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ただの平均はもう卒業!仕事の成果が劇的に変わる「平均」の使い分け術【統計学をやさしく解説】

公開日

2025年9月19日

更新日

2025年9月30日

会議で「全体の平均は?」と聞かれて、Excelの=AVERAGE()で計算して報告。
多くの人が当たり前にやっていることですが、実はその「平均」、ビジネスの状況を正しく表していないかもしれません。

「平均」にはいくつか種類があり、目的に合わせて使い分けるだけで、あなたの分析やレポートは一気にプロフェッショナルなものに変わります。

この記事では、マーケティングから製造まで、様々な職場で今日から使える「平均」のレシピをカタログ形式でご紹介します。もう「なんか数字がしっくりこない…」と悩むのはおしまいです。正しい武器を選んで、データに基づいた的確な判断ができるようになりましょう!

平均カタログ(まずは30秒で使い分けをチェック!)

「平均」と一口に言っても、実はこんなに仲間がいます。まずはどんな種類があるのか、ざっと眺めてみましょう。

目的 使う平均の種類 ひとことで言うと…
全体の真ん中をざっくり知りたい 算術平均 いわゆる普通の「平均」。まずはここから!
規模の違いをちゃんと反映したい 加重平均 売上や人数など、影響の大きさを考慮する平均。
成長率や倍率をまとめたい 幾何平均 複数年の成長率など、掛け算で変化するものに最適。
速度やレートを平均したい 調和平均 時速や処理スピードなど「単位あたり」の平均。
外れ値(極端な値)の影響をなくしたい 切断平均 上下数%の極端なデータを除外して計算する平均。
時系列データのギザギザを滑らかにしたい 移動平均 日々の細かい変動をならして、大きなトレンドを見る。

マーケティングで効く3つのレシピ

Webサイトのアクセス数やキャンペーンの効果測定など、マーケターは日々多くの数字と向き合っています。そんな場面で役立つレシピはこちら。

レシピM1|複数キャンペーンの開封率、正しく報告できていますか?

場面: 複数のメルマガキャンペーンの結果をまとめて報告したい。
落とし穴: 配信数の規模を無視して、各キャンペーンの開封率を単純に平均してしまう。
やるべきこと: 配信数(母数)の多さで重み付けをする加重平均を使いましょう。

【具体例】
・ キャンペーンA:10万通配信、開封率20%
・ キャンペーンB:1,000通配信、開封率60%

これを単純に平均すると (20% + 60%) / 2 = 40% となり、非常に高い成果に見えます。しかし、配信数の少ないキャンペーンBの影響が強く出すぎていますよね。

正しい計算(加重平均)
(10万通 × 20% + 1,000通 × 60%) / (10万通 + 1,000通) = 約20.4%

Excelなら: =SUMPRODUCT(率の範囲, 母数の範囲) / SUM(母数の範囲)

会議での一言:
「全体の開封率は、配信数を考慮した加重平均で20.4%です。こちらが実態に近い数字です。」

レシピM2|平均割引率の“見かけ”に騙されない

場面: セール全体の平均割引率を評価したい。
落とし穴: ごく少数の「90% OFF!」のような目玉商品が、平均割引率を実態以上によく見せてしまう。
やるべきこと: 売れた注文件数売上で重み付けをする加重平均を使いましょう。

【具体例】
・ 100件の注文:5%引き
・ 10件の注文:50%引き(目玉商品)

単純平均では27.5%引きですが、ほとんどの注文は5%引きです。注文件数で加重平均を計算すると 約9.1% となり、こちらの方が実態に近い数字だとわかります。

会議での一言:
「割引率の実効値は加重平均で約9.1%です。一部の大幅割引商品を除くと、全体的には緩やかな割引率でした。」

レシピM3|顧客単価(AOV)は「合計 ÷ 合計」で

場面: 店舗やチャネルを横断した全体の顧客単価(AOV: Average Order Value)を報告したい。
落とし穴: 日ごとや店舗ごとのAOVを算出し、それをさらに平均してしまう(“平均の平均”問題)。
やるべきこと: AOVはシンプルに「総売上 ÷ 総注文件数」で一発で計算しましょう。

これは、無意識に加重平均をしているのと同じことです。各日の注文件数という「重み」を自然に考慮できる、最も簡単で間違いのない方法です。

会議での一言:
「全期間のAOVは、日々の平均を平均するのではなく、総売上と総件数の合計ベースで算出しています。」


営業で効く3つのレシピ

リードから受注までのプロセス管理や、販売実績の報告など、営業部門でも「平均」の使い分けが光ります。

レシピS1|パイプライン全体の受注率(CVR)を正しく見る

場面: 顧客セグメント(例:中小企業向け、大企業向け)ごとのCVR(コンバージョンレート)をまとめて、全体のCVRを報告したい。
落とし穴: リード数の規模が全く違うのに、各セグメントのCVRを単純に平均してしまう。
やるべきこと: 全体のCVR = 総受注数 ÷ 総リード数 で計算しましょう。

