微分を行列で表す~最近印象に残った授業~
公開日
2025年2月11日
更新日
2025年3月16日

微分を行列で表す~最近印象に残った授業~
こんにちは。今回は、最近印象に残った授業の中から「微分を行列で表す」というテーマについてお話ししたいと思います。微分と行列、一見関係なさそうに思えますが、実は密接に関係しているのです。
ベクトル空間としての多項式
ある授業で、「ベクトル空間とは何か?」という話になりました。通常、ベクトル空間というと矢印のベクトルや数ベクトルを思い浮かべるかもしれません。しかし、実はもっと広い概念であり、さまざまな数学的対象がベクトル空間として扱えます。
例えば、二次の実係数多項式の集合はベクトル空間になります。つまり、
ax^2 + bx + c \quad (a, b, c \in \mathbb{R})
という形の多項式全体を考えたとき、この集合は加法やスカラー倍の性質を満たし、ベクトル空間として成立します。
ここで、基底(ベクトル空間を構成する基本要素)を \{1, x, x^2\} と取ると、このベクトル空間は3次元になります。見た目は違いますが、3次元の数ベクトル空間と同じ構造を持っているのです。
線形写像としての微分
次に、「微分」はベクトル空間の視点からどのように捉えられるかを考えました。実は、微分という操作は線形写像(線形変換)になっています。
線形写像とは、次の2つの性質を満たす写像のことです。
1. 和に対して分配する(加法性)
D(f + g) = D(f) + D(g)
2. スカラー倍を外に出せる(同次性)
D(c f) = c D(f) \quad (c は定数)
高校数学でも、次のような微分公式を学んでいるはずです。
(f + g){\prime} = f{\prime} + g{\prime}, \quad (cf){\prime} = c f{\prime}
これこそ、微分が線形写像であることを示しています。
微分を行列で表す
ここからが本題です。微分を行列で表してみましょう。
二次の多項式ベクトル空間では、すべての多項式は基底 \{1, x, x^2\} を用いて次のように表せます。
ax^2 + bx + c \quad \longleftrightarrow \quad\begin{pmatrix} c \\ b \\ a \end{pmatrix}
この対応関係を利用すると、微分 D を行列として表現できます。
実際に、各基底の微分を計算すると、
D(1) = 0, \quad D(x) = 1, \quad D(x^2) = 2x
これを行列の形式で表すと、
D=
\begin{pmatrix} c \\ b \\ a \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 2 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} c \\ b \\ a \end{pmatrix}
となります。
つまり、微分は次の行列で表せるのです。
D =\begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 2 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}
この行列を作用させることで、ベクトル空間上の微分操作が再現できるというわけです。
高階微分と行列の累乗
さらに、2回微分を行うとどうなるでしょうか?
D^2 =\begin{pmatrix}0 & 1 & 0 \\0 & 0 & 2 \\0 & 0 & 0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0 & 1 & 0 \\0 & 0 & 2 \\0 & 0 & 0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0 & 0 & 2 \\0 & 0 & 0 \\0 & 0 & 0\end{pmatrix}
3回微分すると、すべての成分が0になるので、
D^3 = 0
となります。これは、二次多項式の3回微分が0になることと一致していますね!
まとめ
今回の授業では、微分が実は線形写像であり、行列として表現できることを紹介しました。普段何気なく使っている微分が、ベクトル空間の視点で見ると「行列の作用」として理解できるのは、とても面白い発見ではないでしょうか?
また、この考え方を発展させると、偏微分や微分方程式も行列を用いて整理できるようになります。数学は一見異なる分野が実は深く結びついている、ということを改めて実感しました。それでは、また次回も数学の奥深い世界を一緒に探求していきましょう!