日本における統計学の歴史:第9回-デジタル統計インフラー統計法・統計センター
公開日
2025年12月3日
更新日
2025年11月21日
この記事の主な内容
はじめに:統計“活用”の時代へ
これまでの日本の統計史では、“データを集める”“整理する”“品質を高める”といった基盤づくりが中心でした。しかし21世紀に入り、社会は急速に 「データを誰もが使えるようにする」 方向へと舵を切ります。その象徴が、2007年の 統計法改正(新統計法) と、統計データの提供基盤である 統計センター・e-Stat・jSTAT MAP です。
行政・企業・研究者・市民が“公式データを自走的に使える”環境を整える——これは日本の統計史における重要な転換点です。本稿では、その仕組みと価値をビジネス視点で紐解きます。
1. 統計法(2007):公的統計の信頼性と活用を支える“ルール”
2007年に全面施行された新・統計法は、日本の公的統計にとって画期的な制度改革でした。目的ははっきりしており、
・公的統計の品質向上(基幹統計の明確化)
・ミクロデータの提供制度の整備
・統計の利活用促進と透明性確保
といった、統計“活用時代”に必要なルールを整えることでした。
とくに重要なのが 「基幹統計」 の明確化です。国勢調査など、国の政策判断や社会基盤に不可欠な統計を特別に位置付け、調査方法から公表まで厳格に管理します。これにより、官民が公式データを安心して使える環境が整いました。
また、研究者向けに 匿名ミクロデータ を提供する仕組みが制度化され、統計の二次利用が大きく加速しました。
2. 統計センター(2003〜):データ提供のハブとして
統計センターは2003年に設立された、日本の公的統計の提供基盤を司る専門機関です。役割は次の通りです。
・公的統計のデータベース化・提供管理
・e-Stat、jSTAT MAPの運用
・統計調査のオンライン化支援
それまで省庁ごとにバラバラだった統計情報を一元的に管理することで、利用者が“探しやすく、使いやすい”環境へシフトしました。ビジネスの現場でも、市場分析や需要予測の基礎データとして活用が広がっています。
3. e-Stat(2008本運用):公式データのワンストップサイト
2008年に本運用が開始された e-Stat(政府統計の総合窓口) は、国の統計をオンラインで検索・閲覧できるポータルサイトです。
主な特徴は以下の通りです。
・省庁横断で統計データを検索・取得できる
・統計表をExcel・CSVでダウンロード可能
・API提供によりシステム連携も可能
特定の省庁サイトを巡回する必要がなくなり、市場調査・レポート作成・需要予測のスピードが大幅に向上しました。ビジネス利用者の間では「まずはe-Statを見ろ」という流れが定着しています。
4. jSTAT MAP:地図で“読む”統計データ
jSTAT MAP は、統計センターが提供する地理統計の可視化ツールで、国勢調査などの指標を地図上に重ねて分析できます。
利用すると次の価値が得られます。
・商圏分析(人口・年齢構成・世帯属性の可視化)
・需要予測(地域別の分布特性を把握)
・自治体の政策立案(地域特性の把握)
とくに小売・不動産・自治体政策で広く使われています。地図で“統計を見る”という体験は、意思決定の質を劇的に変える力を持っています。
5. ビジネス視点:データ活用が“自走する環境”に
統計法・統計センター・e-Stat・jSTAT MAPが整備されたことで、次のような変化が起きました。
・必要なデータを自ら探し、加工し、意思決定に使える
・市場分析が高速化(公式データの信頼性が前提になる)
・企業のレポート品質が向上(データ根拠が一元化)
・政策と民間データの連携が進む
データ活用が専門家だけのものではなく、“誰でも手に届くものになった”という点が最も大きな変化です。
6. まとめ:統計は“社会のインフラ”へ
公的統計のデジタル化と提供基盤の整備は、統計を「読む側」から「使う側」へ変える大きな転換でした。
・統計法によるルール整備
・統計センターによるデータ提供の一元化
・e-Statによるアクセス性の向上
・jSTAT MAPによる地理統計の可視化
これらが揃ったことで、統計はビジネス・行政・研究・市民の誰もが使う“社会のインフラ”として機能するようになりました。
次回(第10回)は、統計が未来の意思決定をどう支え、EBPMやSociety 5.0へどのようにつながるのかを展望します。





