意外と知られていないEBPMとは何か?根拠に基づく意思決定の重要性
公開日
2025年12月5日
更新日
2025年11月21日
この記事の主な内容
はじめに:EBPMは行政だけの概念ではない
少し前から、「EBPM(Evidence Based Policy Making)」という言葉を耳にする機会が急速に増えてきています。直訳すると 「証拠に基づく政策立案」 ですが、この概念は決して行政だけのものではありません。むしろビジネスパーソンにとってこそ、本質的な意味を持つ考え方です。
企業でも行政でも、意思決定が迷走する原因の多くは次のような状況にあります。
・判断が“勘”や“経験”に依存している
・データを集めても、活用のプロセスが整っていない
・何を改善したいのかが曖昧なまま進んでしまう
EBPMとは、こうした意思決定の弱点を根本から見直し、「根拠に基づいて判断し、効果を検証する仕組みを組み込む」 ためのアプローチです。本稿では、そもそもEBPMとは何か、なぜ日本で急に叫ばれるようになったのかをビジネス視点で解説します。
1. EBPMとは何ですか?
EBPMとは、政策や施策を“思い込み”や“慣習”ではなく、データ・証拠に基づいて設計・判断するアプローチです。
行政では政策、企業では戦略・企画に相当し、EBPMの考え方は次のようなプロセスで構成されます。
・課題の明確化(何を解決すべきかを定義します)
・現状分析(データで問題の構造を理解します)
・代替案の比較(複数案を根拠に基づいて評価します)
・施策の実行と効果検証(Before/After を定量的に評価します)
一連のプロセスを見ると、これはビジネスの KPIマネジメント、ABテスト、改善のPDCA と非常に近い発想です。つまりEBPMとは、行政版のデータドリブン経営とも言えます。
2. なぜ日本で急に「EBPM」が叫ばれるようになったのか
日本でEBPMが注目されるようになった背景には、いくつかの構造的な変化があります。
(1)人口減少と財政制約の深刻化
人口が減り、税収が縮み続ける中で、“効果の薄い施策を続ける余裕がなくなった” ことが最大の理由です。
これまでは「前例があるから」「以前もやったから」という理由で続けられてきた政策も、財政制約が厳しくなるにつれて、
・本当に効果があるのか
・他により効率的な選択肢はないのか
といった“根拠と説明”が強く求められるようになりました。企業におけるコスト最適化とまったく同じ流れです。
(2)データ基盤が整い、“分析できる時代”になった
2007年の統計法改正、e-Statの整備、RESASの公開、マイナンバー制度など、行政データの利活用環境が大幅に整備されたことも大きな要因です。
以前は「データがないから分析できない」という状態でしたが、今はむしろ「データはあるのに活用しきれていない」という段階に移っています。これにより、EBPMが現実的に実行できる状況が整いました。
(3)政策の“効果が見えない問題”が顕在化した
少子化対策、地方創生、教育施策など、多くの政策が実施されてきましたが、
・何が効いていて、何が効いていないのか
・どの施策が最も費用対効果が高いのか
といった分析が十分に行われていないケースが多く、社会的に問題視されるようになりました。
EBPMは、こうした「効果が見えない政策」を根本から改善するためのアプローチとして注目されています。
3. EBPMがビジネスにも直結する理由
EBPMは行政のためだけの仕組みではありません。むしろビジネスの現場にそのまま応用できます。
(1)意思決定の質が向上します
データに基づいて判断することで、
・思い込みによる誤判断の回避
・感覚ではなく根拠に基づく議論
・施策の精度向上
(2)改善活動のスピードが上がります
施策ごとに効果検証が行われるため、
・何が上手くいっているのか
・何を止めるべきか
が明確になり、改善の回転が圧倒的に速くなります。
(3)組織の透明性が高まります
“根拠を示す文化”が組織に根づくと、責任の所在が曖昧な意思決定が減り、説明責任も強化されます。
4. 日本が抱えるEBPMの課題
日本ではEBPMが注目されているものの、実装に向けてはいくつかの課題があります。
・データ人材が不足している(行政も企業もデータ分析ができる人が足りません)
・組織文化が“前例主義・忖度型”から抜け切れていない
・データ連携・標準化が進んでいない(省庁間・自治体間で仕様が違います)
・行政データのリアルタイム化が遅い(意思決定に必要な速度が出ていません)
EBPMが真に機能するためには、データ基盤だけでなく、文化・人材・制度のアップデートが不可欠です。
まとめ:EBPMは“根拠の時代”を象徴する概念です
EBPMとは「行政向けの難しい概念」ではなく、根拠に基づいて意思決定を行うための普遍的なフレームワークです。
人口減少、財政制約、データ基盤整備といった背景から日本で注目され始めましたが、その本質は極めてビジネス的です。
EBPMを理解することは、ビジネスにおいても次の力を高めます。
・論理的に考える力
・再現性のある判断を行う力
・改善を継続する力
“勘や経験”に頼る時代から、“根拠と検証”に基づいて判断する時代へ。EBPMはその象徴と言える考え方です。