【具体例】
・ 中小企業(SMB):リード数5件 → 受注1件 (CVR 20%)
・ 大企業(ENT):リード数300件 → 受注48件 (CVR 16%)

単純平均は18%ですが、リードの大部分を占める大企業向けの実績が全体の傾向を決めます。合計ベースで計算すると 約16.1% となり、これが全体の正しいCVRです。

会議での一言:
「全体のCVRは、リード数で加重した実態に近い数値で16.1%です。」

レシピS2|平均販売単価(ASP)も「合計 ÷ 合計」で

場面: 価格帯の違う複数製品やセグメントを合算したASP(Average Selling Price)を算出したい。
落とし穴: マーケのAOVと同様、セグメントごとのASPを単純に平均してしまう。
やるべきこと: ASP = 総売上 ÷ 総販売数量 で計算しましょう。

これも「平均の平均」を避けるための鉄則です。

会議での一言:
「全体のASPは、各セグメントの合算から直接計算しています。」

レシピS3|「処理速度」の平均は要注意!

場面: メンバーの架電数や商談数など、「時間あたりの処理件数」の平均を出したい。
考え方: 速度の平均には調和平均という特殊な平均を使います。

【具体例】
Aさんは30件/時、Bさんは60件/時のペースで電話をかけられるとします。二人の平均速度は何件/時でしょうか?
単純に平均すると45件/時ですが、これは間違い。

もし「2人が同じ量のタスク(例: 60件の電話)をこなす」と仮定すると、
・ Aさん:2時間
・ Bさん:1時間
・ 合計:2人で120件を3時間で処理 → 120件 ÷ 3時間 = 40件/時

これが調和平均の考え方です。

Excelなら: =HARMEAN(速度の範囲)

会議での一言:
「時間あたりの処理速度を平均する際は、調和平均を用いて算出しています。」


人事(HR)で効く3つのレシピ

従業員の残業時間や離職率など、人事部門が扱うデータには、個人の状況が大きく反映されます。

レシピH1|残業時間の「普通」を知るには?

場面: 一部の長時間残業者がいるため、部署の平均残業時間が実態より高く見えてしまう。
やるべきこと: 切断平均(TRIMMEAN)で、上下の極端な値を除外して「普通の人の平均」を把握しましょう。

【具体例】(10人の残業時間)
0, 5, 10, 10, 12, 12, 15, 18, 20, 60
普通の算術平均だと 16.2時間 ですが、60時間の人が一人いるだけで大きく引き上げられています。

ここで、上下10%ずつ(この場合、最小の0時間と最大の60時間)を除外して計算する「切断平均」を使うと、12.75時間となります。こちらの方が、多くの従業員の実態に近い感覚ではないでしょうか。

Excelなら: =TRIMMEAN(範囲, 0.2) ※0.2は上下10%ずつ(合計20%)を除外するの意味

会議での一言:
「全体の平均残業は16.2時間ですが、極端な例を除いた切断平均では12.8時間です。まずは突出した従業員への対策と、全体の改善策を分けて議論しませんか。」

レシピH2|部門ごとの離職率、どうまとめる?

場面: 人数の違う複数部門の離職率をまとめて、全社離職率を報告したい。
落とし穴: 従業員数を無視して、各部門の離職率を単純平均してしまう。
やるべきこと: 全社離職率 = 総離職者数 ÷ 総在籍者数 で計算しましょう。

もうお馴染みですね。これも規模の違いを考慮する「加重平均」の一種です。

会議での一言:
「従業員数で加重した全社離職率は3.2%となります。」

レシピH3|研修の完了率も加重平均で正確に

場面: 拠点ごとに受講者数が違う研修の、全体の完了率を算出したい。
やるべきこと: 各拠点の受講者数で重み付けをした加重平均を使いましょう。

受講者が多い拠点の完了率が、全体の完了率に大きく影響するのが自然ですよね。

会議での一言:
「実効完了率は、受講者数で加重平均を算出しXX%です。受講者の多い拠点の影響を反映しています。」


製造で効く3つのレシピ

生産ラインの効率や品質管理など、製造現場では少し特殊な平均が活躍します。

レシピF1|生産ラインの平均速度は調和平均で

場面: 複数のラインで同じ製品を生産しているが、それぞれの生産速度が違う。全体の平均速度は?
やるべきこと: 営業のレシピS3と同じく、速度の平均には調和平均を使います。

