【数学偉人伝】世紀の天才数学者ペレルマンの驚くべき人生
公開日
2025年6月4日
更新日
2025年5月28日

みなさんこんにちは。和からの数学講師の伊藤です。今日は、数学界でもとっても珍しい天才数学者のお話をしたいと思います。名前はグレゴリー・ペレルマン。100年以上も誰も解けなかった超難問を解いておきながら、なんと1億円の賞金を辞退してしまった…そんな信じられない数学者になります。
この記事の主な内容
1.天才の誕生〜幼少期から数学オリンピックまで
ペレルマンは1966年、当時のソビエト連邦(現在のロシア)のレニングラードで生まれました。お父さんは電気技師、お母さんは数学の先生で、小さい頃から、お母さんによる特別な数学教育を受けていたペレルマン少年。お父さんもチェスを通じて論理的思考を鍛えてくれたと言われています。
ペレルマンの幼少期については様々なエピソードが語り継がれており、その中には「イエス・キリストが水の上を歩くには、どのくらいの速度が必要か?」という問題に真剣に取り組んだという興味深い逸話もあります。普通の子どもなら「神様だから」で終わらせるところを、真面目に物理的に計算しようとするあたり…もう普通じゃないですよね。
彼は16歳で国際数学オリンピックにソ連代表として出場し、満点で金メダルを獲得。当時としては史上最年少での快挙でした。この成績のおかげで、大学受験なしでサンクトペテルブルク大学に入学できたそうです。
2.アメリカでの武者修行〜「ソウル予想」との出会い
大学を卒業したペレルマンは、1992年にアメリカに渡ります。ニューヨーク州立大学やカリフォルニア大学バークレー校といった超一流大学で研究を始めました。
ここで彼が成し遂げたのが「ソウル予想」という難問の解決です。この証明論文は驚くほど簡潔で、普通の数学者なら何百ページもかけて書くところを、要点だけをまとめて証明してしまうという、なかなかのミニマリストぶりです。その成果が認められ、アメリカの大学から「うちで教授になりませんか?」というオファーをたくさん受けましたが、彼は全部断ってロシアに帰国してしまいます。すでに「普通の価値観とは違うな」という片鱗が見えていますよね。
3.世紀の難問「ポアンカレ予想」への挑戦
さて、ここからが本当にすごい話です。
ペレルマンが挑んだのは「ポアンカレ予想」という問題。1904年にフランスの数学者ポアンカレが提唱した問題で、簡単に言うと「宇宙の形はどうなっているのか?」という根本的な問いでした。
専門的には「単連結な三次元閉多様体は三次元球面と同相である」と表現されますが…これは読み飛ばしていただいても構いません。ここでは、100年近く誰も完全に解けなかった超難問だったということだけ知っておいてください。このポアンカレ予想は、クレイ数学研究所が「解決した人には100万ドル(約1億円)を差し上げます」と発表しているミレニアム懸賞問題の1つです。まさに超難問ですね。そして現在解決されているミレニアム懸賞問題はただ一つ。それこそが今回紹介するペレルマンが解決したポアンカレ予想です。
2002年から2003年にかけて、ペレルマンはインターネット上に自分の証明を公開します。…が、ここでも驚くべきことが起こりました。それまでの数学者たちは「トポロジー(位相幾何学)」という分野でこの問題に挑戦していたのですが、ペレルマンはまったく違うアプローチを使っています。微分幾何学、リッチ・フロー理論、さらには統計力学の知識を組み合わせて解いてしまったというのです。
あまりの奇想天外の回答に、最初は「何を言っているのかわからない」と思われていた彼の証明でしたが、数年間の検証の結果、「完全に正しい」ということが判明しました。100年の難問が、一人の天才によってあっさりと解けてしまいました。
4.まさかの辞退劇〜「お金も名声もいりません」
ここからが、この物語の最も驚くべき部分です。
2006年、ペレルマンは数学界最高の栄誉である「フィールズ賞」を受賞することになりました。ところが彼は、受賞を辞退してしまったのです。フィールズ賞史上初の出来事でした。そして2010年、ついにクレイ数学研究所から1億円の賞金が授与されることになったのですが…なんと彼はこれも辞退します。
これには世界中が驚いたことは言うまでもありません。なぜ辞退したのか?彼の理由は主に2つでした:
・「リッチ・フロー理論を発見したリチャード・S・ハミルトンという数学者の評価が不十分」(数学界の不公平さへの抗議)
・「お金や名声に興味はない。動物園の動物みたいに展示されたくない」
まさに数学の真理だけを愛し、それ以外は必要としない、純粋な学者の姿がここにありました。
5.現在の生活〜隠遁生活の中で
ポアンカレ予想を解決した後、ペレルマンは数学界から完全に姿を消してしまいました。親しい友人とも連絡を絶ち、「数学の研究も辞めた」と言っているそうです。
現在の生活については、サンクトペテルブルクで隠遁生活を送っているという情報が一般的ですが、具体的な詳細は明らかになっていません。研究所には所属せず、質素な生活をしているとされています。また、様々な憶測や噂が流れており、中にはキノコ狩りが趣味だという話もあります。ただし、どれが本当の話かは正直分かりませんが、彼の先ほどの発言からも、ただ数学を愛し、純粋に楽しんでいた人物であることは間違いないでしょう。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。ペレルマンの物語は、私たちにとっても深い問いを投げかけていると思います。「成功って何だろう?」 「お金や名声より大切なものって?」 「なぜ学ぶのか、なぜ研究するのか?」年収1億円を「いりません」と言える人が実在するなんて、正直、私には理解しがたい部分もあります。しかし「数学の真理だけを純粋に追求したい」という姿勢には、感動を覚えずにはいられません。
そんなわけで、グリゴリー・ペレルマンという独特な価値観を持つ数学者のお話でした。彼は21世紀の数学界のヒーローであり、同時に「変人」でもあります。でも、そんな「普通じゃない」生き方だからこそ、私たちの心に深く残るのではないでしょうか。それでは、また次回のマスログでお会いしましょう!
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<文/伊藤智也>
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