【数学偉人伝】ルイ・ド・ブロイの数奇な人生と衝撃の発見
公開日
2025年5月30日
更新日
2025年5月28日

みなさんこんにちは。和からの数学講師の伊藤です。今回は「粒子なのに波のフリをしている物質」という、物理学史に残る奇妙で革命的な発見をした物理学者についてお話しします。アインシュタインをも唸らせた大天才の物語をお楽しみください!
この記事の主な内容
1.お城育ちの貴公子が電波技術者に!
ルイ・ド・ブロイは1892年、フランスの由緒正しい貴族の家系に生まれました。ルイ14世に爵位を授けられた名門ブロイ家の子孫で、なんとおじいさんはフランスの首相を二度も務めた方!文字通りの「お城育ちの王子様」です。
最初は家柄に似合わず(?)歴史学を勉強していたド・ブロイですが、17歳年上の兄モーリスの影響で物理学に興味を持ちます。第一次世界大戦中は電波技術者として従軍し、エッフェル塔に配属されていました。戦争が終わると、なんと自宅の実験室(お城の一室ということ…?)で兄と一緒に研究を始めます。
2.粒子のはずなのに、波のフリしてない…?
さて、ここからが本題です。当時の物理学界では、光が「波なの?粒子なの?」という大論争が起きていました。アインシュタインが光を単なる波ではなく粒子(光量子)としての性質も持っていると考え、光電効果を説明した頃。ド・ブロイは逆転の発想をします。
「光が粒子のように振る舞えるなら、電子のような粒子も波のように振る舞えるんじゃないか?」
これが彼の革命的なアイデア「物質波」理論です。現代の物理学者からすれば「そりゃそうだよね」と考えられているのかもしれませんが、当時としては「王子様、お城で何かあったの?」レベルの斬新な発想でした。
それまでの物理学では、「波は波、粒子は粒子」と明確に区別されていました。それが「すべての物質には波の性質がある」と言い出したわけですから、まさに常識破りです。
3.数式で説明すると…(私もよく分かってない)
ド・ブロイは、当時知られていた2つの基本的な式を手がかりに、物質波のアイデアを着想しました。
1.プランクの量子仮説:E = hν(エネルギー=プランク定数×振動数)
2.アインシュタインの式:E = mc²(エネルギー=質量×光速の二乗)
この2つから、質量mの物質は粒子であると同時に、振動数ν = mc²/h に対応する波としての性質を併せ持っているのではないかと考えたのです。そして、光子(光の粒)について成り立つことがわかっていた「λ = h/p」(波長=プランク定数÷運動量)という関係が、電子のような物質にも当てはまると主張しました。
と言われても、「何言ってるの?」という感じですよね。正直私もこの式を詳しく解説することはできませんが、簡単に言うと、「あらゆる物質は波としての性質も持っている。速く動いている物質ほど、その波長は短くなる」ということです。
例えば、時速100kmで走る車も、理論的には波としても振る舞っているのです。ただ、その波長はあまりにも短く、私たちの目には波としての様子は見えないだけなのです。
この「λ = h/p」という式は、見た目はとてもシンプルですが、「光子だけでなく電子などの物質も波のようにふるまう」というド・ブロイの革新的な発想を象徴するものでした。
実際、彼はこの理論を提唱したことでノーベル物理学賞を受賞しています。
4.天才すぎたド・ブロイ
信じられない話ですが、このド・ブロイ、当時学生です。ということでこの奇妙な理論を博士論文として提出したわけですが、教授陣は「よく分からない。何言ってるの?」といった状態でした。数式は美しいけど、現実にそんなことがあるのか、いまいち実感できなかったのでしょう。しかし、その論文がアインシュタインの目に留まると、驚きとともに
「この青年は博士号よりノーベル賞を受けるに値する」
と評したほどであったとする逸話があります。当時のアインシュタインといえば、相対性理論で既に世界的な大物物理学者。その人に認められたわけです。
そして実際、1927年に他の研究者たちによって行われた電子回折実験の結果から彼の理論は証明されました。電子が波のように回折する現象が観測されたのです。「光だけでなく電子も波の性質を持っている」というド・ブロイの主張が正しかったことが証明され、1929年には「電子の波動性の発見」でノーベル賞を受賞しました。わずか37歳での受賞です。
せっかくここまで読んでくださった皆さんには、ぜひ覚えておいていただきたいポイントがあります。それは、大胆な発想の転換が、物理学の革命をもたらしたということ。常識を疑い、逆転の発想をすることの素晴らしさを教えてくれる物語だと思います!
5.その後の量子力学
ド・ブロイの「あらゆる物質は波の性質も持っている」という発想は、その後の量子力学に大きな影響を与えました。この考えはシュレーディンガーの波動力学の出発点となり、やがてハイゼンベルクの行列力学などと統合され、まったく新しい量子力学という学問の誕生につながっていったのです。
現代の物理学は、こうした理論的な探究の積み重ねによって築かれてきたのです。数式の中に潜む自然のルールを読み解こうとする営みが、科学の進歩を導いてきたとも言えるでしょう。
6.まとめ
貴族の家に生まれながら物理学の世界に情熱を注ぎ、「あらゆる物質は波の性質も持っている」という常識を覆す発見をしたド・ブロイ。彼のシンプルでありながら革命的なアイデアは、現代物理学の基礎となっています。
現代のスマホやコンピュータなど、私たちの生活を支える多くの技術は、この不思議な考え方なしでは成り立たなかったのです。つまり、皆さんが今使っているスマホも、ド・ブロイのおかげで…と言えるかもしれませんね。そう考えると、理論物理学ってすごいですよね!それでは、また次回のマスログでお会いしましょう!
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<文/伊藤智也>
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