統計検定準1級を振り返る(2021年6月20日実施分)
公開日
2021年8月13日
更新日
2021年8月13日
この記事の主な内容
1.はじめに
こんにちは。和から講師の永井です。前回の記事では直近に行われた統計検定2級の試験概要をご紹介しましたが、引き続き今回は統計検定準1級の試験概要について振り返っていきます。
準1級は2級までの基礎知識を基に、より自然科学や人文社会科学への応用分析を問う試験であり、統計学の応用知識をしっかり持ち合わせていることが必要であり、難関資格の一つとされています。
2021年6月20日に実施された統計検定準1級の問題が公開されましたので試験内容のダイジェストと簡単なコメントをまとめました。下記URLより、問題参照のうえ、どのようなことが問われるのか?といった学習に役立ててもらえれば幸いです。
試験問題・回答はこちらからダウンロードできます(2021年6月20日受験データページ)
また、7月27日よりCBT(コンピューター)形式の試験も開始されたので、1年に1回でなく必要に応じて受験も可能となりました。
2.各設問の概要とコメント — 2021年6月20日実施 統計検定準1級(マーク28問、部分記述7問、論述3問中1問選択)—
問1 確率・ベン図の基本問題(部分記述)
条件付き確率や3集合の包除定理を用いた確率の計算問題です。2級範囲の問題レベルなので、ウォーミングアップといったところでしょうか。
問2 指数分布の最尤推定、デルタ法(部分記述)
指数分布の分散計算によって求まったパラメータを最尤法によって推定し漸近分布を求める誘導付きの問題です。(2)で一瞬何をしたらいいか迷った方が多いと思われます。デルタ法の計算は公式テキストの問題にも載っています。
問3 3変量多次元正規分布の問題(マーク)
多次元正規分布の和や差、条件付き期待値・分散を問う問題です。(2)の条件付き分散は統計検定1級の試験でも問われてもおかしくない1問といえます。
問4 線型モデル・最小二乗推定量・尤度比検定(マーク)
切片のない単回帰分析の回帰係数に関する最小二乗推定の問題です。ベクトル・行列表記に戸惑った方も多いかと思います。2級までの理解と数学的意味を勉強していたかが問われてます。尤度比検定の問題は露骨に計算すると大変なので、マークから絞ります。
問5 一般化最小二乗推定(マーク)
一般化最小二乗推定と通常の最小二乗推定の違いを問う良問です。決定係数は散布図のグラフから正しく選べたかがポイントとなります。
問6 フィッシャーの線形判別関数(マーク)
線形判別関数に関する基本問題です。平方和の分解公式の確認に加え、2×2行列の固有値、固有値ベクトルの計算問題初めて出題されました。(ディープラーニング)E検定を意識した1問といえます。
問7 重回帰分析のモデル選択(マーク)
モデル選択に関する総合的な問題です。正規分布の密度関数を用いた記述や定番のAICやBIC、交差検証法の基礎から計算所要時間を考える良問です。
問8 効果量とサンプルサイズ 設計(マーク)
平均の差の検定に関する効果量とサンプルサイズの決定問題です。試験レベルは2級範囲の内容ですが、問題の書き方からするとそれ以上に感じられたかもしれません。
問9 因子分析(マーク)
アンケートデータの探索的因子分析に関する問題です。逆転項目の解釈とプロマックス回転の意味が分かっていれば直感的に回答することが可能です。
問10 時系列分析(マーク)
お馴染みのARMAモデル全般に関する推定やコレログラムの選択問題です。スペクトラム密度は初めて出てきた問題ですが、公式テキストでの予習が重要だったといえるでしょう。
問11 AutoEncoder(マーク)
主成分分析によるニューラルネットワークの解釈と用語問題です。ニュラールネットワークの出題は初めて出ましたが、(ディープラーニング)G検定〜E検定の試験範囲レベルで解ける問題です。
問12 相関係数の検定(記述)
2変量正規分布に従うデータにおける相関係数の検定問題です。t分布に従うことを利用する話題ですが、2級の公式テキストにも使われている手法なので、単回帰分析の勉強の延長と言えるでしょう。
論述問1 確率過程とマルコフ連鎖、マルチンゲール
確率過程の各状況に応じて、それがマルコフ連鎖かマルチンゲールかの真偽を示す問題です。例を考える必要があるため、問題自体はシンプルですが、計算時間がかかります。
論述問2 ベイズ統計
ベイズ推定によるモデリングの計算問題です。前半はベータ分布によるベイズ更新の計算とMAP推定の計算問題で後半は正規分布の事後推定による計算問題です。2019年の過去問マーク問題に類題があります。
論述問3 欠損データの単回帰モデル
欠損値を含むデータの回帰分析に関する問題です。問のほとんどが傾きの不偏性を示す問題で、繰り返し期待値の公式を使い証明していく問題のため、それに気づくかがポイントと思われます。
—
3.総括
回帰分析に関する出題が非常に多かったのが特徴と言えます。加えて、ベクトルや行列の数学的表記も多く、2級までにやってきた考え方を数学的にも応用させていけるか?が学習のモチベーションとなります。
例年、「統計検定準1級は全体的に難化した」「過去問と全然違っていた」といった声を多く聞きます。従来の問われていた問題が解けることに加え、あまり試験として扱ってこなかったトピックにも注目して、幅広く本質的な理解と演習力が求められます。独学だとそれがなかなか難しいのがこの試験の大きな特徴といえるでしょう。
出題されても大丈夫な分野をしっかり固めながら、周辺分野を効率よく学んでいく心構えが重要です。CBT試験に移行する今後もその心構えは変わりません。
統計検定対策講座
<文/永井>
---
統計検定公式の過去問題集も販売されています。ご興味がある方は一度手に取ってみてください。
お問い合わせはこちらから。お問い合わせページへ