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日本における統計学の歴史:第3回-宗門人別改帳と人口データのはじまり

公開日

2025年11月25日

更新日

2025年11月20日

はじめに:日本の人口データ運用が本格化した瞬間

前回は、豊臣秀吉の「太閤検地」を取り上げ、日本史における“データ標準化”の革命を見てきました。土地の単位や記録フォーマットを全国統一したことで、国家運営の効率性と公平性が一気に高まりました。現代で言えば、企業全体でデータ定義を統一する「データマネジメント改革」のような動きでした。

第3回となる今回は、江戸時代に突入し、日本の人口データが大きく進化する「宗門人別改帳(しゅうもんにんべつあらためちょう)」を扱います。これは、現代にたとえるならCRM(顧客台帳)+住民基本台帳のような役割を果たした制度で、日本の人口統計の源流といえる存在です。

宗門人別改帳は、単なる宗教管理の帳簿ではなく、「人のデータ」を体系的に収集し、更新し、運用する仕組みでした。本編では、その仕組みと運用の特徴をビジネス視点で読み解きます。



宗門人別改帳とは何か?:江戸社会を支えた“人口のデータベース”

宗門人別改帳は、江戸幕府がキリスト教を禁じる政策の一環として導入した人口台帳です。しかし、その本質は宗教管理に留まらず、地域の人口・家族構成・移動・出生・死亡などを把握する「国勢調査的」役割を果たしていました。

記録された主な項目は次の通りです。

● 氏名
● 年齢
● 家族構成
● 本籍・居住地
● 職業
● 移動の履歴
● 宗門(宗派)

現代の企業でいえば、顧客・会員・従業員のデータベースに近い構造といえます。

図1:宗門人別改帳の模式図(イメージ)


江戸時代の“データ更新”文化:毎年の改帳が示す運用の本質

宗門人別改帳の最大の特徴は、毎年更新されたこと(年改/としあらため)です。

この年次更新は、現代のデータマネジメントにも通じる非常に重要な点です。具体的には:

・定期更新があるから、データは鮮度を保てる
・更新プロセスに沿って人の異動・出生・死亡が記録される
・属人的ではなく、手順化された運用ルールが存在した

現代企業でよくある、
「顧客データが最新化されていない」「部署ごとにバラバラで、データの鮮度が低い」
といった問題に、江戸幕府はすでに“組織的な更新フロー”で対処していたのです。


移動情報の記録:現代の「ID管理」に通じる概念

宗門人別改帳には、人が移動した際の履歴も記録されました。

● 転居の情報
● 奉公(仕事)の開始・終了
● 旅行・出稼ぎの許可や履歴

これは現在の「ID管理」に非常に似ています。例えば:

・CRMでの顧客ステータス管理
・従業員IDに紐づく配置転換や歴任情報
・会員システムでの住所変更管理

江戸時代の宗門人別改帳は、こうした「人の属性と動きを一元的に管理する」という発想の原点でした。

図2:江戸の人口台帳運用のフロー


“名寄せ”の概念は江戸にすでに存在していた

現代のデータ管理で重要なプロセスのひとつに名寄せ(同一人物のデータ統合)があります。

江戸時代も、
・同姓同名の区別
・世帯の統廃合
・婚姻・養子縁組による変更
などが頻繁に起こるため、宗門人別改帳では整理・統合が必須でした。

つまり江戸時代にはすでに、
「誰が誰であるか」を正確に識別する作業=ID管理の原型
が存在していたのです。


ビジネスパーソンへの示唆:人口データ運用から学べる3つのポイント

① データは“定期更新”が命

更新されないデータは腐ります。江戸幕府の年次改帳は、データ鮮度を保つ運用モデルの見本です。顧客データ・人事データ・会員データなども、更新サイクルと担当を明確にすることで、はじめて価値を生み出します。

② 属性情報と履歴情報のセット管理

宗門人別改帳は、属性(年齢・家族構成など)と履歴(移動・奉公など)を一元化して管理していました。これは現代のCRM・HRMでも欠かせない考え方です。属性だけ、履歴だけではなく、「誰がどう変化してきたか」をセットで管理することが、精度の高い分析につながります。

③ 現場レベルでの協力がデータ品質を高める

江戸時代は、寺・村・役所が連携して台帳を作成しました。これは、現場の協力がなければ組織データは整わないという原則と同じです。現代企業でも、現場を巻き込まずにデータ整備だけを情報システム部が進めても、実務に根付かない“絵に描いた餅”になりがちです。



次回予告

次回は、明治維新後に成立する近代統計制度の基盤──「統計院の誕生」と「日本初の本格的国勢調査」について解説します。ここから日本の統計は、国際基準へと接続し始めます。ぜひ続きもお読みください。

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