データ尺度のキホン-第3回:“0”の意味で変わるデータの世界【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年10月27日
更新日
2025年12月2日
この記事の主な内容
はじめに
第2回では、名義尺度と順序尺度の違いについて学びました。どちらも“質的データ”でしたが、今回からは“量的データ”の世界に進みます。
データの世界では「0」という数字が特別な意味を持ちます。0が「まったく存在しない」ことを示す場合もあれば、単に「基準点」を示すだけの場合もあるのです。この違いが、分析方法や結論の導き方を大きく左右します。
今回のテーマは、数値データの中でもよく混同される 間隔尺度 と 比例尺度。実務でよく使う「気温」「売上」「時間」などのデータを例に、0の意味を中心にやさしく解説します。
1. 間隔尺度とは──差は意味があるが、比は意味がない
間隔尺度とは、「数値の差」は意味を持つけれど、「比率」は意味を持たないデータのことです。
代表的な例が 気温(摂氏や華氏) です。
たとえば、10℃と20℃の差は「10℃の差がある」といえますが、20℃は10℃の“2倍暑い”とはいえません。なぜなら、0℃は「まったく温度がない」という意味ではなく、単に水が凍る基準点だからです。
特徴まとめ:
・0は「任意の基準点」
・差の計算(足し算・引き算)はOK
・比率(割り算)はNG
実例:
・気温(℃)
・日付(例:1月1日〜1月2日の差=1日)
・カレンダー上の時間(午前9時と午後3時の差=6時間)
摂氏温度とケルビン温度の比較(0の意味の違い)
摂氏温度(℃)
水が凍る温度
水が沸騰する温度
※ 0℃は「温度がない」わけではなく、水の凍る基準点です。
ケルビン温度(K)
絶対零度(すべての分子運動が停止)
=0℃
※ 0Kは「エネルギーが完全にない状態」を意味します。
👉 ポイント: 摂氏の0℃は「基準点」、ケルビンの0Kは「絶対的なゼロ」。
同じ“0”でも意味が異なるため、比率計算(2倍・半分など)には使えません。
2. 比例尺度とは──差も比も意味がある
比例尺度は、0が「まったく存在しない」ことを意味するデータです。したがって、差の計算も比の計算もどちらも可能です。
たとえば、売上0円は「1円も売れなかった」ことを意味します。この場合、A店の売上が100万円でB店が50万円なら、「A店はB店の2倍売れている」と正しく表現できます。
特徴まとめ:
・0は「絶対的な基準点」
・差も比も計算できる
・平均・標準偏差などあらゆる統計処理が可能
実例:
・売上・利益・費用
・身長・体重
・経過時間・距離
売上データの比較(比例尺度の例)
B店
50万円
A店
100万円
※0円を基準とし、A店(100万円)はB店(50万円)の2倍の売上。
比率が意味を持つのは、0が“絶対的な基準点”である比例尺度だからです。
3. 間隔尺度と比例尺度の違いを比較
| 項目 | 間隔尺度 | 比例尺度 |
|---|---|---|
| 0の意味 | 任意の基準点(相対的) | 絶対的なゼロ(存在しない状態) |
| 差の計算 | 可能 | 可能 |
| 比の計算 | 不可 | 可能 |
| 代表例 | 摂氏温度・日付 | 売上・体重・距離 |
間隔尺度と比例尺度の比較
間隔尺度(℃)
0℃は「温度がない」ではなく、
水が凍る基準点。
0円が「絶対的なゼロ」。
A店はB店の2倍の売上。
👉 左の温度計(間隔尺度)は“基準点”としての0℃、右の売上棒グラフ(比例尺度)は“存在しない”を示す0円。
同じ「0」でも意味がまったく異なります。
4. 実務での注意点:「比」を使うときの落とし穴
間隔尺度を比例尺度のように扱うと、誤った結論を導くリスクがあります。
例:気温が10℃から20℃に上がったとき、「2倍暖かい」と言うのは誤り。
しかし、売上が50万円から100万円に上がったとき、「2倍になった」と言うのは正しい。
この違いを無視すると、レポートやプレゼンで数字の解釈を間違える危険があります。
ビジネス現場での実践ヒント:
・「2倍」「半分」などの表現は比例尺度にのみ使う。
・気温や日付などは、差で表現する(「10℃上がった」「2日後」など)。
・ExcelやBIツールで自動的に計算される比率にも注意!
正しい表現と誤った表現の比較(間隔尺度の理解)
❌ 誤った表現(比)
「20℃は10℃の2倍暖かい」
→ 比率で比較してしまうのは誤り。
摂氏温度の0は基準点であり、絶対的なゼロではありません。
⭕ 正しい表現(差)
「10℃上昇した」
→ 差(上昇・変化)で表すのが正解。
間隔尺度では“差”にのみ意味があります。
同じ温度データでも、「比」ではなく「差」で表すことが重要です。
間隔尺度を比例尺度のように扱うと、誤った解釈をしてしまいます。
5. まとめ:“0”の意味を見極める力がデータリテラシーの第一歩
間隔尺度と比例尺度は、一見似ていますが「0の意味」が根本的に異なります。
| 比較観点 | 間隔尺度 | 比例尺度 |
|---|---|---|
| 0の意味 | 任意の基準点 | 絶対的なゼロ(存在しない状態) |
| 計算できること | 差のみ | 差と比の両方 |
| 使用例 | 気温・日付・時間(時計) | 売上・距離・体重・経過時間 |
この違いを理解すると、数字を見た瞬間に「これはどんな尺度のデータか」を判断できるようになります。それが、ビジネスで“データを使いこなす人”への第一歩です。
次回はシリーズ最終回として、4つの尺度(名義・順序・間隔・比例)を総まとめし、「尺度別に正しい分析手法を選ぶコツ」を解説します。
<文/綱島佑介>





