疑似相関シリーズ 第4回|チェックを増やすほど、不具合が増える?
公開日
2026年1月9日
更新日
2026年1月27日
この記事の主な内容
いきなり結論
増えたのは不具合じゃない。見つかる量かもしれない。
「チェック項目を増やしたら、不具合件数が増えた」──この現象、品質改善や業務改善をやっていると高確率で出会います。
そして多くの場合、ここでこう言われます。
「チェックを増やしたせいで、現場が荒れてるんじゃない?」
でもそれは、因果の取り違えかもしれません。
このケースの典型的な正体は、
見える化が進んで、今まで見逃していた不具合が“見つかるようになった”
です。
相関はヒント。因果は証拠。
今日は「増えた=悪化」と決めつけて、改善の芽を自分で潰さないための話をします。
1. なぜ「チェックを増やすほど不具合が増える」が起きるのか
まず、当たり前のことを言います。
チェックを増やすと、見つかる不具合は増えます。
これは品質が悪化したからではなく、単に“発見できる範囲”が広がっただけ。
例を出すとわかりやすいです。
例:健康診断
検査項目を増やせば、病気が「増えた」ように見えます。
でも実際は、病気が急に増えたのではなく、
・見つかるようになった
・早期に拾えるようになった
だけです。
仕事でも同じ。
・レビュー回数を増やしたら指摘が増える
・監査を強化したら不正が増える
・問い合わせ窓口を増やしたらクレームが増える
「増えた」という結果は、悪化ではなく“観測の精度が上がった”可能性があります。
2. 用語を“日本一やさしく”整理する
今回のキーワードは3つだけ。
相関(correlation)
Aが増えるとBも増える(または減る)という「いっしょに動く」関係。
チェックが増えれば、検出件数が増える相関は普通に出ます。
因果(causation)
Aが原因でBが起きるという関係。
相関があるだけで「チェックが不具合を増やした」とは言えません。
検出効果(見える化効果)
今回の主犯。
不具合の総量が増えたのではなく、“見つかる率”が上がっただけという現象です。
そして、もう一つありがちな落とし穴があります。
逆因果(reverse causality)
不具合が増えた(炎上した)から、チェックを増やしたケース。
この場合もデータ上は「チェック増→不具合増」に見えます。
3. 「これは本当? 嘘?」をちゃんと分ける
今回も2つに分解します。
Q1:相関は本当?
本当です。
チェック項目やレビューが増えれば、見つかる不具合(指摘)は増えやすい。
Q2:因果(チェックが不具合を増やす)は本当?
嘘かもしれない。
少なくとも「相関がある」というだけでは因果は言えません。
むしろ起きがちなのは次のどれかです。
・検出効果:見つかるようになっただけ
・逆因果:不具合が増えたからチェックを増やした
・黒幕:大型リリースや仕様変更が増えた(両方が増える)
4. ビジネスでの“実害”:改善が「やめる理由」にされる
ここで因果を取り違えると、やりがちな誤判断がこれです。
・間違い:チェックを減らす/監査をやめる/レビューを省略する
・正しい:検出が増えた理由を分解し、重大度と再発を見て改善する
不具合件数が増えたのは、
失敗が増えた
ではなく
失敗が“見えるようになった”
かもしれない。
見える化をやめるのは、暗闇に戻るのと同じです。
5. 今日から使える:観測のワナチェック「3つだけ」
初心者でも迷わないよう、3つに絞ります。
チェック①:増えたのは「発生」?それとも「検出」?
不具合は、次の流れで数字になります。
発生 → 検出 → 報告 → 集計
チェックを増やすと、増えるのはたいてい「検出」「報告」「集計」です。
発生そのものが増えたとは限りません。
チェック②:重大度で分けると、どう見える?
件数だけだとブレます。
最低限、重大度で分けてください。
・致命的(止まる・危険)
・中(不便・手戻り)
・軽微(表示崩れなど)
チェック強化直後は軽微が増えやすい。
ここを見ないと、誤解します。
チェック③:再発率は下がっている?
本当に品質が悪化しているなら、再発率も上がりやすい。
逆に、再発率が下がっているなら、
数は増えたけど、改善は進んでいる
という可能性が高いです。
6. 実務の最小アクション:「件数」ではなく「質」で追う
じゃあ、どう運用すればいいか。最小手を3つ。
最小手①:「件数」より「率」にする
母数が変わると件数は簡単に増えます。
・1,000件あたりの不具合
・1万ユーザーあたりの不具合
・リリース1回あたりの不具合
のように“率”にすると解釈が安定します。
最小手②:KPIは「重大度×再発」に寄せる
おすすめはこの2つ。
・致命的不具合率
・再発率
ここが改善していれば、チェック増はむしろ良い兆候です。
最小手③:「どこで見つかったか」を追う
理想は、ユーザーが気づく前に見つけること。
・開発中に見つかった
・リリース前に見つかった
・リリース後にユーザーが見つけた
チェックを増やして、検出が前倒しになっているなら、成果です。
まとめ
・「チェックが増えるほど不具合が増える」という相関は出る(これは本当)
・でも「チェックが不具合を増やす」という因果は言えない(これは嘘かもしれない)
・正体は、検出効果(見える化)+逆因果+黒幕(大型変更など)の可能性
・追うべきは件数ではなく、重大度・再発率・検出タイミング
最後に一言。
増えたのは悪化じゃない。見える化が進んだ証拠かもしれない。
次回予告:第5回「残業が少ないチームほど成果が低い?」
“忙しい=成果”に見えるワナを、相関と黒幕で解きます。





