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教養としての力学-第6回:人工衛星はなぜ落ちてこないのか?万有引力と円運動で説明してみた【高校物理をやさしく解説】

公開日

2026年5月12日

更新日

2026年4月13日

夜空を眺めていると、星のようにゆっくり動く光が見えることがあります。あれが人工衛星です。現在、地球の周りには数千もの人工衛星が飛んでいます。

ここで素朴な疑問が浮かびます。なぜ人工衛星は落ちてこないのでしょうか。

ロケットで打ち上げたものなら、エンジンを止めた瞬間に落ちてきそうなものです。しかし実際には何年も、場合によっては何十年も軌道を回り続けます。

この疑問に答えるのが、今回のテーマ「万有引力」と「円運動」です。そしてこの2つを理解すると、ニュートンが300年前に気づいた驚くべき発見の意味が、じんわりと伝わってきます。


万有引力とは何か?すべての物体は引き合っている

まず「万有引力」という言葉から整理しましょう。

「万有」とは「すべてのものに存在する」という意味です。つまり万有引力とは、宇宙に存在するすべての物体が互いに引き合う力のことです。

リンゴが木から落ちるのは、地球がリンゴを引っ張っているからです。しかし実はリンゴも地球を引っ張っています。リンゴが地球に比べてあまりにも軽いため、リンゴだけが動いているように見えるだけです。

【専門用語の解説】万有引力(ばんゆういんりょく)
質量を持つすべての物体の間に働く引力のことです。
重いものほど、また距離が近いほど、引力は強くなります。
ニュートンが17世紀に発見し、天体の運動から地上の物体の落下まで、同じ法則で説明できることを示しました。

この万有引力は、地球と月の間にも、地球と人工衛星の間にも、もちろん地球とあなたの間にも働いています。あなたが地面に立っていられるのも、万有引力のおかげです。

円運動とは何か?中心に向かう力が円を生み出す

次に「円運動」を説明します。

円運動とは、物体が円を描きながら動き続けることです。観覧車のゴンドラ、地球を回る月、そして人工衛星の軌道、すべて円運動です。

円運動をしている物体は、常に円の中心に向かって力を受けています。この力を向心力といいます。向心力がなければ、物体は円を描かずにまっすぐ飛んでいってしまいます。

【専門用語の解説】向心力(こうしんりょく)
円運動をしている物体が、常に円の中心に向かって受けている力のことです。
この力があるからこそ、物体は直進せずに円を描き続けられます。
向心力の正体は状況によって異なり、万有引力だったり、摩擦力だったりします。

人工衛星の場合、この向心力の正体が万有引力です。地球が人工衛星を中心に向かって引っ張り続けているから、円を描いて回り続けられるのです。

【図1】円運動

人工衛星が落ちない理由:「落ち続けている」から「落ちてこない」

いよいよ核心です。人工衛星はなぜ落ちてこないのでしょうか。

答えは一見、矛盾しているようですが、「人工衛星は常に地球に向かって落ち続けているから、地面にぶつからない」のです。

少し詳しく説明しましょう。

ボールを水平に投げると、重力に引かれながら弧を描いて地面に落ちます。強く投げれば投げるほど、遠くまで飛びます。では、もし「とてつもない速度」で投げたらどうなるでしょうか。

地球は球体であり、その表面は丸くカーブしています。ボールを猛スピードで投げると、「ボールが重力で下へ落ちる距離」と、「地球の丸みに沿って地面が下へ曲がっていく距離」がぴったり一致する瞬間がやってきます。

つまり、ボールは落ち続けているのですが、足元の地面も同じ分だけ丸く沈み込んでいくため、いつまで経っても地面にたどり着くことができません。これが人工衛星の正体です。

人工衛星はエンジンで空中に踏みとどまっているのではなく、地球の丸みを追い越すほどの猛烈なスピードで横に進むことで、「永遠の自由落下」を続けているのです。

【図2】人工衛星が落ちない仕組み

月も同じ仕組みだった

ニュートンの偉大な発見は、この「落ち続けているのにぶつからない」という仕組みが、夜空に浮かぶ月にも当てはまると気づいたことです。

月は地球から約38万km離れた場所を回っています。月もまた、常に地球に向かって落ち続けていますが、横方向への十分なスピードがあるため、地面に激突することなく軌道を回り続けています。

リンゴが木から落ちる現象と、月が地球を回り続ける現象。一見するとまったく別の出来事に見えますが、ニュートンはどちらも同じ万有引力の法則で説明できることを示しました。

地上の小さなリンゴと、遥か彼方の巨大な月を、同じ理論でつなげてしまったのです。これが、現代物理学の扉を開いた「ニュートン力学」の革命的な点です。


力学編のまとめ:6回を振り返って

今回で力学編は最終回です。ここで6回全体を振り返ってみましょう。

第1回はリニアモーターカーを題材に、速さとエネルギーの関係を学びました。第2回はテスラのEVを通じて、速さと加速度の違いを理解しました。第3回はニュートンの3法則を、SpaceXのロケットで読み解きました。第4回は運動量と衝突を、自動運転技術と絡めて説明しました。第5回はエネルギーと仕事を、再生可能エネルギーの文脈で学びました。そして第6回は万有引力と円運動を、人工衛星の仕組みで理解しました。

力学は「物体がどう動くか」を説明する学問です。リニアも、テスラも、ロケットも、人工衛星も、すべて同じ力学の法則の上に成り立っています。ニュースで見かける技術の話題が、少し違って見えるようになっていれば、この連載の目標は達成です。

次回予告

力学編に続く次のシリーズは「熱力学」です。エアコンはなぜ部屋を冷やせるのか、エンジンはどうやって熱を力に変えるのか。「熱」という身近な現象の裏側にある物理の世界を、一緒に覗いていきましょう。

<文/岡崎 凌>

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