どんなときに使えるの?“境目分析”で因果を探る回帰不連続デザイン【Part2】
公開日
2025年9月19日
更新日
2025年9月19日
前回は、「因果推論とは何か?」という基本から、回帰不連続デザインの直感的な考え方までを解説しました。
今回はその続編として、「では実際にどんな場面でこの手法が活用できるのか?」について具体例を交えて紹介していきます。
まだ前回の記事を読んでいない方は、ぜひ先にこちらからどうぞ。
👉 【因果推論Part1】“ズレ”に注目して因果関係を見抜く? 回帰不連続デザインとは
回帰不連続デザインの応用シーン
理想を言えば、すべての施策はA/Bテストのように「ランダムに分けて」効果を測るのがベストです。しかし、実際のビジネスや政策の現場ではそんなに都合よくはいきません。
- 新施策はまず売上上位店舗にだけ導入
- クーポンは“お得意様”に優先配布
- 教育支援は一定の成績基準で線を引く
こうした場面では、「比較するグループがすでに違っている」ことが多く、単純な平均比較では効果が見えてこないのです。
ここで活躍するのが 回帰不連続デザインです。。
「ある基準で施策を分けているなら、その“境目”に注目すれば、比較可能な対象が見つかる」というのがこの手法の発想です。
では、実際にどんな場面で活用されているのでしょうか?
ケース1:広告は売上上位の店舗だけに配信
ある企業では、売上上位の店舗にだけ広告予算を配分するという方針を取っていました。
その結果、広告を出した店舗の売上は、出していない店舗よりも高くなりました。
でも、それって本当に広告の効果でしょうか?
もともと売上が高い店舗に広告を出しているわけですから、広告なしでも高かった可能性はありますよね。
ここで回帰不連続デザインの出番です。
例えば、「前月売上が100万円を超えた店舗だけ広告を出す」と決めていた場合、「99.8万円だった店舗」と「100.2万円だった店舗」の比較に注目すれば、両者は疑似的にランダム化を行ったグループとみなせるでしょう。この2群に売上の差が出てきたとするならばそれは広告の効果とみなすことができるでしょう。
ケース2:クーポン配布の閾値ルール
ある通販会社では、直近3ヶ月の購入額が3万円を超えた顧客にだけ、特別クーポンを配布していました。クーポンを配られた人たちの方が購買額が高い。──さて、それはクーポンのせい? それとも元から優良顧客だった?
ここでもやはり「境目」がカギになります。
29,900円の人と30,100円の人の行動を比較すれば、「クーポンの有無」による購買率の差を把握することができるでしょう。
日常のマーケティング施策には、こうした「数値による区切り」が意外と多くあります。
それをうまく活かせば、A/Bテストのような制約がなくても因果推論ができるのです。
ケース3:教育・政策の“線引き”は宝の山
実は、行政や教育の現場こそ、回帰不連続デザインが活躍してきたフィールドです。
たとえば、
- 試験点数の合否(60点以上が合格)
- 年齢による制度適用(65歳以上に支援金)
- 所得制限による給付(年収500万円未満のみ対象)
これらはすべて、「ある数値を基準に施策が分かれる」という構造を持っています。
つまり、“しきい値の前後”で、ほぼ条件が同じなのに施策だけ異なる人たちが自然に現れてくるわけです。
こうした場面では、意図的な実験をせずとも、すでにあるデータだけで因果効果の推定が可能になります。
境目がある世界は、案外多い
回帰不連続デザインが使えるのは、「境目が存在する」場面です。
そしてその境目は、思っているよりも多くの施策に含まれています。
- 売上ランキングによる施策対象の選定
- 購買額や回数で区切るキャンペーン配信
- 社員数や売上高で決まる制度の適用
- 学力・所得・年齢などで決まる支援の線引き
言い換えれば、しきい値で“切る”施策にはチャンスがあるということ。
回帰不連続デザインは、そんな施策の「本当に効果があったのか?」を見極めるツールになるのです。
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