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実際にどう役立つの?“境目分析”で因果を探る回帰不連続デザイン【Part3】

公開日

2025年9月20日

更新日

2025年9月17日


 本シリーズでは、因果推論の一手法「回帰不連続デザイン」について、その考え方と使える場面を紹介してきました。最終回となる今回は、いよいよ実例ベースで「実際にどんな効果があったのか?」を紹介していきます。

 まだ前回までをご覧でない方は、こちらからどうぞ:
👉 単純比較じゃダメ?“境目分析”で因果を探る回帰不連続デザイン【Part1】
👉 どんなときに使えるの?“境目分析”で因果を探る回帰不連続デザイン【Part2】

回帰不連続デザインとは

回帰不連続デザインは、「ある数値指標の閾値(カットオフ)を境に処置の有無が変わる場面」を活用して因果効果を推定する手法です。閾値付近で比較することで、ランダム化が難しい現実の施策でも「ほぼ同じ条件のグループ同士」を見つけ出し、施策の効果を測ることができます。

ここでは、日本・海外を問わず、政策、教育、医療まで様々な分野で回帰不連続デザインが活用された実例を紹介します。

政策評価の活用事例

事例1 法規制の閾値を利用した政策効果の検証(飲酒年齢制限)

 こちらはアルコール飲料の法定飲酒年齢に着目した研究事例です。
The Effect of Alcohol Consumption on Mortality: Regression Discontinuity Evidence from the Minimum Drinking Age

米国では21歳未満の飲酒が禁止されていますが、21歳の誕生日を迎えると合法的に飲酒できるようになります。この年齢21歳を閾値とみなし、その直前と直後の人々を比較することで、「飲酒規制の有無」が健康や行動に与える影響を分析できます。

 具体的には、20歳と364日の人(飲酒不可)と21歳と0日の人(飲酒可)は年齢がほぼ同じであり、飲酒規制による違いだけが存在すると考えられます。この研究では、この年齢の差を利用し、飲酒解禁が直後の飲酒量や健康リスクをどう変化させるかを回帰不連続デザインを用いて推定しています。

 その結果として、21歳到達直後に飲酒行動が急増することが明らかになっています。具体的に、21歳になった直後から飲酒頻度が21%増加し、それに伴い死亡率も約9%上昇するという大きな変化が観察されています。死亡率の増加は主に飲酒運転による交通事故やアルコール関連の事故・自殺の増加によるもので、飲酒年齢制限が若年層の重大な健康被害を抑制していたことを示唆しています。

 この結果は、「21歳未満飲酒禁止」という政策が実際に公衆衛生上の大きな効果を持つことを示し、若者の飲酒抑制策の重要性をデータで裏付ける形となりました。また、政策的な示唆として「若年層の飲酒を減らす施策は公共の健康利益を高める」ことが示され、飲酒規制の維持・強化を支持するエビデンスとなっています。

医療・健康分野での活用事例

事例2 健康診断の基準値を利用した予防介入の効果検証(高血圧スクリーニング)

 こちらはアイルランド全国の中高年者を対象にした高血圧スクリーニング(健康診断)の効果を回帰不連続デザインで分析した事例です。
Heterogeneous Effects of Blood Pressure Screening

 高血圧スクリーニングとは、高血圧(高血圧症)の有無を特定するために血圧を測定するプロセス、つまりは健康診断のようなものです。被験者の血圧を測り、その結果に基づいて「正常」か「異常」の判定を出し、異常に分類された被験者に対しては口頭や書面でフィードバックを提供します。そのフィードバックが与える被験者に与える効果について測定した研究となります。

 この研究では、高血圧スクリーニングがその後の血圧変化に与える因果効果を推定するために、回帰不連続デザインを用いています。高血圧スクリーニングでは、「正常」と「異常」を分ける血圧の閾値(SBP 140 mmHg、DBP 90 mmHg)が存在します。そこでこの閾値の直上の人(ギリギリフィードバックを受けた人)と直下の人(ギリギリフィードバックを受けなかった人)の結果を比較することでフィードバックの効果を測定しようとしています。閾値のすぐ近くにいる人は、平均的に類似していると考えられ、血圧のわずかな違いによってフィードバックを受けるか受けないかが決まるわけですから、この領域においては疑似的にランダム化されていると考えることができるのです。

 分析の結果、受診時にそれまで高血圧と自覚していなかった人に限り、閾値を超えて高血圧と判定されたグループで追跡時の血圧が低下する傾向があることが判明しました。一方、診断前から既に高血圧と知らされていた人々を含めると、閾値を境にした差は見られず、フィードバックの追加効果は確認できませんでした。この結果は、「健康診断で新たに高血圧と分かったこと」自体がその後の生活習慣改善や治療行動を促し、血圧低下という健康上の利益をもたらした可能性があることを示唆しています。


 本記事でご紹介したように、回帰不連続デザインは、ビジネス、公共政策や医療介入に至るまで、非常に幅広い分野で活用されています。制度の「しきい値」や施策の適用条件といった境界をうまく活かすことで、ランダム化が難しい現実の中でも、因果関係を精度高く推定できる──それが回帰不連続デザインの大きな強みです。

 ビジネスや政策の現場で意思決定を行う際、このような手法から得られたエビデンスに基づけば、より公平で説得力のある判断が可能になります。今回ご紹介した事例を参考に、ぜひ皆さんの分析や施策立案にも因果推論の視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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