アインシュタイン以来の天才!?ノーベル物理学賞受賞ロジャー・ペンローズが生み出した現代宇宙観
公開日
2020年10月7日
更新日
2020年10月7日
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いよいよ今年のノーベル賞受賞者が発表されました。今年のノーベル物理学賞に選ばれたのは3名、ロジャー・ペンローズ、ラインハルト・ゲンツェル、アンドレア・ゲズです。受賞理由は宇宙に関する内容であり、中でももっとも賞金配分のもっとも多かった(約6,000万円!)ペンローズの功績は、人類の宇宙に対する見方を決定的に変えた、ブラックホールの実在を示したことにあります。今日はそんなペンローズによる、20世紀最高の頭脳、アルバート・アインシュタインへの壮大な挑戦のお話しです。
この記事の主な内容
1.ロジャー・ペンローズってどんな人?
ペンローズは1931年にイギリスのコルチェスターに生まれた数理物理学者です。父親は遺伝学者のライオネル・ペンローズであり、1952年にロンドン大学卒業、1957年ケンブリッジ大学で博士号を取得しました(現在89歳)。
研究対象は多岐にわたり、主に宇宙の仕組みについて、ブラックホールやビッグバンなどの研究を行なっていました。そのほか現在もなお完全に解明されていない量子力学と相対性理論を統一するための理論(ツイスター理論・ループ量子重力理論)、強い人工知能に関する研究(量子脳理論)の研究も行なっています。ペンローズ・タイル、ペンローズ3角形のようなデザインも有名であり、非常に多様な分野で知られています。
ペンローズタイルは、平面を2種類の図形で埋め尽くすことができ、非周期的な構造が特徴的な模様です。様々なデザインとして活用される他、電気剃刀ブラウン(Braun)のマルチパターン網刃にも応用されています。さらにこのパターンは自然界でも発見されており、2011年のノーベル賞である「準結晶」の発見では、なんと結晶中にこのペンローズ・タイルのパターンが見られているのです![1]
ペンローズの3角形は直角(90°)に交わりながら、3角形となる通常の3次元空間では不可能な立体です。画家エッシャーのリトグラフ『滝』や『階段』のモチーフにもなっています。
ちなみにExcelだけで、エッシャーによる『階段』のシンプルなデザインを作成することができます。
和からでは数学をモチーフにしたアート・デザインのセミナーも行なっております。ご興味がある方はぜひこちらの無料セミナーにご参加ください。Excelを使って手軽に活用できる数学的デザインも紹介しています。
閑話休題、ペンローズは1994年に科学への貢献を認められ、英国よりナイト(騎士)の称号を受け、Sir Roger Penroseと呼ばれることになりました。
2.ペンローズが受賞した理由は?
ノーベル賞のWebページには、ペンローズが受賞した理由を下記の通りまとめています[2]。
“for the discovery that black hole formation is a robust prediction of the general theory of relativity”
相対性理論によって、ブラックホールの形成が証明されることの発見
相対性理論とは、20世紀初頭アインシュタインが創始した理論であり、一言で言うと「時間」と「空間」に関する理論です。この理論に興味がある方は、別記事でも取り上げているのでご覧ください。
実は、ブラックホールが存在する可能性に気づいたのは、ペンローズが初めてではありません。天体物理学者カー・シュヴァルツシルトが、相対性理論の重要な方程式であるアインシュタイン方程式を解いてみたところ、ある特殊解が得られて、その結果特異点が存在することに気づきました。のちにブラックホール発見の重要なきっかけとなった特異点ですが、当時アインシュタイン自身はこの特異点について、「あくまで理論的な計算の結果出てきたもので、実在するものとは無関係である」と判断し、1939年の自身の論文でブラックホールの存在を明確に否定しているのです[3]。
その説をアインシュタインが相対性理論を生み出した方法と同じ、計算によって覆して見せたのがペンローズでした。彼は相対性理論を拡張し、特異点、つまりブラックホールが相対性理論から自然に導かれる存在であることを証明しました。星の大きさに対して一定の重さになるとその星が崩壊し特異点を生じ、その特異点ではあらゆる物質、光でさえも一度入ると抜け出せない、ブラックホールになることを相対性理論から導いて見せたのです!彼が1965年に書いた画期的な論文は、相対性理論におけるアインシュタイン以来の前進とみなされています。
終わりに
いかがでしたでしょうか。アインシュタインにとっては、自分が一度は否定したブラックホールが、自ら作り出した相対性理論によって存在が証明されるというのはなかなか因果な話ですね。天才の代名詞として呼び声高いアインシュタインですが、様々な分野に貢献している分、実は現代科学からみると誤った主張をしていたものも意外とあります。もちろんそれらは彼が天才であったことを否定するものでは全くありませんが、アインシュタイン以後も、今回受賞した3人のような、物理学史を大変革するような発見・発明した人が数多くいますので、ぜひ皆さんも調べてみてください。
ペンローズ生み出したブラックホールというアイディアは、現代の宇宙の研究に多大な影響を与えています。数多くの研究者がブラックホールの研究を行なっており、昨年4月に電波望遠鏡によってブラックホールの観測に成功した、というニュースを記憶している方もいるでしょう[4]。このノーベル賞受賞をきっかけにブラックホールに興味をもつ若い研究者が増えて、ますます宇宙分野に関する研究が発展することを楽しみにしながら、本稿を締め括ろうと思います。
ペンローズが生み出した宇宙についての考え方をもっと詳しく知りたい方は、こちらの本を読んでみると良いでしょう。
【宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか(新潮社)】
ただ、上記の方は専門的な用語が多く、やや難解なため、まずはペンローズとともにブラックホールを解き明かした物理学者スティーブン・ホーキングの名著をまず読んでみるのがおすすめです。宇宙に関する様々な内容を、数式をほとんど使わずわかりやすく、かつ楽しく解説しています。
【ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで(早川書房)】
それではまた。
引用:
[1]https://www.scientificamerican.com/article/the-2011-nobel-prize-in-chemistry/
[2]https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2020/penrose/facts/
[3]Einstein, Albert (October 1939). “On a Stationary System With Spherical Symmetry Consisting of Many Gravitating Masses”. Annals of Mathematics. 40 (4): 922–936. doi:10.2307/1968902. JSTOR 1968902
[4]https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20190410-eht.html