マスログ

【数学の魅力】無理数の奥深さと面白さパート①(数の世界と無理数入門編)

公開日

2025年1月26日

更新日

2025年1月19日

 みなさんこんにちは!和からの数学講師の岡本です。突然ですが、「無理数」ってご存じですか?“無理な数”と書いてあるので、なんだかヤバそうな雰囲気がありますが、無理数は意外にも身近であり、不思議な性質や、未だに解決されていないお話が多々あります。今回のマスログでは、無理数の魅力について少しだけお話してみたいと思います。

1.数の世界

 無理数を語る上で外せないのが、「数の世界」の成り立ちです。まず、1, 2, 3,…といった、人間がモノを数えるために使用された「自然数(natural number)」という集合を考えます。数学の世界では興味のある対象全体を含む集合を考え、その中に“構造”を定めることが基本です。数に対しては、「足し算」や「引き算」などの四則演算を考えることができます。
 しかし、自然数同士における引き算では必ずしも自然数になりません。例えば、\(2-5=-3\)です。これにより、0(ゼロ)やマイナスの数を考慮する必要がでてきます。そこで、これらを自然数に加えた「整数(integer)」という集合を考えることになります。この集合は、「足し算」「引き算」、そして「掛け算」を問題なく考えることができます。
 ところが、整数の集合であっても「割り算」の問題を解決することができません。当たり前ですが、\(5\div 3=\frac{5}{3}\)は整数ではありません。そこで、数学者たちは、四則演算の構造を完璧に近づけるため、分数を解禁したのです!つまり、整数/整数の形で表される数を仲間に入れることで、整数よりも広い数の体系を考えました。これを「有理数(rational number)」といいます。整数/1=整数なので、整数は有理数の一部であることに注意しましょう。
 これで満足かと思いきや、有理数という体系にも不満を抱く数学者たちがいました。四則演算は問題なく行えますが、「極限操作」が自由に行えないのです!例えば、数字の列1.4, 1.41, 1.414, 1.4142,…を考えます。有限小数であることからこれらはすべて有理数ですが、この数字の列の行きつく先(つまり極限値)は\(\sqrt{2}\)です。考えている列は有理数の範囲内にあるものの、収束先だけが有理数の世界からはみ出してしまうことがあります。このような状況をよしとしなかったのです。そこで、「収束する有理数列の極限値を全て有理数に追加していく」といったような操作(これを「完備化」といいます)を行い、「実数(real number)」という集合を作り上げました。そもそも有理数の世界は“とびとび”になっていたので、完備化により“隙間の埋め合わせ”を行ったのです。こうして、四則演算や極限操作に困らない平和な数の世界が出来上がりました。めでたしめでたし。

 そう思いきや、これでもまだ不満に思う数学者がいました。それは、代数的な方程式を自在に扱うには、実数では物足りない現象が起こるのです!例えば\(x^2+1=0\)の解は実数の世界では存在しません。2乗してマイナスになる実数など考えられないからです。長い間、数学者たちはこれ以上の思考をあきらめかけていましたが、ついに「\(\sqrt{-1}\)を許容しよう!」とする考えが広がっていきました。こうして「複素数(complex number)」という巨大な数の集合が生まれました。

 なお、今回のメイントピックは実数と有理数の間、つまり、有理数の世界に新しく仲間になった数たちです!これらを有理数に対して「無理数(irrational number)」といいます。やや否定的なネーミングですが、無理数には数学の、特に数論における魅力や不思議な現象が数多く詰まっています。以降の節では、無理数の例や性質について触れていこうと思います。

2.無理数と超越数

 無理数の例として有名なのは、\(\sqrt{2}\)や\(\sqrt{3}\)といったルートの計算を行った際に現れる数です。これらが有理数、つまり整数/整数の形で表せないことは数学的に証明することができ、大学入試でも頻出問題となっています。その他にも、円周率の\(\pi\)や、特殊な極限を考えることで導出されるネイピア数\(e\)(海外では「オイラー数」と呼ばれることがあります)などがあります。しかし、\(\sqrt{2}\)とは全く異なるオーラを放っていることにお気づきでしょうか?そう、これら\(\pi\)や\(e\)は有理数を係数とする代数方程式の解にはなりえません!実は無理数の世界でも、このような違いによってグループ分けされています。つまり、有理数係数の代数方程式の解として現れる数を「代数的数(algebraic number)」、そうでない数を「超越数(transcendental number)」と呼びます。もちろん、有理数は1次方程式の解になるのですべて代数的数と考えることができます。そのため、無理数の中でも\(\pi\)や\(e\)など代数的でない数たちは“ヤバい数”といったグループに分類されます。
(注)なお、無理数や代数的数、超越数は複素数の範囲でも考えることができます。例えば\(i=\sqrt{-1}\)は代数的数となります。

 なお、このあたりのお話が気になる方は塩川先生の「無理数と超越数」をご覧ください。

無理数と超越数 塩川宇賢(著) 森北出版

3.無理数について知られている事実

 さて、無理数に関する面白い性質について触れていきましょう。まずは「有理数と無理数はどちらの方が“多い”?」という問題についてです。どちらも無数に存在するので、カウントして比べることはできせんが、数学の世界では「濃度」という概念を用いて、2つの集合の“大きさ”を考えることができます。その結果なんと、無理数の方が有理数よりも、圧っっっっっ倒的に多いことがわかっています。有理数は「可算無限」と言われる濃度を持っており、対する無理数は「非可算無限」というクラスの濃度を持っています。例えるならば、「1カップに入るゴマの個数と水の“個数”、どっちが大きい?」と聞いているようなものです。もはや比較にならないほど無理数の方が大きいわけです。
 また、話は少し変わりますが、無理数である円周率\(\pi\)が超越数であることが証明されたことで、古代ギリシャの時代から議論されてきた未解決問題の1つが否定的に解けたことがあります。その問題とは、「与えられた円と同じ面積をもつ正方形を作図できるか?(円積問題)」というものです。ここでいう「作図」は、コンパスと定規のみを使うことが条件です。この問題の本質は、コンパスと定規で正方形の1辺の長さ\(\sqrt{\pi}\)を作図できるかが問題でした。なお、コンパスと定規で作図できる長さは、四則演算とルート計算を繰り返してできる数(代数的数の一部)であることが知られています。しかし、\(\pi\)が代数的でないことが証明されたことで、この円積問題に決着がついたのです。つまり、与えられた円と同じ面積を持つ正方形を作図することは不可能であることが証明されました。
 さて、ここで1つ問題です。超越数の代表例である円周率\(\pi\)とネイピア数\(e\)を足し合わせた\(\pi+e\)は無理数でしょうか?\(\pi\)も\(e\)も無理数ですので、\(\pi+e\)も無理数な気がします。おそらくほとんどすべての人類は「無理数だ」と思うでしょう。しかし、この問題はなんと未解決なのです…!一般に無理数と無理数を足したり引いたりしても必ずしも無理数になるとは限りません(例えば単純な例:\(\sqrt{2}-\sqrt{2}=0\))。この問題は見た目以上に複雑であり、この先もなかなか解決されることはないかもしれません…。

4.さいごに

 いかがでしたでしょうか?無理数は実数を考える上で不可欠な要素であり、とても身近な数ですが、その構造は実に奥深く、未解決な問題が数多く存在します!次回のマスログでは、3節の最後にあったような、無理数同士を組み合わせることで新しい無理数を構成できるかどうかという問題について踏み込んでみたいと思います!

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<文/岡本健太郎>

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