データ尺度のキホン-第2回:“名前”と“順位”の違いを理解しよう【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年10月26日
更新日
2025年12月2日
この記事の主な内容
はじめに
前回は、データには「質的」と「量的」があり、さらに4つの“測定尺度”があることを学びました。今回はその中から、名義尺度と順序尺度を取り上げます。
この2つはどちらも“質的データ”に分類されますが、扱い方を間違えると分析結果が大きくズレてしまいます。この記事では、社会人でもすぐにイメージできる具体例を使って、違いをやさしく解説します。
1. 名義尺度とは──「名前」で分類するだけのデータ
名義尺度とは、数字が“名前”や“ラベル”としての役割しか持たないデータのことです。数値に意味や順序はありません。
たとえば:
部署:営業部=1、開発部=2、総務部=3
性別:男性=1、女性=2
都道府県:東京=1、大阪=2、福岡=3
これらの“1”“2”“3”には順位の意味はなく、単に分類するためのラベルです。したがって、平均や差を取ることはできません。
例)「部署番号の平均=2.1」と出ても、“平均的な部署”なんて存在しません。
名義尺度では、「どのグループに属するか」や「それぞれの割合」を調べるのが正しい使い方です。
活用できる分析例:
・最頻値(最も多いカテゴリ)
・クロス集計(例:男女×購買率)
・円グラフ・棒グラフで割合を可視化
部署ごとの構成比(名義尺度の例)
開発部
総務部
※この円グラフはラベルの違いのみを示し、大小の意味を持たせていません。
2. 順序尺度とは──“順番”に意味があるデータ
順序尺度は、順番には意味があるけれど、差の大きさや比率には意味がないデータのことです。
たとえば:
アンケートの満足度:とても満足=5、満足=4、普通=3、不満=2、とても不満=1
商品ランク:Aランク・Bランク・Cランク
学年:1年生、2年生、3年生
これらは「どちらが上か下か」は分かりますが、「どれだけ上か」は分かりません。たとえば“満足度5と4の差”と“4と3の差”が同じとは限りません。
「A社の満足度4.5点はB社の3.0点より50%高い!」→ これは誤りです。
順序尺度では、“傾向”や“順位の関係”を見ることが重要です。
活用できる分析例:
・中央値や順位を用いた比較
・順位相関(スピアマン相関など)
・棒グラフで順位傾向を視覚化
3. 名義尺度と順序尺度の違いを一目で理解
| 尺度 | 意味 | 比較できること | 代表的な例 | 適したグラフ |
|---|---|---|---|---|
| 名義尺度 | 名前・分類 | 同じ or 違う | 性別・部署・血液型 | 円グラフ・棒グラフ |
| 順序尺度 | 順位・ランク | 大小関係のみ | 満足度・学年・ランク | 棒グラフ・ヒストグラム |
4. よくある誤解:「平均点」は本当に意味がある?
アンケート分析でよく見る「平均満足度4.2」という数値。実はこれ、順序尺度を“間隔尺度”のように扱った近似なのです。
ビジネス現場では平均を出すことも多いですが、解釈には注意が必要です。
・平均点は“ざっくり傾向”を見るには便利。
・でも、「1上がる=同じ満足度差」とは限らない。
正確に比較したい場合は、「5段階評価を“満足・不満”など2値に分けて割合比較」する方が正確です。
補足例:
「平均満足度が4.2→4.5に上がった」と言っても、顧客全体の満足度が大きく変わったとは限らない。
“とても満足”の割合が増えたのか、“不満”が減ったのかを確認する必要があります。
5. まとめ:名前と順位の違いを意識する
名義尺度と順序尺度は、「数字が持つ意味の深さ」が違います。この違いを意識できると、日常業務の中で「データをどう扱うべきか」が見えてきます。
たとえば、社内アンケートや顧客調査では「順位を示すデータ」と「分類を示すデータ」が混在していることが多く、分析ミスの原因にもなります。今回学んだように、名義尺度は“グループを分ける”、順序尺度は“順番をつける”もの。目的に応じて正しく使い分けることが、信頼できるデータ分析への第一歩です。
| 観点 | 名義尺度 | 順序尺度 |
|---|---|---|
| 数字の意味 | 名前・分類のラベル | 順番・序列を示す |
| 平均・差の扱い | 不可 | 限定的(傾向をみる程度) |
| 主な使い方 | 割合・クロス集計 | 順位比較・傾向把握 |
この2つの尺度は、データ分析の「基礎の土台」となる概念です。これを理解しておくことで、次に扱う「間隔尺度」「比例尺度」など、より数値的な分析へとスムーズに進めるようになります。
次回は、数値データの中でも“0の意味”が異なる「間隔尺度」と「比例尺度」を解説します。
<文/綱島佑介>





