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変革の歴史から読む、AI時代の生き残り戦略|第7回:インターネットが“場所”を溶かした日――新しい働き方の誕生

公開日

2025年12月14日

更新日

2025年12月9日

はじめに

第6回では、PC革命によってホワイトカラーの仕事が「手作業からデジタル構造へ」再定義された歴史を見てきました。今回の第7回では、その先に訪れたインターネット革命を取り上げます。PCが作業をデジタル化した存在だとすれば、インターネットは「世界そのものをつなぎ直した技術」。その衝撃は、“働くという行為そのもの”の意味を根底から変えていきました。

インターネットは、情報・広告・商取引・労働・教育・コミュニティなどあらゆる領域で「場所の制約を消す」効果をもたらし、既存の産業構造を大きく組み替えました。この構造は、いま生成AIが引き起こしている変化と極めて近いものがあります。


1.インターネット以前:世界は“場所”によって分断されていた

インターネットが登場する以前、情報・サービス・仕事はすべて「物理的な場所」に縛られていました。

・欲しい情報は本屋・図書館へ行かなければ手に入らない
・買い物は、店がある場所へ行かなければ成立しない
・電話は固定回線、コミュニケーションは対面が基本
・企業の商圏は“地理”で決まるのが当たり前
・仕事は会社へ行かなければできない(紙と会議室が中心)

つまり、距離そのものが経済の制約となっていた時代です。

インターネットの登場はこの前提を消し去ります。


2.インターネットが溶かした3つの「場所」

インターネット革命がもたらした最大の構造変化は、次の3つの「場所」を溶かしたことです。

1.情報の場所が溶けた(情報非対称性の崩壊)

・検索すれば世界中の情報にアクセスできる
・比較、評価、レビューが瞬時に見られる
・専門知識が“個人”に集まるようになり、企業・地域の優位性が低下

結果として、「知っていることの価値」が大幅に低下しました。

2.商取引の場所が溶けた(ECの爆発的成長)

・Amazonや楽天による“無限の棚”の誕生
・小売は立地勝負から、物流×デジタル勝負へ
・地域限定ビジネスが全国市場へ参入できる時代へ

商圏の概念が破壊され、「店舗がある場所」より「届けられる仕組み」が価値の中心へ移りました。

3.働く場所が溶けた(リモートワークの原型)

・メールによる非同期コミュニケーション
・オンライン上でのコラボレーション
・個人が場所に縛られず働ける構造の誕生

これは後に、クラウド・モバイル・リモートワークへつながる大きな転換点でした。


3.消えた産業、弱くなった産業、強くなった産業

インターネット革命は、単に便利になっただけではなく、産業構造の勝者と敗者を明確に分けました。

● 弱くなった産業

・新聞・雑誌など“情報配信”が中心の旧メディア
・街の書店・CDショップ
・紙の広告(チラシ・電話帳)

情報の流通経路が変わると、旧来の供給モデルが一気に崩れました。

● 強くなった産業

・EC、デジタル広告、検索エンジン
・オンライン教育
・SNS、オンラインコミュニティ
・動画プラットフォーム

特に Google・Amazon などは、「情報と商取引をつなぐ仕組みそのもの」を制したことで世界企業へ成長しました。

● 新しく生まれた産業

・インフルエンサー
・ブロガー、YouTuber
・クラウドワーカー
・プラットフォームビジネス全般

場所が溶けることで、「個人が価値を直接市場へ届ける」構造が生まれました。


4.インターネット革命とAI革命は何が同じで、何が違うのか?

インターネット革命は“場所”を溶かしましたが、AI革命はさらに一歩踏み込みます。

・インターネット革命の本質:
  場所をなくし、世界をつなぎ、情報の非対称性を解消した

・AI革命の本質:
  作業をなくし、思考を補完し、創造の非対称性を解消する

● 類似点:
・旧来の業界構造を再編する
・個人の力が直接市場に届きやすくなる
・新しいスキルを持った人が急速に台頭する

● 相違点:
・AIは「知識」ではなく「思考プロセス」そのものを変える
・ホワイトカラーの中心業務に直接入り込む
・“人の能力の定義”にまで踏み込む

つまりAIは、インターネットよりも踏み込み方が深く、仕事の本質そのものを再定義する技術と言えます。



5.AI時代に求められる“インターネット以降スキル”

インターネットがもたらした構造変化を踏まえると、AI時代に求められるスキルも見えてきます。

1.情報を扱う力(情報編集能力)

情報は無限にあるため、価値は「集める」から「編集する」へ移動しています。

2.ネットワークを活かす力(発信・接続・協働)

インターネット時代の成功者は、情報を“流通”させる力を持つ人でした。
AI時代もネットワークを活かせる人が強い構造は変わりません。

3.個人として価値を出す力(個の時代のスキル)

・個人ブランド
・専門性
・再現性あるアウトプット

SNS・プラットフォームによって、個人が直接市場とつながれる時代だからこそ重要です。

4.AIを使いこなす力(生成AI活用リテラシー)

インターネットが検索・発信力を求めたように、AI時代は
“問いのスキル” “批評のスキル” “統合のスキル”
が価値の中核になります。


次回予告

次回の第8回では、これまでの歴史の7つの波を総まとめし、生成AI時代のリスキリング戦略を「実践レベル」に落とし込みます。過去の変革に強かった人の共通点から、あなたが明日から取るべき行動を導きます。

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