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データの散らばりとは?-第3回 分布の形を読む【統計学をやさしく解説】

公開日

2025年10月11日

更新日

2025年11月11日



はじめに:データの“かたより”が語るもの


シリーズ「データの散らばりとは?」もいよいよ最終回です。第1回では範囲と分散、第2回では標準偏差を取り上げました。そして今回は、データ全体の“形”に注目して、分布のかたより(歪み)を読み取る方法を解説します。

たとえば、ある会社の年収データや商品の販売個数などをグラフにしたとき、「平均よりも右に山がある」とか「左に長い尾を引いている」といった形になることがあります。これがデータの“歪み”です。平均値だけでは見えない、データの性格や構造がここに隠されています。


分布の形を決める3つの代表的な要素

分布の形は大きく次の3つの要素で特徴づけられます:

(付記:英語では平均値はしばしば「average」と訳されますが、統計学的には「mean」と区別されます。averageは「一般的な平均」を広く指し、meanは統計的に定義された算術平均を意味します。)

平均値(mean):データ全体の中心の位置。

中央値(median):データを並べたときの真ん中の値。

最頻値(mode):もっともよく出てくる値。

これらの位置関係を見ることで、分布が「右に傾いているのか」「左に傾いているのか」がわかります。


正規分布:理想的なバランス型

まず、もっともよく知られているのが正規分布(せいきぶんぷ)です。左右対称のきれいな山型で、平均=中央値=最頻値がほぼ同じ位置にあります。

正規分布は「バランスの取れたデータ」の象徴であり、多くの自然現象や人の能力・テスト結果・製品寸法などがこの形に近い分布を示します。


右に歪む分布(右裾が長い)

「右に歪む(みぎにゆがむ)」分布は、多くのデータが左側(小さい値)に集まり、一部の大きな値が右に伸びている状態を指します。たとえば年収データがその典型です。多くの人は中間〜やや低めの範囲に集中し、ごく一部の高所得者が全体の平均を押し上げます。

■ 最頻値 < 中央値 < 平均値

つまり、平均値は実際の“典型的な値”よりも高く見えてしまうのです。


左に歪む分布(左裾が長い)

一方で「左に歪む(ひだりにゆがむ)」分布は、多くのデータが右側(大きい値)に集まり、一部の小さい値が左に伸びている形です。たとえば従業員の退職年齢や、商品の寿命データなどがこれにあたります。

■ 平均値 < 中央値 < 最頻値

平均が実際よりも低く見えやすく、データの“下方向の偏り”が見えてきます。


歪度と尖度:分布の形を数値で表す

「右に歪んでいる」「左に歪んでいる」といった特徴を、数値で表す指標もあります。代表的なのが以下の2つです:

歪度(skewness):分布の非対称性を表す。右に歪むとプラス、左に歪むとマイナス。

尖度(kurtosis):分布の“山のとがり具合”を表す。値が大きいほど鋭く、値が小さいほど平ら。

ただし、これらはあくまで統計的な分析用の補助指標です。実務では、グラフで形を確認するだけでも十分な判断材料になります。


ビジネスで活用する視点

データの分布の形を読む力は、ビジネス判断の精度を高めます。以下のような場面で効果的です:

売上や利益分布の分析

平均値だけを見て「うまくいっている」と判断すると、極端な高売上案件に引っ張られて全体像を誤解する危険があります。分布を見れば「安定しているのか、偏っているのか」が明確にわかります。

顧客層の偏りを発見

購買金額の分布を描くと、“一部のロイヤル顧客に依存している”など、売上構造の偏りが見えることがあります。

業務パフォーマンス評価

従業員ごとの成果分布を見れば、平均だけではわからない育成の方向性や、チーム内のばらつきを可視化できます。



まとめ:分布の形を見ると“データの性格”がわかる

分布の形は、データの性質を直感的に理解するための強力なヒントです。正規分布なのか、右に歪んでいるのか、左に歪んでいるのか——この違いを読み解くだけで、平均値に潜む“真の傾向”が見えてきます。

さらに、このような分布の形を確認するためには、グラフ化が非常に重要です。特にヒストグラムや箱ひげ図などを作成すると、数値だけでは気づかない偏りや広がりを視覚的に把握できます。実際のビジネスデータでも、まず分布を描いてみることが理解への第一歩です。

統計学のゴールは、単に数値を出すことではなく、データの意味を正しく読み取る力をつけることです。今回で「データの散らばり」シリーズは完結ですが、ぜひ実際のビジネスデータで「分布の形」を意識してみてください。

<文/綱島佑介>

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