微分トポロジー入門-高次元の世界を感じる-
公開日
2021年8月8日
更新日
2021年8月8日
高次元の世界は目に見えないため、実際に長さを計ったりして調べることはできません。そこで、逆関数定理、モース関数、サードの定理などを用いると、見えない空間を「輪切り」にして調べることができます。
また、接空間や接バンドルを考えることにより、有名な「ホイットニーの埋め込み定理」を少し弱い形で証明します。さらに通常はホモロジー論を用いて証明する「2次元実射影平面が3次元空間には埋め込めない」ことの証明を交差理論を用いて行い、この結果を用いて「The Inscribed Rectangle Problem(隠れ長方形問題、詳細はhttps://wakara.co.jp/mathlog/20200809-2)」という具体的な問題を解決します。
多様体(ここでは「世界」と表現)のn次元空間への「埋め込み」とは、わかりやすく言うと、「n次元空間内にもとの形を壊さずに世界全体を実現する」ことです。一方「はめ込み」とは自己交叉があったりして、少し姿が変わってしまうような実現のしかたを指します。
「ホイットニーの埋め込み定理」とは、「どんな世界でも、2倍の次元の真っ直ぐな空間の中に埋め込める」という定理で、Whitneyはこのことを有名な「ホイットニーの手品」の手法を用いて証明しました。
上図のように、「1次元の世界」のひとつである円周は2次元平面には「埋め込み」できますが、1次元の直線内に入れると必ずつぶれてしまいます。また、クラインの壺(これは「2次元の世界」のひとつ)は3次元空間内ではどうしても自己交叉ができてしまいますが、2×2=4の4次元以上の空間であれば、自己交叉のない形で実現できる(はず)、ということになります。つまり我々の想像力をあと1次元だけ広げることができればクラインの壺の本来の姿を見ることができるのですね。
2次元実射影平面(cross cap)も非常にイメージしにくい代物ですが、4次元空間の中であれば本来の自己交叉のない姿が実現できるとわかります。ホイットニーの定理は任意の次元数nに対してこのようなことが成り立つ、つまりn次元の多様体は2n次元のユークリッド空間に必ず埋め込める、ということを保証してくれます。授業ではこの少し弱い形(2n+1次元への埋め込み)について、Sardの定理と接バンドルの理論を用いた別証明を与えます。
さらに、2n次元の最小性を示す例として、2次元の実射影平面が2×2−1=3次元空間には絶対に「埋め込めない」つまり自己交叉を解消できないことを交差理論によって証明したいと思います。数学では「何かが絶対にできない」ことの証明は大変難しいもので、「もしできたとしたら矛盾が起きる」という背理法に持ち込むしかありません。その矛盾を示すために「交点数の偶奇」を調べます。
テキストの第2章以降には、このような「交差理論」により、通常は(コ)ホモロジー論などの大掛かりな体系を学んでからでないとお目にかかれない様々な大定理の証明が載っています。時間の関係上、今回のトレランでは第1章までしか扱えませんが、その有用性の片鱗だけでもお見せしたいと思います。また、「埋め込めない」という結果の応用例として、「The Inscribed Rectangle Problem」を取り上げます。
大学院レベルの内容ですが、演習問題を実際に解きながら読み進め、高次元の世界を感じていきましょう。
受講内容
V.Guillemin /A.Pollack の「微分位相幾何学」の第一章、「多様体の基礎」付録Bを解説します。
※内容はお客様のご要望等によって変更することがあります。
受講対象
1.偏微分、重積分、ベクトル、行列と行列式、線形空間、開集合、連結、コンパクト、写像、全単射、直積などについて学んだことがある方
2.高次元の世界や、厳密な証明に興味のある方
3.実際に手を動かして問題を解く努力のできる方
必要な数学知識
モデルプラン
・多様体、滑らか、微分同相写像、助変数化(パラメトリゼーション)、座標関数、部分多様体、立体射影、積写像、対角集合、グラフ
・連鎖律、可換図式、接空間、接ベクトル、曲線、速度ベクトル
・逆関数定理、はめ込み、固有写像、埋め込み
・しずめ込み、逆像、正則値、逆像定理、臨界値、(関数の)独立、余次元、レコードの積み重ね定理
・横断的、レフシェッツ不動点、レフシェッツ写像
・ホモトープ、ホモトピー、ホモトピー類、安定的、安定類、安定性定理、弧状連結、可縮、単連結
・Sardの定理、測度零、非退化臨界点、Morseの補題、Morse関数
・導関数写像、1の分割、Whitneyの埋め込み定理、ベクトル場、切断、零点
・実射影平面RP^2が3次元空間R^3に埋め込めないこと、「The Inscribed Rectangle Problem」