【具体例】
・ ラインA:30ユニット/時
・ ラインB:60ユニット/時
→ 平均速度は調和平均40ユニット/時 となります。

会議での一言:
「各ラインの処理量が同じだと仮定した場合、全体の平均速度は調和平均で算出するのが適切です。」

レシピF2|工程全体の歩留まりは「掛け算」の世界

場面: 複数の工程を通る製品の、全体の歩留まり(良品率)を評価したい。
やるべきこと:
総合歩留り:各工程の歩留まりを単純に掛け算する。
工程の“代表的な”歩留り幾何平均を使う。

【具体例】
工程1(90%) → 工程2(95%) → 工程3(80%) と進む場合、
総合歩留り = 0.90 × 0.95 × 0.80 = 68.4%
幾何平均 = (0.90 × 0.95 × 0.80) の3乗根 ≒ 88.1%

これは「もし全工程が同じ歩留りだとしたら、約88.1%になる」という意味で、各工程のパフォーマンスを代表する一つの指標として使えます。

Excelなら: 総合歩留まり =PRODUCT(範囲) / 幾何平均 =GEOMEAN(範囲)

会議での一言:
「総合歩留りは各工程の積で68.4%です。参考までに、各工程の代表値として幾何平均を見ると88.1%でした。」

レシピF3|日々の欠陥率のブレは移動平均でならす

場面: 日々の欠陥率データが細かく変動しすぎて、傾向が読み取りにくい。
やるべきこと: 移動平均(例:過去7日間や28日間の平均)を計算し、グラフに重ねて表示しましょう。

日々のギザギザした折れ線グラフが滑らかになり、「最近、上昇傾向にあるな」「月初の調子がいいな」といった大きなトレンドを掴みやすくなります。

Excelなら: =AVERAGE(今日のセル:過去6日間のセル) を計算し、下の行へコピー

会議での一言:
「日々の変動をならすため、7日移動平均線を重ねました。これを見ると短期的な上昇トレンドが確認できます。」


「平均の罠」と会議前のチェックリスト

最後に、よくある失敗例と、報告前に確認すべきチェックリストをまとめました。

よくある5つの罠

  1. 平均の一人歩き:平均値だけを報告すると、実態を見誤る。→ 中央値や最大・最小値もセットで伝えよう。
  2. 母数(規模)の無視:割合や率を単純に平均してしまう。→ 加重平均を使おう。
  3. 平均の平均:部門ごとの平均値を、さらに平均してしまう。→ 「総数 ÷ 総数」で計算し直そう。
  4. 速度の罠:時速などのレートを単純に平均してしまう。→ 調調和平均を思い出そう。
  5. シンプソンのパラドックス:セグメント別で見るとA社が良いのに、全体で見るとB社が良い、という逆転現象。→ セグメントと全体、両方の視点から報告しよう。

会議前5項目のチェックリスト

  • ✅ その数字の分母(単位)は何?(人? 件? 時間?)
  • ✅ 規模の違いを考慮する必要はある?(→ 加重平均)
  • ✅ 極端に大きい、または小さい値は混じっていない?(→ 切断平均)
  • ✅ 「率」を平均していない?(→ 合計から再計算)
  • ✅ 時系列データがギザギザしていない?(→ 移動平均)

コピペOK:Excel スニペット

すぐに使える関数とコードです。ぜひ試してみてください。

Excel

用途 関数
加重平均 =SUMPRODUCT(値の範囲, 重みの範囲)/SUM(重みの範囲)
切断平均(上下10%ずつカット) =TRIMMEAN(範囲, 0.2)
幾何平均(成長率、歩留り) =GEOMEAN(範囲)
調和平均(速度) =HARMEAN(範囲)
移動平均(過去7日間) =AVERAGE(今日のセル:過去6日間のセル)

まとめ:明日から、あなたの「平均」が変わる

いかがでしたか?
「平均」という一つの言葉にも、目的に応じて様々な使い方があることがお分かりいただけたかと思います。

最後に、会議で即使える言い回しをおさらいしましょう。

加重平均で見ると、実効開封率は20.4%です。」

合計から直計算したAOV(顧客単価)は○○円です。」

「極端な例を除いた切断平均は12.8時間です。まずは重症者対策から始めませんか。」

「速度の平均なので、調和平均を用いています。」

正しい「平均」を使いこなせば、あなたの分析と提案は、より説得力を増すはずです。
ぜひ、明日からの仕事に「平均のレシピ」を取り入れてみてください!

<文/綱島佑介>

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