マスログ

数理モデル事始~あなたはなぜ傘を持ってきたのか~

公開日

2021年5月16日

更新日

2021年5月16日


こんにちは。和からの数学講師の岡本です。今日は科学の世界だけでなく、社会でも様々な応用がなされている「数理モデル」についてお話をしていきたいと思います。最近では特にコロナウイルスの感染拡大のシミュレーション感染症の数理モデルといった言葉も話題になっています。今回のマスログでは、こうした「数理モデル」というものの考え方やモチベーションについて簡単な例を用いてお話していきます。

1.あなたが傘を持って出かけた理由

あるぐずついた日の出来事です。あなたは家を出る際、天気予報を確認し、念のため傘を持って出かけました。

さてこのとき、あなたはなぜ「傘を持って出かける」という選択をしたのでしょうか?
言われてみるとなにやら難しいですよね。もはや哲学的に考えてしまいそうです。しかし、「数学」を使うことで、このような「意思決定」をある程度説明することができるのです!実際にセッティングを行い「数理モデル」を考えてみましょう。

2.傘を持つコストvs 雨に濡れるコスト

基本的に傘を持つ大きな理由は、「雨に濡れたくないから」です。「濡れる」というリスクを確実に回避するには、常に傘を持ち歩けばいいわけです。しかし、傘を持ち歩くというのは片方の手をふさぎ、コストとなります(折りたたみであっても荷物がかさむというコストがでてきます)。つまり、「なるべく傘は持ち歩きたくない」という設定を考えます。
さあ、コストに関する設定は終わりました。次に適当な数字を当てはめて考えてみましょう。

3.状況を数値化する

次に上で考えたコストを適当に数値化しましょう。例えば、「雨に濡れるコスト」を10とます。このとき、傘を持ち歩くコストはどれぐらいになるでしょうか?仮に雨に濡れる以上のコストだとすると、もはや傘は封印した方がいいことになります(笑)
通常、雨に濡れるコストよりも小さいと考えられるので、今回は「傘を持つコスト」を2と設定しましょう。つまり、「雨に濡れるコスト」の1/5です。
では、次に確率を考えます。まず、出かける日の降水確率が60%だとします。単純に残り40%で雨は降らないと考えましょう。これで数字のセッティングは完了です!

4.コストの期待値

それでは、以上の設定において、「傘を持っていくとき」と「傘を持って行かないとき」において、期待されるコストを計算してみましょう。

まず、「傘を持って行くとき」です。このとき、雨が降った場合(60%)も雨が降らなかった場合(40%)も、傘を持つコスト2のみが発生します。これを数式で表すと

\begin{align*}
0.6\times 2+0.4\times 2=2
\end{align*}

つまり、降水確率60%の日における傘を持っていくことのコストは2であることがわかります。

次に「傘を持って行かないとき」です。このとき、雨が降った場合(60%)濡れるためコスト10が発生します。また、雨が降らなかった場合(40%)、何のコストも発生していない(コスト0)ので、全体のコストは以下のように計算されます。

\begin{align*}
0.6\times 10+0.4\times 0=6
\end{align*}

こうして、2つの期待されるコストを比べると「傘を持っていく[コスト2]」<「傘を持って行かない[コスト6]」であり、コストの小さい「傘を持っていく」という選択が妥当であることがわかりました!!数学っておもしろいですね!!

5.さいごに

では、どんな天気予報のとき、もしくはどんなコスト設定のとき、傘を持って行かない方がいいのでしょうか?このように、今回設定した数値は状況によって変わることがあります。そのような場合、どこを基準にして意思決定を行えばいいのか、この部分も数理モデルを使って考えることができます。次回はこのあたりについてもう少し詳しくお話をしていきます。なお今回の内容は以下の本を参考にしています。非常に分かりやすく、読みものとしてもオススメです。

また、今回のお話で出てきた「期待されるコスト」というのは統計や確率の話題で出てくる「期待値」というものです。この期待値とは何か、しっかりと統計や確率を学びたい方は和からの統計セミナーをオススメします。統計検定2級、3級に対応した講座があります!興味のある方はまず無料のセミナーへご参加ください!

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<文/岡本健太郎>

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