の依頼に合わせて資料を作成・提案している。重回帰分析はよく行っている。周りの同僚は統計ができる人ばかりだが、自分はあまりできない。周りに基礎から聞けるような雰囲気ではない。会社からプレッシャーを与えられているわけではないが、統計検定2級程度の内容は理解していないと将来まずいと感じている。前年11月に統計検定2級を受験したが不合格。その結果を受けてその後独学で勉強を開始したが、一人では理解できない箇所も多く困っていた。
【数学のレベル】数学ⅡBまでは履修したがその後は数学と関わってこなかった。忘れている部分も多く、統計検定の問題の理解ができないのは数学知識が少ないからではないかと思っている。統計学については、確率分布や推定、仮説検定のあたりが理解できていない。
【今後の目標】6月の統計検定2級合格に向けて対策。苦手な確率分布や推定などを重視して勉強する。高校数学の必要箇所の学び直しも実施。

I様・・・30代女性。会社員。マネージャ職。某大学博士課程にも在籍。

学会誌投稿論文や博士論文作成におけるサポートを希望。統計学や計量経済学については学習経験があるが、実際に研究・実務分析での経験はなく、論文で用いられる統計学の手法の妥当性をチェックしてほしい。
【数学のレベル】不明。
【今後の目標】まずは、統計学の基本的な考え方、理解を確認し、必要な手法を適宜学ぶ。

H様・・・40代男性。会社員。

機械学習を学ぶための大学数学(線形、微積など)や統計学の授業を希望。画像処理・画像認識に関する職に従事しており、機械学習のより深い理解を必要としている。
【数学のレベル】大学の理系学部を卒業し、線形代数、微積、統計学は一通り履修したが、社会人になってからは特に使っておらず、忘れている部分も多い。機械学習については、業務を行いながら書籍も読んでいるが、数学的な基礎知識が抜けていることもあり読み進めることが難しい。
【今後の目標】まずは機械学習の数学的な部分を完全に理解できるようになりたい。具体的な数学の式について、実際にどういう場面で使われているのか、何のために学ぶかを解説希望。

HYさん・・・50代男性。高校教員(英語)。

いずれ生徒の英語の成績を統計的に分析したい。元々趣味で数学や物理に関する本をよく読み、統計学にも興味が湧いた。
【数学のレベル】高校数学は学んでいたが、成績はあまりよくなかった。基本的に数学とは縁がなく、忘れている。統計学については未履修。
【今後の目標】数学から始めるとモチベーションの維持が難しいと予想。まずはすぐに実務に役立つ統計を勉強しようと思っている。仕事での活用を優先的に、統計学に必要となる数学も平行して学ぶことを希望。統計の全体像や可能性、統計に必要な数学や統計的なものの考え方の解説も希望。

KT様・・・30代男性。病院勤務(歯科)。

「診療情報管理士」の試験に必要な統計の知識を身につけたい。資格取得後は、統計の知識を業務にも活かしていきたい。
【数学のレベル】算数からわかっていない可能性がある。分数や小数に難しさを感じる。ルートやシグマを用いた計算もわかっていない。
【今後の目標】まずは算数からしっかり学んでいきたい。再来年試験を受ける予定。

4.弊社カリキュラム

弊社では、2012年より「統計学超入門セミナー」や「医療統計講座」など統計学が学べる集団セミナーを開始し、統計学やデータ分析における基礎から業務活用、論文執筆におけるアドバイスなど多様なニーズに答えてきた。その中で、お客様のニーズには、数学から学ぶことを希望する場合と、そうでない場合があることがわかった。

  • a.統計学の数学的な知識を求める方
  • b.数学的な知識を必要とせず活用だけしたい方
  •  
    aの方が求めることについて。「表面的な知識ではなく、きちんと理解したい。」「人に説明できるくらい自分も理解した。」「数学が比較的得意。」「数式から論理的に学ぶことの方が得意。」「統計学の書籍を自学自習するために数式を学びたい。」といった理由で統計学を数学的に学ぶことを求めている。
    bのような方については、「もうデータはある。●●分析をしたい。」「すぐに結果を出したい。」「●●日までに提出しなければいけない。」「イメージだけ理解したい。」「数学は苦手なので使えればいい。」という理由で学ぶ傾向がある。aの方よりも比較的文系出身者が多く、中には数字の扱い方、比・割合の考え方ですら習得していない方も少なくない。
    実は2017年まで弊社統計セミナーは、aの方を対象に統計学の集団セミナーを行ってきたが、「数式が難しい。」「すぐに役立たない。」という声も頂いていたことから、2018年より大幅に内容を変更。bの方を対象に統計学のセミナーを組み直したところ、売上の平均が4倍以上(※)になった。特に「統計入門~目で見てわかるビジネス統計学Excel実践編」セミナーが人気で、数式はほとんど用いず、確率、推定、検定、重回帰モデルまでをExcelを用いて実践的に学ぶことができるセミナーである。また、BtoB向けの統計学セミナーとしてはbの方を対象にした方が人気が高い。(※料金体系や告知体制も異なるため、単純に比較はできないが、あくまで参考値。)

    5.まとめ

    今回は、社会人の「統計学」学習における具体的なニーズについて記載した。このように具体ニーズから見ていくことで、様々な視点が手に入るであろう。統計学教育において何が大切なのかは一言でまとめきれるようなものではない。しかし、これまで長年社会人に教えてきた経験からすれば、多くの人がより受け入られるのは、前述bのような数式から学ぶのではなく、まずは統計学の用語や分析手法に関して具体的なイメージを持ち、実践していく方であるように思う。
    今後も改めてこれらのニーズに対する分析を継続して行っていきたい。

    引用文献

    [1] Tomoyuki Horiguchi, Trends and considerations on the college level mathematics needs at one-to-one mathematics tutoring centers for adults, Proceedings of the International Workshop on Mathematics Education for Non-Mathematics Students Developing Advanced Mathematical Literacy, 129-132, 2018.

    参考

    数学教育学会

     

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    <文/堀口智之>

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