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「タンジェント」の不思議な等式とその証明②

公開日

2025年6月29日

更新日

2025年6月23日

こんにちは!和からの数学講師岡本です。今回は、前回に引き続き「タンジェントの不思議な等式」の証明を、複素数を使った方法で解説していきます。代数的な美しさと幾何的な深みが融合したテーマです。ぜひ最後までお楽しみください!

1.タンジェントの不思議な等式(復習)

まずは目標となる不思議な等式を復習しましょう。

3つの角 \(\alpha+\beta+\gamma=\pi\) のとき、次の関係が成り立ちます:

\begin{align*}
\tan \alpha \tan \beta \tan \gamma = \tan \alpha + \tan \beta + \tan \gamma
\end{align*}

前回は加法定理を使ってこの等式を証明しましたが、今回は複素数とオイラーの公式を用いて別視点からの証明に挑戦します。

2.複素数と回転

複素数とは、2つの実数 \(x, y\) を使って \(z = x + iy\) と表される数です。ここで \(i = \sqrt{-1}\) は虚数単位と呼ばれます。複素数は平面上の点(座標)と対応させて扱うことができ、この平面を「複素数平面」と呼びます。

平面上の点を極座標で表すと、原点から角度 \(\theta\)、距離 \(r\) の位置にある点は \((r\cos \theta, r\sin \theta)\) であり、複素数では

\begin{align*}
z = r(\cos \theta + i\sin \theta)
\end{align*}

と書けます。複素数の積に着目すると、たとえば

\begin{align*}
(\cos \alpha + i\sin \alpha)(\cos \beta + i\sin \beta) = \cos(\alpha+\beta) + i\sin(\alpha+\beta)
\end{align*}

となり、「角度の加法」が「積」に変換されることがわかります。この構造が、指数法則とよく似ている点にも注目です。

3.オイラーの公式

18世紀の天才数学者レオンハルト・オイラーは、三角関数と指数関数の関係を次のように表現しました:

\begin{align*}
\cos \theta + i\sin \theta = e^{i\theta}
\end{align*}

この美しい公式により、複素数は次のようにも書けます:

\begin{align*}
z = re^{i\theta}
\end{align*}

この表現は複素解析などで非常に重要な役割を果たします。また、\(\theta = \pi\) とすると、

\begin{align*}
e^{i\pi} = -1
\end{align*}

という、\(e, \pi, i, 1\) といった基本的な数学定数をつなぐ象徴的な等式が得られます。これは小川洋子さんの小説『博士の愛した数式』など多くの作品でも登場し、数の世界のつながりを感じさせてくれます。

4.オイラーの公式を用いた不思議な等式の証明

それではいよいよ証明です。仮定より、\(\alpha + \beta + \gamma = \pi\) なので、

\begin{align*}
e^{i\alpha} e^{i\beta} e^{i\gamma} = e^{i(\alpha + \beta + \gamma)} = e^{i\pi} = -1
\end{align*}

左辺はオイラーの公式より、

\begin{align*}
(\cos \alpha + i\sin \alpha)(\cos \beta + i\sin \beta)(\cos \gamma + i\sin \gamma)
\end{align*}

と展開できます。これを掛け合わせて虚部を取り出すと:

\begin{align*}
i(\sin\alpha \cos \beta \cos\gamma + \cos\alpha \sin \beta \cos\gamma + \cos\alpha \cos \beta \sin\gamma – \sin\alpha \sin \beta \sin\gamma)
\end{align*}

が得られます。全体が \(-1\) という実数であることから、虚部は 0 となる必要があり、この式が 0 に等しいことがわかります。これを \(\cos\alpha \cos\beta \cos\gamma\) で割ると、

\begin{align*}
\tan \alpha + \tan \beta + \tan \gamma = \tan \alpha \tan \beta \tan \gamma
\end{align*}

という、まさに目標の等式が得られます。複素数を用いて見事に証明することができました!

5.さいごに

今回の証明では、オイラーの公式の持つ美しさと力強さを体感できたのではないでしょうか。ひとつの等式を、異なる視点から証明することで、数学の奥深さと多面性に触れることができます。ぜひ、他の三角関数の関係式についても、さまざまな証明方法を試してみてください!

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<文 / 岡本健太郎>

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